8 / 368
異世界<日本>編
歩み寄り 1
しおりを挟む
「はぁ、はぁ、はぁ…」
走り過ぎて呼吸が苦しい。喉の奥から鉄の味が込み上げてくる。
「げほっ」
咳をして足を止める。こんなに走ったのいつ以来だろ。暴れる心臓に手を当てて座り込む。
息が苦しい。違う、苦しいのは胸の方だ。
「そりゃ関心がないのはわかってたけどさ…」
激しい怒りが引いた後は、ただ空しい。
本当にヴォルフにとってどうでもいい存在なんだって思い知る。
「あー、きもち悪い…」
走り過ぎた。元々あまり身体を動かすのは得意じゃないのに、無理をした。
おかげで魔力の暴走は避けられたけれど。
初等科すら通ったことのない平民の娘が王位第一継承者の双翼になったというのはずいぶん王宮を騒がせた。
生まれや経歴を論う人間は後を絶たない。一緒に働いていたら普通気づく。
うぬぼれでなく、マリナのことは知ってて当然だった。まさか知らない人間が、こんなに身近にいるなんて…。
王子ですら知っていたのに。
「無関心にも程がある…」
あまりの衝撃…、と怒りに魔力が暴走しかけた。
自分もダメだな、と心で反省する。そもそもヴォルフをあの姿にしたのも感情に起因する魔力の暴走が原因だっていうのに。
「ダメだな、私は」
こんなに自分の力をコントロールできないなんて。
魔術師にとって力を制御できないのは恥以外の何物でもない。
原因までわかっていてもどうにもできなかった。
ヴォルフが絡むとうまく感情が制御できない。
気にして欲しいわけじゃない。それでも腹立たしく感じるのは仕方がなかった。
すぐに帰る気にはなれず、このままどこかへ行こうかと考えたところで思い出す。
「あ、しまった」
サイフを忘れてきた。お金がなかったら遠くへはいけない。
「なにやってんだか…」
溜息を吐いて額に手を当てる。飛び出してくるならサイフも持ってくるべきだった。
「仕方がないから散歩でも行くかな」
歩くだけならお金はかからない。平日に外を歩くのはあまり好きじゃないけれど、戻るって選択肢はない。
声を掛けられなさそうな場所を求めて歩き出した。
走り過ぎて呼吸が苦しい。喉の奥から鉄の味が込み上げてくる。
「げほっ」
咳をして足を止める。こんなに走ったのいつ以来だろ。暴れる心臓に手を当てて座り込む。
息が苦しい。違う、苦しいのは胸の方だ。
「そりゃ関心がないのはわかってたけどさ…」
激しい怒りが引いた後は、ただ空しい。
本当にヴォルフにとってどうでもいい存在なんだって思い知る。
「あー、きもち悪い…」
走り過ぎた。元々あまり身体を動かすのは得意じゃないのに、無理をした。
おかげで魔力の暴走は避けられたけれど。
初等科すら通ったことのない平民の娘が王位第一継承者の双翼になったというのはずいぶん王宮を騒がせた。
生まれや経歴を論う人間は後を絶たない。一緒に働いていたら普通気づく。
うぬぼれでなく、マリナのことは知ってて当然だった。まさか知らない人間が、こんなに身近にいるなんて…。
王子ですら知っていたのに。
「無関心にも程がある…」
あまりの衝撃…、と怒りに魔力が暴走しかけた。
自分もダメだな、と心で反省する。そもそもヴォルフをあの姿にしたのも感情に起因する魔力の暴走が原因だっていうのに。
「ダメだな、私は」
こんなに自分の力をコントロールできないなんて。
魔術師にとって力を制御できないのは恥以外の何物でもない。
原因までわかっていてもどうにもできなかった。
ヴォルフが絡むとうまく感情が制御できない。
気にして欲しいわけじゃない。それでも腹立たしく感じるのは仕方がなかった。
すぐに帰る気にはなれず、このままどこかへ行こうかと考えたところで思い出す。
「あ、しまった」
サイフを忘れてきた。お金がなかったら遠くへはいけない。
「なにやってんだか…」
溜息を吐いて額に手を当てる。飛び出してくるならサイフも持ってくるべきだった。
「仕方がないから散歩でも行くかな」
歩くだけならお金はかからない。平日に外を歩くのはあまり好きじゃないけれど、戻るって選択肢はない。
声を掛けられなさそうな場所を求めて歩き出した。
0
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる