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最終章
これからもずっと
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城壁から見える王都は祝い事に浮かれ、まだ休む様子がない。
普段は暗い地区にも明かりが灯されていて、祭りが続いていることが窺えた。
祝宴を抜けて外に出てきたマリナは城壁に座って王都を眺めていた。酒に上気した頬に当たる風が心地よい。
夜中から始まった宴会は終わる気配を見せず、盛り上がっている。
もう少ししたら解散するだろうけれど、それを待たずにこっそり抜けてきた。
皆王子の結婚を祝う会だからといって羽目を外し過ぎじゃないかな。
星が瞬く空を見上げて深く息を吸う。
少しだけひんやりした空気が熱くなっていた身体を冷やしていく。
明けかけた群青の空に白が混じる。
「ここにいたのか」
聞きなれた声の方を向くと同じように祝宴を抜けてきたヴォルフが立っていた。
「うん、ヴォルフも抜けてきたの?」
「ああ、まだ終わりそうになかったからな」
微笑むヴォルフがマリナの前まで歩いてくる。
「終わったね」
目の前に立ったヴォルフの肩に頭を乗せる。
城壁に座っていると高さが丁度良い。普段は届かない肩を引き寄せてくっつくと暖かさと幸せがじわじわと伝わってきた。
「ようやくだな」
感無量といった様子でヴォルフも呟く。
「うん、ほっとした」
奔走していた分、脱力感も大きい。
何事もなく終えられた安堵とやりきった充実感。
なんか気が抜けた感じがする。
こうして気を抜いていられるのも今だけだけど。
明日からはいつもと同じようで少し違う毎日が始まる。
顔を上げると先程よりも空が明るくなっていた。
「きれいよね、ここから見る王都が一番好き」
夜が明けるときの空の色はとても美しい。
街の明かりが日の光に馴染んで見えなくなっていく。
わずかな間に色を変えていく空に目を逸らせないでいると、頬に硬い手が触れた。
「マリナ」
真剣でいて優しい、甘い声。
視線を降ろすと穏やかな黒い瞳と視線が合った。
「なに?」
返す言葉も穏やかに甘い。
柔らかに緩む視線でヴォルフを見つめると頬にくちづけが落とされる。
「これからも同じ景色を見ていきたい。 誰よりも隣で」
改めて言われずともマリナも同じ気持ちだ。
「私もよ。 同じものを見て、こうして感じたことを伝えたい」
空がきれいだとか、触れ合う手が暖かいとか。
顔を合わせる度に昔よりもずっとずっと好きだと思ってるとか、全部伝えたい。
「ヴォルフ?」
呼びかけると瞳が甘く細められる。
「なんだ?」
ちょっと恥ずかしいけれど、今伝えたい。
「結婚してくれる? 近いうちに」
虚を突かれたように目を見開くヴォルフの表情が苦笑に変わる。
「それはこちらのセリフだ。 王子の結婚式が終わるまではと待ってたんだからな」
「うん」
ヴォルフはいつもそうだった。
マリナが迷ったり周りが見えなくなってるときは黙って側で見守っていてくれる。
「一刻でも早く式を挙げたいと言ったら笑うか?」
あまりに意外な台詞に笑みが零れた。
「ふふ、笑うけど私も同じ気持ちかな」
うれしくて、笑わずにいられない。
「結婚してほしい、マリナ。
この先もずっと俺の隣にいてくれ、妻としても片翼としても」
改めての求婚の言葉に続いた台詞に息を呑み、全力で頷く。
「……! うん!!」
一番欲しい言葉をくれたヴォルフに満面の笑みで答える。
うれしくてヴォルフの頬にくちづける。うれしさが溢れて笑みが止まらない。
ヴォルフも同じように笑みを浮かべている。
「感謝のくちづけもうれしいが、別の場所に欲しい」
頬に添えられた手が頬を撫で、髪を梳く。
髪、額、頬とあちこちに落とされるくちづけに顔が熱をもっていく。
潤む瞳で見上げると抑えられないというようにくちびるを塞がれた。
「……っ、……!? …………!!」
真っ赤な顔で睨みつけると嬉しそうに瞳を緩ませる。
離れていった後も熱の名残が残る唇で発した抗議には我ながら力がなかった。
「……飛ばし過ぎ」
呼吸を整えるのがやっとで視線を落としたまま文句を言う。
「悪かった、じゃあ続きは夜な」
返ってきたのは悪びれないくちづけと耳元への囁きだった。
「朝から何言ってんのよ!」
朝日が昇ったばかりの空に響く怒声にヴォルフの笑い声が重なる。
大きくなる笑い声に腕組みをして睨んでいたマリナも毒気が抜かれてしまって最後には笑ってしまった。
「じゃあ仮眠したら執務室に行くわ」
流石に眠い。昨日も途中で仮眠はしたけれど、寝不足に変わりはない。
幸せ一杯の王子が執務室に来る前にできるだけ仕事を片しておきたかった。
「そうだな。 王子も早く仕事を切り上げたいだろうし、一週間くらいは内務卿が執務時間を短くできるよう調節してくれてるんだろう?」
「だから細々したことだけでもこっちで片しておかないとね」
どうしても王子でなきゃいけないものだけ執務時間に集中して処理してもらえばいい。
短く今日の予定を擦り合わせ、それぞれ動き出す。
こんな日がこれからもずっと続いていく。
それこそが幸せなことだと思う。
そんな幸せをマリナは実感していた――――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
『双翼の魔女は異世界で…!?』はこれにて完結です。
とても長くなりましたが、ここまで見てくださってありがとうございました!!
皆さんのおかげでここまで続けられました! 本当にありがとうございます!
普段は暗い地区にも明かりが灯されていて、祭りが続いていることが窺えた。
祝宴を抜けて外に出てきたマリナは城壁に座って王都を眺めていた。酒に上気した頬に当たる風が心地よい。
夜中から始まった宴会は終わる気配を見せず、盛り上がっている。
もう少ししたら解散するだろうけれど、それを待たずにこっそり抜けてきた。
皆王子の結婚を祝う会だからといって羽目を外し過ぎじゃないかな。
星が瞬く空を見上げて深く息を吸う。
少しだけひんやりした空気が熱くなっていた身体を冷やしていく。
明けかけた群青の空に白が混じる。
「ここにいたのか」
聞きなれた声の方を向くと同じように祝宴を抜けてきたヴォルフが立っていた。
「うん、ヴォルフも抜けてきたの?」
「ああ、まだ終わりそうになかったからな」
微笑むヴォルフがマリナの前まで歩いてくる。
「終わったね」
目の前に立ったヴォルフの肩に頭を乗せる。
城壁に座っていると高さが丁度良い。普段は届かない肩を引き寄せてくっつくと暖かさと幸せがじわじわと伝わってきた。
「ようやくだな」
感無量といった様子でヴォルフも呟く。
「うん、ほっとした」
奔走していた分、脱力感も大きい。
何事もなく終えられた安堵とやりきった充実感。
なんか気が抜けた感じがする。
こうして気を抜いていられるのも今だけだけど。
明日からはいつもと同じようで少し違う毎日が始まる。
顔を上げると先程よりも空が明るくなっていた。
「きれいよね、ここから見る王都が一番好き」
夜が明けるときの空の色はとても美しい。
街の明かりが日の光に馴染んで見えなくなっていく。
わずかな間に色を変えていく空に目を逸らせないでいると、頬に硬い手が触れた。
「マリナ」
真剣でいて優しい、甘い声。
視線を降ろすと穏やかな黒い瞳と視線が合った。
「なに?」
返す言葉も穏やかに甘い。
柔らかに緩む視線でヴォルフを見つめると頬にくちづけが落とされる。
「これからも同じ景色を見ていきたい。 誰よりも隣で」
改めて言われずともマリナも同じ気持ちだ。
「私もよ。 同じものを見て、こうして感じたことを伝えたい」
空がきれいだとか、触れ合う手が暖かいとか。
顔を合わせる度に昔よりもずっとずっと好きだと思ってるとか、全部伝えたい。
「ヴォルフ?」
呼びかけると瞳が甘く細められる。
「なんだ?」
ちょっと恥ずかしいけれど、今伝えたい。
「結婚してくれる? 近いうちに」
虚を突かれたように目を見開くヴォルフの表情が苦笑に変わる。
「それはこちらのセリフだ。 王子の結婚式が終わるまではと待ってたんだからな」
「うん」
ヴォルフはいつもそうだった。
マリナが迷ったり周りが見えなくなってるときは黙って側で見守っていてくれる。
「一刻でも早く式を挙げたいと言ったら笑うか?」
あまりに意外な台詞に笑みが零れた。
「ふふ、笑うけど私も同じ気持ちかな」
うれしくて、笑わずにいられない。
「結婚してほしい、マリナ。
この先もずっと俺の隣にいてくれ、妻としても片翼としても」
改めての求婚の言葉に続いた台詞に息を呑み、全力で頷く。
「……! うん!!」
一番欲しい言葉をくれたヴォルフに満面の笑みで答える。
うれしくてヴォルフの頬にくちづける。うれしさが溢れて笑みが止まらない。
ヴォルフも同じように笑みを浮かべている。
「感謝のくちづけもうれしいが、別の場所に欲しい」
頬に添えられた手が頬を撫で、髪を梳く。
髪、額、頬とあちこちに落とされるくちづけに顔が熱をもっていく。
潤む瞳で見上げると抑えられないというようにくちびるを塞がれた。
「……っ、……!? …………!!」
真っ赤な顔で睨みつけると嬉しそうに瞳を緩ませる。
離れていった後も熱の名残が残る唇で発した抗議には我ながら力がなかった。
「……飛ばし過ぎ」
呼吸を整えるのがやっとで視線を落としたまま文句を言う。
「悪かった、じゃあ続きは夜な」
返ってきたのは悪びれないくちづけと耳元への囁きだった。
「朝から何言ってんのよ!」
朝日が昇ったばかりの空に響く怒声にヴォルフの笑い声が重なる。
大きくなる笑い声に腕組みをして睨んでいたマリナも毒気が抜かれてしまって最後には笑ってしまった。
「じゃあ仮眠したら執務室に行くわ」
流石に眠い。昨日も途中で仮眠はしたけれど、寝不足に変わりはない。
幸せ一杯の王子が執務室に来る前にできるだけ仕事を片しておきたかった。
「そうだな。 王子も早く仕事を切り上げたいだろうし、一週間くらいは内務卿が執務時間を短くできるよう調節してくれてるんだろう?」
「だから細々したことだけでもこっちで片しておかないとね」
どうしても王子でなきゃいけないものだけ執務時間に集中して処理してもらえばいい。
短く今日の予定を擦り合わせ、それぞれ動き出す。
こんな日がこれからもずっと続いていく。
それこそが幸せなことだと思う。
そんな幸せをマリナは実感していた――――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
『双翼の魔女は異世界で…!?』はこれにて完結です。
とても長くなりましたが、ここまで見てくださってありがとうございました!!
皆さんのおかげでここまで続けられました! 本当にありがとうございます!
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毎朝楽しみにしていた作品が終わってしまうのは寂しいですけどね(´・ω・`)
できれば番外編とかを読みたいです(≧∀≦)
みかん(*^o^*)様感想ありがとうございます!
毎朝楽しみにしていたとのお言葉とってもうれしいです(^▽^)
自分でも終わらせるのは寂しかったですが入れようと思った話は全部入れられたのでここで完結させました。
今後の二人の様子とかも頭の中にはあるので番外編はいずれ書きたいと思ってます。
ありがとうございました(≧∀≦)