361 / 368
最終章
セレスタの魔術 ユースティスの安堵
しおりを挟む
やってくれた。
舞い散る花びらを見つめながら思ったのはそんな言葉。
セレスタが見せた魔術はユースティスを驚かせるに十分なものだった。
都市丸ごとを包む魔術など聞いたことがない。
双翼の魔術師、マリナが見せたのは想像を絶する大規模な魔術だった。
「はは……。 まったく驚かせてくれるな、セレスタは」
自分から落ちた乾いた笑いにおかしさが込み上げてくる。
「何故笑っていられる。 あれは明らかにマールアへの示威行動だろう」
笑いごとじゃないだろうと咎める目で見てくるラムゼスに笑みを返す。
確かにそうだろう。
だからこそ安堵している。
「そうだろうな。 あの件が影響しているのは間違いない」
セレスタは非常に穏健で、これまでマールアがちょっかいを出しても抗議はするがやり返すという姿勢を見せたことはない。
戦争でも使える技術を他国に見せるのを嫌がっていたため、セレスタが実際にどの程度有効な戦力を持っているのかマールアでは掴みかねていた。
「あれはきっと攻撃や防衛にも使えるのだろうな。
都市を覆うほど範囲の広い魔術があるとは思わなかった」
まさかこれほどとは、と言うのが正直な感想だ。
敵に回さなくて良かったと思う。
「何を呑気なことを……!
あれを見てセレスタと離れようと思う国はいない。 ますます周辺がセレスタに染まっていくぞ」
「そうか。 私はタイミングが良くて助かったと思っているくらいだが」
ラムゼスが困惑した顔で見返してくる。この弟は自身が軍を率いているせいか相手も同じように武力を振るってくると考えがちだ。
国を守る上では常に攻められることを考えて行動するのは良いことだが、外交となるとそれは相手を警戒させ、交渉を難しくする。
「あの魔術を見る前に、友好を深めることはセレスタの王太子と合意できている。
これが反対だったらセレスタの魔術に恐れをなして慌てて友好を取り付けたように見えただろう」
説明してやると驚きの顔を悔しそうに歪めていく。
実際にはそうなっていないのだからそんな顔をする必要はないと思うのだが。
「しかし、あの魔術は警戒するべきだろう。 あの規模の魔術で攻撃されたりなどしたら……」
ふっと息を吐いてラムゼスの警戒を笑う。
確かにあの魔術は脅威だが、本当に警戒するのはそんなところではない。
「そうなればセレスタは非難の的になるな。
やろうと思えば単身でマールアの王都に攻め入ることはできるだろうが……。
セレスタがそれを実行に移すことはない。 だからこその示威行動だろう」
仮にマールアの王都が魔術で陥落するようなことがあれば犯人はセレスタだとすぐにわかる。
やるつもりなら能力を見せず警戒させない方が有効だった。
「目に見える物だけを警戒するのでは意味がない。
考えろ。
あれはセレスタにとって見せられる技術ということだ」
ラムゼスの顔がはっとした表情に変わる。
「今回セレスタは私たちに見せるために手札を一つ切った。
マールアが警戒し、不用意に仕掛けてくるのを防ぐために。
都市一つを攻撃することも守ることもできるという意思表示をしてみせた」
でなければ他国の警戒を招くかもしれない魔術を見せようとはしないだろう。
「調子に乗るなという警告だ。
セレスタには珍しいことだが、今まで言ってこなかったことの方がおかしいのだからな。
おかげでセレスタとの融和に反対する人間を黙らせやすくなった」
セレスタ側にそんな意図は全くないだろうが。
どんな状況でも好機に変えていくのが政治というものだ。
国内を鎮める好機に薄らと笑みを浮かべる。
困難だと躊躇うようではマールアは治められない。
ユースティスは自身が次の王座に座ると決めている。
弟だろうと譲る気はない。
セレスタと友好を結ぶのはその一助ではあるが、政治的な思惑だけでないと言えるくらいには彼らを気に入っていた。
舞い散る花びらを見つめながら思ったのはそんな言葉。
セレスタが見せた魔術はユースティスを驚かせるに十分なものだった。
都市丸ごとを包む魔術など聞いたことがない。
双翼の魔術師、マリナが見せたのは想像を絶する大規模な魔術だった。
「はは……。 まったく驚かせてくれるな、セレスタは」
自分から落ちた乾いた笑いにおかしさが込み上げてくる。
「何故笑っていられる。 あれは明らかにマールアへの示威行動だろう」
笑いごとじゃないだろうと咎める目で見てくるラムゼスに笑みを返す。
確かにそうだろう。
だからこそ安堵している。
「そうだろうな。 あの件が影響しているのは間違いない」
セレスタは非常に穏健で、これまでマールアがちょっかいを出しても抗議はするがやり返すという姿勢を見せたことはない。
戦争でも使える技術を他国に見せるのを嫌がっていたため、セレスタが実際にどの程度有効な戦力を持っているのかマールアでは掴みかねていた。
「あれはきっと攻撃や防衛にも使えるのだろうな。
都市を覆うほど範囲の広い魔術があるとは思わなかった」
まさかこれほどとは、と言うのが正直な感想だ。
敵に回さなくて良かったと思う。
「何を呑気なことを……!
あれを見てセレスタと離れようと思う国はいない。 ますます周辺がセレスタに染まっていくぞ」
「そうか。 私はタイミングが良くて助かったと思っているくらいだが」
ラムゼスが困惑した顔で見返してくる。この弟は自身が軍を率いているせいか相手も同じように武力を振るってくると考えがちだ。
国を守る上では常に攻められることを考えて行動するのは良いことだが、外交となるとそれは相手を警戒させ、交渉を難しくする。
「あの魔術を見る前に、友好を深めることはセレスタの王太子と合意できている。
これが反対だったらセレスタの魔術に恐れをなして慌てて友好を取り付けたように見えただろう」
説明してやると驚きの顔を悔しそうに歪めていく。
実際にはそうなっていないのだからそんな顔をする必要はないと思うのだが。
「しかし、あの魔術は警戒するべきだろう。 あの規模の魔術で攻撃されたりなどしたら……」
ふっと息を吐いてラムゼスの警戒を笑う。
確かにあの魔術は脅威だが、本当に警戒するのはそんなところではない。
「そうなればセレスタは非難の的になるな。
やろうと思えば単身でマールアの王都に攻め入ることはできるだろうが……。
セレスタがそれを実行に移すことはない。 だからこその示威行動だろう」
仮にマールアの王都が魔術で陥落するようなことがあれば犯人はセレスタだとすぐにわかる。
やるつもりなら能力を見せず警戒させない方が有効だった。
「目に見える物だけを警戒するのでは意味がない。
考えろ。
あれはセレスタにとって見せられる技術ということだ」
ラムゼスの顔がはっとした表情に変わる。
「今回セレスタは私たちに見せるために手札を一つ切った。
マールアが警戒し、不用意に仕掛けてくるのを防ぐために。
都市一つを攻撃することも守ることもできるという意思表示をしてみせた」
でなければ他国の警戒を招くかもしれない魔術を見せようとはしないだろう。
「調子に乗るなという警告だ。
セレスタには珍しいことだが、今まで言ってこなかったことの方がおかしいのだからな。
おかげでセレスタとの融和に反対する人間を黙らせやすくなった」
セレスタ側にそんな意図は全くないだろうが。
どんな状況でも好機に変えていくのが政治というものだ。
国内を鎮める好機に薄らと笑みを浮かべる。
困難だと躊躇うようではマールアは治められない。
ユースティスは自身が次の王座に座ると決めている。
弟だろうと譲る気はない。
セレスタと友好を結ぶのはその一助ではあるが、政治的な思惑だけでないと言えるくらいには彼らを気に入っていた。
0
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説
【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる