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最終章

セレスタの魔術 ユースティスの安堵

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 やってくれた。
 舞い散る花びらを見つめながら思ったのはそんな言葉。
 セレスタが見せた魔術はユースティスを驚かせるに十分なものだった。
 都市丸ごとを包む魔術など聞いたことがない。
 双翼の魔術師、マリナが見せたのは想像を絶する大規模な魔術だった。
「はは……。 まったく驚かせてくれるな、セレスタは」
 自分から落ちた乾いた笑いにおかしさが込み上げてくる。
「何故笑っていられる。 あれは明らかにマールアへの示威行動だろう」
 笑いごとじゃないだろうと咎める目で見てくるラムゼスに笑みを返す。
 確かにそうだろう。
 だからこそ安堵している。
「そうだろうな。 あの件が影響しているのは間違いない」
 セレスタは非常に穏健で、これまでマールアがちょっかいを出しても抗議はするがやり返すという姿勢を見せたことはない。
 戦争でも使える技術を他国に見せるのを嫌がっていたため、セレスタが実際にどの程度有効な戦力を持っているのかマールアでは掴みかねていた。
「あれはきっと攻撃や防衛にも使えるのだろうな。
 都市を覆うほど範囲の広い魔術があるとは思わなかった」
 まさかこれほどとは、と言うのが正直な感想だ。
 敵に回さなくて良かったと思う。
「何を呑気なことを……!
 あれを見てセレスタと離れようと思う国はいない。 ますます周辺がセレスタに染まっていくぞ」
「そうか。 私はタイミングが良くて助かったと思っているくらいだが」
 ラムゼスが困惑した顔で見返してくる。この弟は自身が軍を率いているせいか相手も同じように武力を振るってくると考えがちだ。
 国を守る上では常に攻められることを考えて行動するのは良いことだが、外交となるとそれは相手を警戒させ、交渉を難しくする。
「あの魔術を見る前に、友好を深めることはセレスタの王太子と合意できている。
 これが反対だったらセレスタの魔術に恐れをなして慌てて友好を取り付けたように見えただろう」
 説明してやると驚きの顔を悔しそうに歪めていく。
 実際にはそうなっていないのだからそんな顔をする必要はないと思うのだが。
「しかし、あの魔術は警戒するべきだろう。 あの規模の魔術で攻撃されたりなどしたら……」
 ふっと息を吐いてラムゼスの警戒を笑う。
 確かにあの魔術は脅威だが、本当に警戒するのはそんなところではない。
「そうなればセレスタは非難の的になるな。 
 やろうと思えば単身でマールアの王都に攻め入ることはできるだろうが……。
 セレスタがそれを実行に移すことはない。 だからこその示威行動だろう」
 仮にマールアの王都が魔術で陥落するようなことがあれば犯人はセレスタだとすぐにわかる。
 やるつもりなら能力を見せず警戒させない方が有効だった。
「目に見える物だけを警戒するのでは意味がない。
 考えろ。
 あれはセレスタにとって見せられる技術・・・・・・・ということだ」
 ラムゼスの顔がはっとした表情に変わる。
「今回セレスタは私たちに見せるために手札を一つ切った。
 マールアが警戒し、不用意に仕掛けてくるのを防ぐために。
 都市一つを攻撃することも守ることもできるという意思表示をしてみせた」
 でなければ他国の警戒を招くかもしれない魔術を見せようとはしないだろう。
「調子に乗るなという警告だ。
 セレスタには珍しいことだが、今まで言ってこなかったことの方がおかしいのだからな。
 おかげでセレスタとの融和に反対する人間を黙らせやすくなった」
 セレスタ側にそんな意図は全くないだろうが。
 どんな状況でも好機に変えていくのが政治というものだ。
 国内を鎮める好機に薄らと笑みを浮かべる。
 困難だと躊躇うようではマールアは治められない。
 ユースティスは自身が次の王座に座ると決めている。
 弟だろうと譲る気はない。
 セレスタと友好を結ぶのはその一助ではあるが、政治的な思惑だけでないと言えるくらいには彼らを気に入っていた。
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