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最終章
セレスタの魔術 フレスの歓喜
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庭園を見下ろすテラスに身を乗り出してマリエールは花びらに手を伸ばす。
掴もうと手を伸ばすとひらりと逃げる花びらに焦れながら両手を差し出した。
掴まえるのは諦めて風に舞う花びらが手の中に落ちてくるのを待つ。
すると一枚の花弁が上空からマリエールを目指すようにひらりひらりと落ちてきた。
手の平に触れた花は一瞬強く光り、解けるように消える。
ぽわっと胸の中が暖かくなる。まるで降ってきたのが幸せの欠片のように。
普段心がけている優美さを置いて痛くなるほど手を叩く。
他の方々からも贈られる拍手は感動の深さを表すように鳴り止まない。
「見た!? やっぱりセレスタはすごいわ!
あんな魔術初めて見た!」
同行者に驚きと興奮を伝える。
魔力陣を無数に作り出すなんてことができるのもセレスタの王宮魔術師くらいのものだけれど、マリナさんが作り出した魔力陣の数は常識を超えていた。
そして何よりもあの巨大な魔力陣。
「胸がどきどきしてるわ。 あの魔力陣はどこまで広がっていたのかしら」
マリエールが見た限りでは王都が完全に覆われる大きさに見えた。
「帰るときに他の街の人に話を聞いてみないと」
王太子の結婚式に空から振る花。それは、民からしたら奇跡のような光景でしょう。
きっと嬉々として話してくれるに違いない。
同行者も力強く肯いて賛同してくれる。
彼らもセレスタの魔術に魅せられた者たちなので、話が早い。
魔力陣の消えた空を見上げてうっとりと舞い散る花びらを思い描く。
「素敵だったわねぇ……」
まさかあんな使い方をするなんて。
「しかしあれだけの魔力陣をいかに双翼とはいえ一人で作り出すなんて驚きました」
同行者の言葉に少し考えて首を振る。
「花を降らせるだけの簡単な魔術とはいえ、流石にマリナさん一人で王都のさらに外なんて難しいんじゃないかしら。
マリナさんの魔力量は人よりかなり多いらしいけれど、自分から離れるほどに魔術は操るのが難しくなるのでしょう?」
庭園にいた王宮魔術師は動いていなかったけれど、他の人間が見えない場所から補助をしていた可能性は残る。
「しかしそのような形跡は感じ取れませんでした」
同行者もフレスではそれなりの魔術の使い手として認識されている。けれどセレスタの魔術師をフレスの常識で語ってはいけない。
「例えば城壁付近や王都のどこかから補助をしていたとしたら? 私たちに感知できないだけでその可能性はあると思わない?」
「確かにそれは考えられますね。
それにしてもあれほど派手な魔術を見せてくるとは意外でした。
使者たちが国に戻れば彼らの王宮はセレスタの魔術の話題で埋め尽くされそうですね」
「そうねえ、今回の魔力陣は無害なものだったけれど、同じ規模の魔力陣で攻撃魔法や結界を使われたらと思うとセレスタに逆らおうなんて思う国はいないでしょうね」
民には美しいだけの美談が語られ、国の上層部にいる者はその力に驚愕する。
セレスタに他国を攻撃するつもりがあれば大抵の国は反撃の準備もできずに傘下に収められるでしょうね。
「全く、セレスタの技術は恐ろしい」
「ええ、だからこそ引きつけられて止まないのだけれど」
いつでも他国を呑みこめる力を持っていながらも、セレスタは自国の強化と守備にのみその力を使う。
平和な国だからなのか、セレスタは驚くほどそういった欲がない。
誰よりも恐ろしい力を持ち、どこよりも当たり前の平穏を愛すセレスタ。
そのような国が隣人で良かったと、フレスの王族としては幸運に感じずにはいられなかった。
(ああ、国に帰るのが待ち遠しいわ……! お兄様にもこの感動を伝えなくては……!!)
国でマリエールの報告を待つ兄と会うのが楽しみで仕方ない。
興奮したマリエールの話をうんざりした顔で聞く兄が目に浮かぶ。
セレスタ最高の魔術の素晴らしさを語るのがとても楽しみだった。
掴もうと手を伸ばすとひらりと逃げる花びらに焦れながら両手を差し出した。
掴まえるのは諦めて風に舞う花びらが手の中に落ちてくるのを待つ。
すると一枚の花弁が上空からマリエールを目指すようにひらりひらりと落ちてきた。
手の平に触れた花は一瞬強く光り、解けるように消える。
ぽわっと胸の中が暖かくなる。まるで降ってきたのが幸せの欠片のように。
普段心がけている優美さを置いて痛くなるほど手を叩く。
他の方々からも贈られる拍手は感動の深さを表すように鳴り止まない。
「見た!? やっぱりセレスタはすごいわ!
あんな魔術初めて見た!」
同行者に驚きと興奮を伝える。
魔力陣を無数に作り出すなんてことができるのもセレスタの王宮魔術師くらいのものだけれど、マリナさんが作り出した魔力陣の数は常識を超えていた。
そして何よりもあの巨大な魔力陣。
「胸がどきどきしてるわ。 あの魔力陣はどこまで広がっていたのかしら」
マリエールが見た限りでは王都が完全に覆われる大きさに見えた。
「帰るときに他の街の人に話を聞いてみないと」
王太子の結婚式に空から振る花。それは、民からしたら奇跡のような光景でしょう。
きっと嬉々として話してくれるに違いない。
同行者も力強く肯いて賛同してくれる。
彼らもセレスタの魔術に魅せられた者たちなので、話が早い。
魔力陣の消えた空を見上げてうっとりと舞い散る花びらを思い描く。
「素敵だったわねぇ……」
まさかあんな使い方をするなんて。
「しかしあれだけの魔力陣をいかに双翼とはいえ一人で作り出すなんて驚きました」
同行者の言葉に少し考えて首を振る。
「花を降らせるだけの簡単な魔術とはいえ、流石にマリナさん一人で王都のさらに外なんて難しいんじゃないかしら。
マリナさんの魔力量は人よりかなり多いらしいけれど、自分から離れるほどに魔術は操るのが難しくなるのでしょう?」
庭園にいた王宮魔術師は動いていなかったけれど、他の人間が見えない場所から補助をしていた可能性は残る。
「しかしそのような形跡は感じ取れませんでした」
同行者もフレスではそれなりの魔術の使い手として認識されている。けれどセレスタの魔術師をフレスの常識で語ってはいけない。
「例えば城壁付近や王都のどこかから補助をしていたとしたら? 私たちに感知できないだけでその可能性はあると思わない?」
「確かにそれは考えられますね。
それにしてもあれほど派手な魔術を見せてくるとは意外でした。
使者たちが国に戻れば彼らの王宮はセレスタの魔術の話題で埋め尽くされそうですね」
「そうねえ、今回の魔力陣は無害なものだったけれど、同じ規模の魔力陣で攻撃魔法や結界を使われたらと思うとセレスタに逆らおうなんて思う国はいないでしょうね」
民には美しいだけの美談が語られ、国の上層部にいる者はその力に驚愕する。
セレスタに他国を攻撃するつもりがあれば大抵の国は反撃の準備もできずに傘下に収められるでしょうね。
「全く、セレスタの技術は恐ろしい」
「ええ、だからこそ引きつけられて止まないのだけれど」
いつでも他国を呑みこめる力を持っていながらも、セレスタは自国の強化と守備にのみその力を使う。
平和な国だからなのか、セレスタは驚くほどそういった欲がない。
誰よりも恐ろしい力を持ち、どこよりも当たり前の平穏を愛すセレスタ。
そのような国が隣人で良かったと、フレスの王族としては幸運に感じずにはいられなかった。
(ああ、国に帰るのが待ち遠しいわ……! お兄様にもこの感動を伝えなくては……!!)
国でマリエールの報告を待つ兄と会うのが楽しみで仕方ない。
興奮したマリエールの話をうんざりした顔で聞く兄が目に浮かぶ。
セレスタ最高の魔術の素晴らしさを語るのがとても楽しみだった。
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