双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

文字の大きさ
上 下
357 / 368
最終章

ショーの始まり

しおりを挟む
 魔法陣を張り巡らした庭園に向かう。
 花や植木の排された庭園に精緻な魔法陣が広がる様は、高い場所から見ると壮観だった。
 警備をしている騎士と魔術師に様子を聞く。
 何も異常がないと聞いて気持ちを引き締める。
 万全の体制を敷いていても不測の事態が起こることはある。
 予定通りに進むことを祈っているが、ミスがあってもそれを気づかせないようにするのがマリナたちの役目だ。
 最後の確認をすませ、時間まで気持ちを落ち着かせる。
 庭園全体を見渡して魔術のイメージを重ねる。何度も繰り返したイメージは狂いなく現実と重なった。
 もう少ししたら庭園が見える場所に王子を始め使者や貴族たちが姿を見せるだろう。
 王子や国王陛下、レイフェミア様たちは庭園を一望できるテラスから観覧する。
 使者たちやセレスタの貴族たちも見やすい場所に誘導されているところのはずだ。
 まだかな、と逸るくらいの気持ちでその時を待つ。
 ゆっくりと呼吸をすると少しだけ逸る心が抑えられた。



 テラスに人が集まり、ざわざわと囁く期待の声が耳に届く。
「そろそろ時間ね」
 通信機に向かって呟くと「ああ」と短い返事が返ってくる。
 やはり声が聞こえると意思の疎通が取りやすい。
 声を伝えられる通信機はこの日のために作った。メルヒオールとマリナ、フィルさんだけに配布してある。
 離れた場所にいる二人と息を合わせるには必須だったから。
 ふたりなら問題なく通信を受け取れるのでヴォルフに送った物とは機能を変えて作った。
 作って思ったのはとても便利だけど自由には使えないということ。
 ヴォルフに通信機を贈ったときにも思ったけれどセレスタの王宮内では基本的に使えないので普段は使えない。
 ただ、今回のように時間と場所を指定して使えばとても有効だ。
 フィルさんが王都と地方の主要都市を結ぶ通信機を作れないかと言っていたけれど、そちらはあまり進んでいない。
 流石に地方都市と王都は距離がある。
 その間を繋ぐには様々な問題があるため、技術を完成させてもしばらくは公開できないだろうというのがジグ様の考えだった。
 ざわめきが大きくなってきたので顔を上げるとシャルロッテと視線が合う。
 大きく手を振る彼女に笑みを返して視線を巡らせると、フローラ様やアデーレ様とも目があった。
 フローラ様は春に結婚し、今日は旦那様と並んでいる。幸せそうな空気が見ているだけでも伝わってきた。
 アデーレ様は男性を一人連れている。ただのエスコートにしては距離が近いので新しい恋人かな。
 ヴォルフの父親である侯爵もマリナに向かって微笑んでいる。
 ふと、朝の会話を思い出す。
 王子の結婚式が終わるまではそちらに集中したいと思っていた。
 何も言わずに待っていてくれたことに感謝する。
 次に会ったときはもっと色々と話をしよう。
 いずれ義父になる人に笑みを返して手を振る。
 一瞬驚いた顔をして、侯爵は手を振り返してくれた。
 マリエール様は王子やレイフェミア様たちに次ぐ特等席で始まるのを待っている。
 他国の目があるので淑やかにしていらっしゃるけれど、本当は手すりから身を乗り出して見たいくらいだろう。
 瞳がきらきらしている。
 マールアの王子たちは用意された椅子に座ってゆったりと構えている。その表情が崩れるときが本当に楽しみだ。
 内務卿に視線を向けると力強く肯いて見せる。実は一番怒ってるのって内務卿なんじゃないかな。
 頷きを返して王子たちのいるテラスに視線を移す。
 国王陛下は前に並ぶ王子とレイフェミア様を見て笑んでいる。
 普段は厳しい顔をしていることも多いけれど、今日ばかりは笑みが絶えない。
 レイフェミア様は庭園を見つめて何が起こるのかと心待ちにしている様子だった。

 最後に王子に視線を合わせる。
 王子もマリナを見ていて、目が合うとふっと笑う。
 さっきは心配そうなことを言っていたのに今はそんな感情は全く見えない。
 信頼だけが瞳にあった。
(――あなたが主で良かった)
 そう思える人と出会えたことに感謝する。
 王子の後ろに控えるヴォルフとも視線を合わせ、頷き合う。
 魔法陣の中心に向かって歩き出す。
 足を止めるとざわめいていた人々の声が止んだ。
「さあ、始めましょうか」
 通信機に言葉を送ると「りょーかい」と気の抜ける声が返ってきた。
 セレスタの技術の粋を集めた芸術ともいえる魔術をご覧いただこう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...