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最終章
ショーの始まり
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魔法陣を張り巡らした庭園に向かう。
花や植木の排された庭園に精緻な魔法陣が広がる様は、高い場所から見ると壮観だった。
警備をしている騎士と魔術師に様子を聞く。
何も異常がないと聞いて気持ちを引き締める。
万全の体制を敷いていても不測の事態が起こることはある。
予定通りに進むことを祈っているが、ミスがあってもそれを気づかせないようにするのがマリナたちの役目だ。
最後の確認をすませ、時間まで気持ちを落ち着かせる。
庭園全体を見渡して魔術のイメージを重ねる。何度も繰り返したイメージは狂いなく現実と重なった。
もう少ししたら庭園が見える場所に王子を始め使者や貴族たちが姿を見せるだろう。
王子や国王陛下、レイフェミア様たちは庭園を一望できるテラスから観覧する。
使者たちやセレスタの貴族たちも見やすい場所に誘導されているところのはずだ。
まだかな、と逸るくらいの気持ちでその時を待つ。
ゆっくりと呼吸をすると少しだけ逸る心が抑えられた。
テラスに人が集まり、ざわざわと囁く期待の声が耳に届く。
「そろそろ時間ね」
通信機に向かって呟くと「ああ」と短い返事が返ってくる。
やはり声が聞こえると意思の疎通が取りやすい。
声を伝えられる通信機はこの日のために作った。メルヒオールとマリナ、フィルさんだけに配布してある。
離れた場所にいる二人と息を合わせるには必須だったから。
ふたりなら問題なく通信を受け取れるのでヴォルフに送った物とは機能を変えて作った。
作って思ったのはとても便利だけど自由には使えないということ。
ヴォルフに通信機を贈ったときにも思ったけれどセレスタの王宮内では基本的に使えないので普段は使えない。
ただ、今回のように時間と場所を指定して使えばとても有効だ。
フィルさんが王都と地方の主要都市を結ぶ通信機を作れないかと言っていたけれど、そちらはあまり進んでいない。
流石に地方都市と王都は距離がある。
その間を繋ぐには様々な問題があるため、技術を完成させてもしばらくは公開できないだろうというのがジグ様の考えだった。
ざわめきが大きくなってきたので顔を上げるとシャルロッテと視線が合う。
大きく手を振る彼女に笑みを返して視線を巡らせると、フローラ様やアデーレ様とも目があった。
フローラ様は春に結婚し、今日は旦那様と並んでいる。幸せそうな空気が見ているだけでも伝わってきた。
アデーレ様は男性を一人連れている。ただのエスコートにしては距離が近いので新しい恋人かな。
ヴォルフの父親である侯爵もマリナに向かって微笑んでいる。
ふと、朝の会話を思い出す。
王子の結婚式が終わるまではそちらに集中したいと思っていた。
何も言わずに待っていてくれたことに感謝する。
次に会ったときはもっと色々と話をしよう。
いずれ義父になる人に笑みを返して手を振る。
一瞬驚いた顔をして、侯爵は手を振り返してくれた。
マリエール様は王子やレイフェミア様たちに次ぐ特等席で始まるのを待っている。
他国の目があるので淑やかにしていらっしゃるけれど、本当は手すりから身を乗り出して見たいくらいだろう。
瞳がきらきらしている。
マールアの王子たちは用意された椅子に座ってゆったりと構えている。その表情が崩れるときが本当に楽しみだ。
内務卿に視線を向けると力強く肯いて見せる。実は一番怒ってるのって内務卿なんじゃないかな。
頷きを返して王子たちのいるテラスに視線を移す。
国王陛下は前に並ぶ王子とレイフェミア様を見て笑んでいる。
普段は厳しい顔をしていることも多いけれど、今日ばかりは笑みが絶えない。
レイフェミア様は庭園を見つめて何が起こるのかと心待ちにしている様子だった。
最後に王子に視線を合わせる。
王子もマリナを見ていて、目が合うとふっと笑う。
さっきは心配そうなことを言っていたのに今はそんな感情は全く見えない。
信頼だけが瞳にあった。
(――あなたが主で良かった)
そう思える人と出会えたことに感謝する。
王子の後ろに控えるヴォルフとも視線を合わせ、頷き合う。
魔法陣の中心に向かって歩き出す。
足を止めるとざわめいていた人々の声が止んだ。
「さあ、始めましょうか」
通信機に言葉を送ると「りょーかい」と気の抜ける声が返ってきた。
セレスタの技術の粋を集めた芸術ともいえる魔術をご覧いただこう。
花や植木の排された庭園に精緻な魔法陣が広がる様は、高い場所から見ると壮観だった。
警備をしている騎士と魔術師に様子を聞く。
何も異常がないと聞いて気持ちを引き締める。
万全の体制を敷いていても不測の事態が起こることはある。
予定通りに進むことを祈っているが、ミスがあってもそれを気づかせないようにするのがマリナたちの役目だ。
最後の確認をすませ、時間まで気持ちを落ち着かせる。
庭園全体を見渡して魔術のイメージを重ねる。何度も繰り返したイメージは狂いなく現実と重なった。
もう少ししたら庭園が見える場所に王子を始め使者や貴族たちが姿を見せるだろう。
王子や国王陛下、レイフェミア様たちは庭園を一望できるテラスから観覧する。
使者たちやセレスタの貴族たちも見やすい場所に誘導されているところのはずだ。
まだかな、と逸るくらいの気持ちでその時を待つ。
ゆっくりと呼吸をすると少しだけ逸る心が抑えられた。
テラスに人が集まり、ざわざわと囁く期待の声が耳に届く。
「そろそろ時間ね」
通信機に向かって呟くと「ああ」と短い返事が返ってくる。
やはり声が聞こえると意思の疎通が取りやすい。
声を伝えられる通信機はこの日のために作った。メルヒオールとマリナ、フィルさんだけに配布してある。
離れた場所にいる二人と息を合わせるには必須だったから。
ふたりなら問題なく通信を受け取れるのでヴォルフに送った物とは機能を変えて作った。
作って思ったのはとても便利だけど自由には使えないということ。
ヴォルフに通信機を贈ったときにも思ったけれどセレスタの王宮内では基本的に使えないので普段は使えない。
ただ、今回のように時間と場所を指定して使えばとても有効だ。
フィルさんが王都と地方の主要都市を結ぶ通信機を作れないかと言っていたけれど、そちらはあまり進んでいない。
流石に地方都市と王都は距離がある。
その間を繋ぐには様々な問題があるため、技術を完成させてもしばらくは公開できないだろうというのがジグ様の考えだった。
ざわめきが大きくなってきたので顔を上げるとシャルロッテと視線が合う。
大きく手を振る彼女に笑みを返して視線を巡らせると、フローラ様やアデーレ様とも目があった。
フローラ様は春に結婚し、今日は旦那様と並んでいる。幸せそうな空気が見ているだけでも伝わってきた。
アデーレ様は男性を一人連れている。ただのエスコートにしては距離が近いので新しい恋人かな。
ヴォルフの父親である侯爵もマリナに向かって微笑んでいる。
ふと、朝の会話を思い出す。
王子の結婚式が終わるまではそちらに集中したいと思っていた。
何も言わずに待っていてくれたことに感謝する。
次に会ったときはもっと色々と話をしよう。
いずれ義父になる人に笑みを返して手を振る。
一瞬驚いた顔をして、侯爵は手を振り返してくれた。
マリエール様は王子やレイフェミア様たちに次ぐ特等席で始まるのを待っている。
他国の目があるので淑やかにしていらっしゃるけれど、本当は手すりから身を乗り出して見たいくらいだろう。
瞳がきらきらしている。
マールアの王子たちは用意された椅子に座ってゆったりと構えている。その表情が崩れるときが本当に楽しみだ。
内務卿に視線を向けると力強く肯いて見せる。実は一番怒ってるのって内務卿なんじゃないかな。
頷きを返して王子たちのいるテラスに視線を移す。
国王陛下は前に並ぶ王子とレイフェミア様を見て笑んでいる。
普段は厳しい顔をしていることも多いけれど、今日ばかりは笑みが絶えない。
レイフェミア様は庭園を見つめて何が起こるのかと心待ちにしている様子だった。
最後に王子に視線を合わせる。
王子もマリナを見ていて、目が合うとふっと笑う。
さっきは心配そうなことを言っていたのに今はそんな感情は全く見えない。
信頼だけが瞳にあった。
(――あなたが主で良かった)
そう思える人と出会えたことに感謝する。
王子の後ろに控えるヴォルフとも視線を合わせ、頷き合う。
魔法陣の中心に向かって歩き出す。
足を止めるとざわめいていた人々の声が止んだ。
「さあ、始めましょうか」
通信機に言葉を送ると「りょーかい」と気の抜ける声が返ってきた。
セレスタの技術の粋を集めた芸術ともいえる魔術をご覧いただこう。
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