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最終章
二国の距離 1
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他国の使者たちの待つ会場は人で埋め尽くされ、ふたりの登場を万雷の拍手で迎えた。
王子たちの後ろから会場を見ていると、ぽつんと人の輪から取り残された人が見える。
望んでそうしているのかもしれないが、兄の対応とは真逆だ。
馴れ合いを望まないのは彼が目指す国の方針故。
ひそひそと噂する人々を煩そうに見ていた。
「ラムゼス様は人を寄せ付けないつもりのようね」
隣に立つヴォルフに囁く。
「ユースティス様がその分交友を深めているようだから必要ないと考えているんじゃないか」
その可能性も、まあなくはないと思う。
けれど周囲からの印象はよくない。
ただでさえマールアは大国で近寄りがたく思われているのに。
もう少し近寄りやすい雰囲気を作らないと面識のない人間は話しかけられない。
「さっきもつまらなそうだったし、なんかあまり良くない雰囲気よね」
「流石に問題は起こさないだろう、なら態度の悪さは別に問題にならない」
ヴォルフの言う問題にならないというのは警備上、安全上のことであって外交上の意味を含んでいない。
正確ではないが、間違ってもいなかった。
マールアの評価が下がるだけでセレスタに害があるわけじゃないからだ。
交流が深くないことなど他国の人間でも知っている。
不仲までは行かなくても距離があるのだ。物理的にも心情の上でも。
マリナのことがなければ硬直した関係は当分の間変わらなかっただろう。
あの事件をきっかけにユースティスから親書が送られ、交流を深めようという雰囲気にはなっている。
セレスタ国内でも反発はあったものの、マールア側が一歩引いて交流を求める形を取っているので拒絶反応は控えめだった。
両国が少しだけ交流を深めたことで周辺の国も驚いたようだ。
間に挟まれたソルガイアは緊張を持って関係の推移を注視している。使者も態度には出さないがマールアの王子たちの挙動を気にしていた。
同じく間に挟まれたフレスは使者がマリエール様だからか緊張などは感じさせない。
笑顔でユースティスと挨拶を交わしていたと会場を警備していた騎士から聞いている。
他の国でもマールアと距離が近い国は皆これから先、セレスタとマールアが手を取り合う日が来るのか見極めようとしていた。
にこやかに周囲と談笑するユースティスは気負いなく人々の中心にいる。
ユースティスが友好的な態度を取っているのでセレスタの南方の国などはさして気にしていないようだ。
関係の深い国の使者たちが祝辞を述べに列を作る。
真っ先にやってきたマリエール様に続き、セレスタの北東にある国、フレスの隣国と続く。
ソルガイアはマールアに配慮してかその後に続いた。
次々に祝いを述べに来る使者たちへ返礼をしていく。
なぜかユースティスが来ない。
セレスタの貴族たちも気づき、ざわざわし始めている。
マリエール様は扇で口元を隠して自国の方と囁き交わしているし、ソルガイアの使者などはあからさまにユースティスとこちら側を交互に見ていた。
会場にはどことなく不穏な気配が漂い始めた。
笑みを絶やさずこちらを見ているユースティスに呆れた視線を向けそうになる。
招かれた他国の使者たちの祝辞が一巡したところで空気が止まる。
これ以降はセレスタ国内の貴族たちの番になる。さすがにマールアの王族を差し置いて近づける貴族はおらず、一気に緊張が高まった。
会場中の視線が集まったところでようやくユースティスが動き出した。
ゆったりとした足取りで王子の前に立つ。
ざわめきの止まった空間に楽の音だけが響いた。
「このたびは王太子妃を迎えられましたことお祝い申し上げます。
またとないこの慶事に招待くださり、まことにありがとうございます」
マールアの王子が謙った態度を取ったことに会場がさざめく。
「ああ、ユースティス殿も遠くから駆けつけてくれて感謝している」
「こちらこそ、感謝しております」
あくまで丁重な態度を崩さないユースティスに視線が集中する。
ソルガイアの使者などは愕然とした顔でユースティスを見つめていた。
王子たちの後ろから会場を見ていると、ぽつんと人の輪から取り残された人が見える。
望んでそうしているのかもしれないが、兄の対応とは真逆だ。
馴れ合いを望まないのは彼が目指す国の方針故。
ひそひそと噂する人々を煩そうに見ていた。
「ラムゼス様は人を寄せ付けないつもりのようね」
隣に立つヴォルフに囁く。
「ユースティス様がその分交友を深めているようだから必要ないと考えているんじゃないか」
その可能性も、まあなくはないと思う。
けれど周囲からの印象はよくない。
ただでさえマールアは大国で近寄りがたく思われているのに。
もう少し近寄りやすい雰囲気を作らないと面識のない人間は話しかけられない。
「さっきもつまらなそうだったし、なんかあまり良くない雰囲気よね」
「流石に問題は起こさないだろう、なら態度の悪さは別に問題にならない」
ヴォルフの言う問題にならないというのは警備上、安全上のことであって外交上の意味を含んでいない。
正確ではないが、間違ってもいなかった。
マールアの評価が下がるだけでセレスタに害があるわけじゃないからだ。
交流が深くないことなど他国の人間でも知っている。
不仲までは行かなくても距離があるのだ。物理的にも心情の上でも。
マリナのことがなければ硬直した関係は当分の間変わらなかっただろう。
あの事件をきっかけにユースティスから親書が送られ、交流を深めようという雰囲気にはなっている。
セレスタ国内でも反発はあったものの、マールア側が一歩引いて交流を求める形を取っているので拒絶反応は控えめだった。
両国が少しだけ交流を深めたことで周辺の国も驚いたようだ。
間に挟まれたソルガイアは緊張を持って関係の推移を注視している。使者も態度には出さないがマールアの王子たちの挙動を気にしていた。
同じく間に挟まれたフレスは使者がマリエール様だからか緊張などは感じさせない。
笑顔でユースティスと挨拶を交わしていたと会場を警備していた騎士から聞いている。
他の国でもマールアと距離が近い国は皆これから先、セレスタとマールアが手を取り合う日が来るのか見極めようとしていた。
にこやかに周囲と談笑するユースティスは気負いなく人々の中心にいる。
ユースティスが友好的な態度を取っているのでセレスタの南方の国などはさして気にしていないようだ。
関係の深い国の使者たちが祝辞を述べに列を作る。
真っ先にやってきたマリエール様に続き、セレスタの北東にある国、フレスの隣国と続く。
ソルガイアはマールアに配慮してかその後に続いた。
次々に祝いを述べに来る使者たちへ返礼をしていく。
なぜかユースティスが来ない。
セレスタの貴族たちも気づき、ざわざわし始めている。
マリエール様は扇で口元を隠して自国の方と囁き交わしているし、ソルガイアの使者などはあからさまにユースティスとこちら側を交互に見ていた。
会場にはどことなく不穏な気配が漂い始めた。
笑みを絶やさずこちらを見ているユースティスに呆れた視線を向けそうになる。
招かれた他国の使者たちの祝辞が一巡したところで空気が止まる。
これ以降はセレスタ国内の貴族たちの番になる。さすがにマールアの王族を差し置いて近づける貴族はおらず、一気に緊張が高まった。
会場中の視線が集まったところでようやくユースティスが動き出した。
ゆったりとした足取りで王子の前に立つ。
ざわめきの止まった空間に楽の音だけが響いた。
「このたびは王太子妃を迎えられましたことお祝い申し上げます。
またとないこの慶事に招待くださり、まことにありがとうございます」
マールアの王子が謙った態度を取ったことに会場がさざめく。
「ああ、ユースティス殿も遠くから駆けつけてくれて感謝している」
「こちらこそ、感謝しております」
あくまで丁重な態度を崩さないユースティスに視線が集中する。
ソルガイアの使者などは愕然とした顔でユースティスを見つめていた。
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