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セレスタ 故郷編
故郷の夜 2
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準備をしているうちにおじさんやエミも帰ってきて、あっという間に部屋が人で一杯になった。
殆ど下ごしらえは出来ていたので後はおばさんやエミとマリナ、女3人で料理を作る。
男性陣は部屋の片隅でお茶を啜っている。話が弾んでいないのが見てわかるのでやきもきしてしまう。
「やっぱり気になりますか?
さっきからずっと無言で目も合わせませんよね」
エミがひそっとマリナに囁く。
「そうね。 おじさんも共通の話題がないから困ってるみたい」
「お父さんもお兄ちゃんも遠慮しないで好きに話してればいいのに。
最近二人とも妙に口数が少ないのよね」
そんなことをひそひそと話していたら二階にいたカイが降りてきた。
「あれ、兄ちゃんたち何してんの? 暇なら遊んでよ」
手伝いに駆り出されないよう身を潜めていたカイの言葉に普段なら注意するんだろうギルがほっとした顔をした。
「いいぞ、何をするんだ」
沈黙に気詰まりを感じていた二人はこれ幸いと食事ができるまで二階で遊ぶと逃げていった。
ひとり残されたおじさんも肩の力が抜けたように息を吐く。
「そんなに緊張するほど怖かったのかしら」
ヴォルフが威圧感のある見た目なのは間違いないけれど、男の人まであんなに緊張するなんて。
そう思っていたらエミに否定された。
「違いますよマリナさん、王宮で働く騎士様が目の前にいたら緊張しますよ。 特に家のお父さん小心だから」
「どうして?」
そういったってこの村にも時々は巡回の騎士がきていたはずだし、そんなに緊張する存在だというのはあまり納得いかない。
「騎士様の中でも王宮で働く人はみんな貴族でしょう?
失礼があっっちゃいけないって思ってるんですよ」
そうなのか。なんか悪いことをした気になる。あれだけ緊張してるんじゃ食事しても味がわからないんじゃないかな。
「そこまで気にしなくていいと思うんですけどねー。
そんなこと気にする人ならこんな村まで来ないのに」
エミの分析に苦笑を零す。
「そうね、確かにエミの言う通りだわ。
そういう人なら平民を嫁にもらおうなんてしないし、休暇を取って自分で挨拶しになんて来ないわよね」
「ですよねー。 もう、杞憂だっていうのにほんと小心者なんだから」
そう零しながらもエミの口元は笑っている。
おじさんには今のうちに気にしなくていいと言っておこう。
本当にヴォルフはそういうことを全然気にしない。
食事が始まる頃にはおじさんの緊張は少し取れたみたいだった。
食卓にカイの元気な声が響く。
「ねーちゃん、これもうまいよ!」
「ありがとう、カイ」
カイが自慢の料理を次々に進めてくれる。
久しぶりのおばさんの料理はやっぱりおいしい。
「久しぶりですけど、やっぱりおばさんのご飯はおいしいですね」
うれしくて顔を綻ばせながら料理を味わう。
「そうかい? うれしいことを言ってくれるねえ、もっと食べな!
あんたならもっと太っても大丈夫だからね!」
そう言って器に料理をよそってくれる。
う、食べきれるかな。
まだ大丈夫だけどお皿の中身が減るたびにお代わりをよそわれているので最後は残してしまうことになりそうな気がする。
「ヴォルフさんも遠慮しないで食べておくれ!」
「ああ、とてもうまい。 マリナが懐かしんでいたのもわかるな」
口元を緩ませたヴォルフに褒められておばさんの声が弾む。
「マリナ、あんた本当にいい人を捕まえたねえ。
料理をうまいって食べてくれる旦那はいい旦那だよ。 それに比べて家の男は食べても何にも言いやしないんだから」
おばさんの言葉にギルが顔を顰め、おじさんは小さな声でいつもうまいと思ってると呟くけど、小さすぎてエミに声が小さいと怒られてる。
その中でカイだけが俺はいつも言ってるよと胸を張った。
「そうだね、ありがとうよ」
おばさんがカイの頭を撫で、エミもえらいえらいとカイを褒める。うれしそうなカイにマリナも称賛を送った。
「あんたたち泊まるところなんて決まってないだろう?」
「はい、父に会ったら街まで戻ろうと思っていたので」
村に宿屋がないので休めるところまで戻ろうと思っていた。
父親の家に泊まることは最初から考えていない。
「もう暗いんだから、無理に今日発つこともないだろう。
ギルの家なら空いてるからそこを使えばいいよ」
おばさんの言葉に首を傾げた。
「ここに住んでるんじゃないんですか?」
「新しく建ててるんだ。 ギルももう成人したしね。
まだ途中だけど外見は出来てるから泊まるのに支障はないはずだよ。
布団だけは運ばせるから気にしないで泊まっていきな」
いいのかとギルを見るとかまわないと頷かれる。
「どうせまだ使ってない家だし、この家には流石に寝る場所がないからな。 遠慮しなくていい」
申し訳ないとも思うけれど、ありがたかった。
「ありがとう、ギル。 おばさんもありがとうございます」
「すまない、世話になるな」
ヴォルフとふたりで頭を下げる。恐縮するおばさんにもう一度感謝を伝える。
おばさんがそう言ってくれたのは父親と喧嘩別れにならないようにとの気遣いなんだろう。
その気持ちはうれしい。
でも、ケンカですらないような決裂を説明はできなかった。
殆ど下ごしらえは出来ていたので後はおばさんやエミとマリナ、女3人で料理を作る。
男性陣は部屋の片隅でお茶を啜っている。話が弾んでいないのが見てわかるのでやきもきしてしまう。
「やっぱり気になりますか?
さっきからずっと無言で目も合わせませんよね」
エミがひそっとマリナに囁く。
「そうね。 おじさんも共通の話題がないから困ってるみたい」
「お父さんもお兄ちゃんも遠慮しないで好きに話してればいいのに。
最近二人とも妙に口数が少ないのよね」
そんなことをひそひそと話していたら二階にいたカイが降りてきた。
「あれ、兄ちゃんたち何してんの? 暇なら遊んでよ」
手伝いに駆り出されないよう身を潜めていたカイの言葉に普段なら注意するんだろうギルがほっとした顔をした。
「いいぞ、何をするんだ」
沈黙に気詰まりを感じていた二人はこれ幸いと食事ができるまで二階で遊ぶと逃げていった。
ひとり残されたおじさんも肩の力が抜けたように息を吐く。
「そんなに緊張するほど怖かったのかしら」
ヴォルフが威圧感のある見た目なのは間違いないけれど、男の人まであんなに緊張するなんて。
そう思っていたらエミに否定された。
「違いますよマリナさん、王宮で働く騎士様が目の前にいたら緊張しますよ。 特に家のお父さん小心だから」
「どうして?」
そういったってこの村にも時々は巡回の騎士がきていたはずだし、そんなに緊張する存在だというのはあまり納得いかない。
「騎士様の中でも王宮で働く人はみんな貴族でしょう?
失礼があっっちゃいけないって思ってるんですよ」
そうなのか。なんか悪いことをした気になる。あれだけ緊張してるんじゃ食事しても味がわからないんじゃないかな。
「そこまで気にしなくていいと思うんですけどねー。
そんなこと気にする人ならこんな村まで来ないのに」
エミの分析に苦笑を零す。
「そうね、確かにエミの言う通りだわ。
そういう人なら平民を嫁にもらおうなんてしないし、休暇を取って自分で挨拶しになんて来ないわよね」
「ですよねー。 もう、杞憂だっていうのにほんと小心者なんだから」
そう零しながらもエミの口元は笑っている。
おじさんには今のうちに気にしなくていいと言っておこう。
本当にヴォルフはそういうことを全然気にしない。
食事が始まる頃にはおじさんの緊張は少し取れたみたいだった。
食卓にカイの元気な声が響く。
「ねーちゃん、これもうまいよ!」
「ありがとう、カイ」
カイが自慢の料理を次々に進めてくれる。
久しぶりのおばさんの料理はやっぱりおいしい。
「久しぶりですけど、やっぱりおばさんのご飯はおいしいですね」
うれしくて顔を綻ばせながら料理を味わう。
「そうかい? うれしいことを言ってくれるねえ、もっと食べな!
あんたならもっと太っても大丈夫だからね!」
そう言って器に料理をよそってくれる。
う、食べきれるかな。
まだ大丈夫だけどお皿の中身が減るたびにお代わりをよそわれているので最後は残してしまうことになりそうな気がする。
「ヴォルフさんも遠慮しないで食べておくれ!」
「ああ、とてもうまい。 マリナが懐かしんでいたのもわかるな」
口元を緩ませたヴォルフに褒められておばさんの声が弾む。
「マリナ、あんた本当にいい人を捕まえたねえ。
料理をうまいって食べてくれる旦那はいい旦那だよ。 それに比べて家の男は食べても何にも言いやしないんだから」
おばさんの言葉にギルが顔を顰め、おじさんは小さな声でいつもうまいと思ってると呟くけど、小さすぎてエミに声が小さいと怒られてる。
その中でカイだけが俺はいつも言ってるよと胸を張った。
「そうだね、ありがとうよ」
おばさんがカイの頭を撫で、エミもえらいえらいとカイを褒める。うれしそうなカイにマリナも称賛を送った。
「あんたたち泊まるところなんて決まってないだろう?」
「はい、父に会ったら街まで戻ろうと思っていたので」
村に宿屋がないので休めるところまで戻ろうと思っていた。
父親の家に泊まることは最初から考えていない。
「もう暗いんだから、無理に今日発つこともないだろう。
ギルの家なら空いてるからそこを使えばいいよ」
おばさんの言葉に首を傾げた。
「ここに住んでるんじゃないんですか?」
「新しく建ててるんだ。 ギルももう成人したしね。
まだ途中だけど外見は出来てるから泊まるのに支障はないはずだよ。
布団だけは運ばせるから気にしないで泊まっていきな」
いいのかとギルを見るとかまわないと頷かれる。
「どうせまだ使ってない家だし、この家には流石に寝る場所がないからな。 遠慮しなくていい」
申し訳ないとも思うけれど、ありがたかった。
「ありがとう、ギル。 おばさんもありがとうございます」
「すまない、世話になるな」
ヴォルフとふたりで頭を下げる。恐縮するおばさんにもう一度感謝を伝える。
おばさんがそう言ってくれたのは父親と喧嘩別れにならないようにとの気遣いなんだろう。
その気持ちはうれしい。
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