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セレスタ 故郷編
故郷の夜 1
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足早に村の外に向かうマリナをギルが呼び止めた。
「マリナ! 待てって!」
「用は済んだから帰るわ」
「ちょっと落ち着けって、もう夜になるし母さんも食事の用意して待ってる。
今すぐ帰るなんて言うなよ」
ギルの言葉に足が止まる。
「そう、そうだったわね」
約束していた。それを忘れるなんて余程頭に血が上っていたらしい。
振り返るとヴォルフもギルの後ろをゆっくりと歩いている。
いきなり帰ったら何があったのかとおばさんも気にするだろう。
父親の反応は残念なことだけど予想していなかったわけでもない。
ようやく冷静さが戻ってきた。
まだ怒りは残っているけれどさっきよりは落ち着いた。
「じゃあ、早く戻っておばさんの手伝いでもしようかな」
立ち話にもならないで戻ってきてしまったのでまだ食事の準備はできていないだろう。
急に人数が増えて大変かもしれないし、手伝うと申し出るとギルが呆れたような顔になる。
「一応客だろ。 母さんは喜ぶかもしれないけどな」
昔はよく手伝ってたから懐かしいと喜びそうだとギルが口元を緩ませる。
「よくって言えるほどじゃないわよ」
食事をもらっているのに何もしないのは心苦しくて、時々お手伝いをしていたくらいだ。
「俺やエミよりもよく手伝ってたよ たまには手伝えって怒られたもんだ」
「ギルはいつも外で遊んでいたものね」
遊びたい盛りの子供にとって親のお手伝いなんて面倒以外の何物でもないのだろう。
他の子も似たり寄ったりだった気がするのでギルが特別手伝いをサボっていたわけではない。
マリナの方が手伝っていたというのは間違いだと思う。
「……ありがとう、ギルがいなかったら忘れて帰っちゃうところだったわ」
怒りを振り払うように口元に笑みを浮かべる。
「ヴォルフも、ちゃんと紹介もしないで戻ってきちゃってごめんね?」
「気にするな。 あの様子では向こうも話どころじゃなかっただろ」
ぽん、と頭に大きな手が乗せられてその暖かさに涙が出そうになった。
まだ泣きたくない。潤みそうになる瞳を閉じてヴォルフの手をどける。
「おばさんにも早く言わないと多めに作っちゃうわね」
父親と一緒にと言われたけれどそんな話をする以前の問題だった。とてもそんな状態じゃない。
一人分余ってしまうと思ったけどギルが首を振る。
「それくらい他の奴が食べればいいだろ。
親父さんを除いても人数がいるんだ、よく食べそうだしな」
ギルがヴォルフを見てそんなことを言う。
まあ、成人男性が3人もいれば大した量でもないのかもしれないけど。
カイも成長期だろうし、気にすることないのかな。
扉を開けるとたくさんの食材が乗ったテーブルで下準備をしていたおばさんが顔を上げる。
「ずいぶん早かったね」
戻ってきたマリナたちの顔を見て、おばさんは察して顔を曇らせた。
「ケンカしちゃいました」
あえて軽い口調で伝える。あれをケンカなんて言えるのかと思ったけれど、それをおばさんに言っても心配をかけるだけだろう。
「親父さんも驚いたんだろう、気にするんじゃないよ」
「そうですね、突然でしたから」
慰めの言葉に返す声が暗いものにならないよう気を付けて答える。
「ごめんなさい、手を止めてしまって。
何を作るんですか? お手伝いさせてください」
夕食の準備の手を止めてしまったことを謝り、手伝うと伝える。
「そんな気をつかわなくていいんだよ。
でも、昔に戻ったみたいでうれしいね。 あんまり時間もないし、手伝ってもらおうか」
「はい! なんでも言ってください」
「ギルも手伝いな!」
おばさんの指示に仕方ないと肩を竦めたギルもテーブルに着く。
「俺も手伝おう。 何をすればいい?」
必然的にヴォルフも手伝いに入ることになる。
遠慮するおばさんをすることがないからと言いくるめて皆で準備にかかる。
あんまりしゃべらないヴォルフとギルにおばさんがあれこれ話しかけながら手を動かす。
おばさんの話題は尽きない。最近の家族の話題から隣町から引っ越してきた夫婦の話。
聞いているだけでここしばらくの村の話が全部わかるようになりそうだ。
止まらない口に閉口したギルとヴォルフが顔を見合わせて肩を竦めると、手を止めるんじゃないよとおばさんの注意が飛ぶ。
その光景がおかしくて、声を立てて笑うと重く落ち込みかけていた気持ちが軽くなる。
明るいおばさんのおかげで暗い雰囲気はどこかに飛んでいったのだった。
「マリナ! 待てって!」
「用は済んだから帰るわ」
「ちょっと落ち着けって、もう夜になるし母さんも食事の用意して待ってる。
今すぐ帰るなんて言うなよ」
ギルの言葉に足が止まる。
「そう、そうだったわね」
約束していた。それを忘れるなんて余程頭に血が上っていたらしい。
振り返るとヴォルフもギルの後ろをゆっくりと歩いている。
いきなり帰ったら何があったのかとおばさんも気にするだろう。
父親の反応は残念なことだけど予想していなかったわけでもない。
ようやく冷静さが戻ってきた。
まだ怒りは残っているけれどさっきよりは落ち着いた。
「じゃあ、早く戻っておばさんの手伝いでもしようかな」
立ち話にもならないで戻ってきてしまったのでまだ食事の準備はできていないだろう。
急に人数が増えて大変かもしれないし、手伝うと申し出るとギルが呆れたような顔になる。
「一応客だろ。 母さんは喜ぶかもしれないけどな」
昔はよく手伝ってたから懐かしいと喜びそうだとギルが口元を緩ませる。
「よくって言えるほどじゃないわよ」
食事をもらっているのに何もしないのは心苦しくて、時々お手伝いをしていたくらいだ。
「俺やエミよりもよく手伝ってたよ たまには手伝えって怒られたもんだ」
「ギルはいつも外で遊んでいたものね」
遊びたい盛りの子供にとって親のお手伝いなんて面倒以外の何物でもないのだろう。
他の子も似たり寄ったりだった気がするのでギルが特別手伝いをサボっていたわけではない。
マリナの方が手伝っていたというのは間違いだと思う。
「……ありがとう、ギルがいなかったら忘れて帰っちゃうところだったわ」
怒りを振り払うように口元に笑みを浮かべる。
「ヴォルフも、ちゃんと紹介もしないで戻ってきちゃってごめんね?」
「気にするな。 あの様子では向こうも話どころじゃなかっただろ」
ぽん、と頭に大きな手が乗せられてその暖かさに涙が出そうになった。
まだ泣きたくない。潤みそうになる瞳を閉じてヴォルフの手をどける。
「おばさんにも早く言わないと多めに作っちゃうわね」
父親と一緒にと言われたけれどそんな話をする以前の問題だった。とてもそんな状態じゃない。
一人分余ってしまうと思ったけどギルが首を振る。
「それくらい他の奴が食べればいいだろ。
親父さんを除いても人数がいるんだ、よく食べそうだしな」
ギルがヴォルフを見てそんなことを言う。
まあ、成人男性が3人もいれば大した量でもないのかもしれないけど。
カイも成長期だろうし、気にすることないのかな。
扉を開けるとたくさんの食材が乗ったテーブルで下準備をしていたおばさんが顔を上げる。
「ずいぶん早かったね」
戻ってきたマリナたちの顔を見て、おばさんは察して顔を曇らせた。
「ケンカしちゃいました」
あえて軽い口調で伝える。あれをケンカなんて言えるのかと思ったけれど、それをおばさんに言っても心配をかけるだけだろう。
「親父さんも驚いたんだろう、気にするんじゃないよ」
「そうですね、突然でしたから」
慰めの言葉に返す声が暗いものにならないよう気を付けて答える。
「ごめんなさい、手を止めてしまって。
何を作るんですか? お手伝いさせてください」
夕食の準備の手を止めてしまったことを謝り、手伝うと伝える。
「そんな気をつかわなくていいんだよ。
でも、昔に戻ったみたいでうれしいね。 あんまり時間もないし、手伝ってもらおうか」
「はい! なんでも言ってください」
「ギルも手伝いな!」
おばさんの指示に仕方ないと肩を竦めたギルもテーブルに着く。
「俺も手伝おう。 何をすればいい?」
必然的にヴォルフも手伝いに入ることになる。
遠慮するおばさんをすることがないからと言いくるめて皆で準備にかかる。
あんまりしゃべらないヴォルフとギルにおばさんがあれこれ話しかけながら手を動かす。
おばさんの話題は尽きない。最近の家族の話題から隣町から引っ越してきた夫婦の話。
聞いているだけでここしばらくの村の話が全部わかるようになりそうだ。
止まらない口に閉口したギルとヴォルフが顔を見合わせて肩を竦めると、手を止めるんじゃないよとおばさんの注意が飛ぶ。
その光景がおかしくて、声を立てて笑うと重く落ち込みかけていた気持ちが軽くなる。
明るいおばさんのおかげで暗い雰囲気はどこかに飛んでいったのだった。
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