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セレスタ 故郷編
あたたかいあじ
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大きく伸びをして眠気を頭から追い出す。
「眠そうだな」
「んー、大丈夫。 動いてたら覚めるし、夜更かしには慣れてるから!」
「褒められたことじゃないな」
思いのほか真面目に返されて口を噤む。
「せっかく久しぶりに故郷に顔を出すんだ、元気な顔を見せてやった方が喜ぶだろう?」
「そうね。 でも、あの頃からしたら健康そのものな姿だと思わない?
背だって伸びたし、食べたり食べなかったりだった頃に比べたらふっくらしたし」
そう、子供の頃に比べたら。
人よりは緩やかな成長だったかもしれないけれど、十分だと思う。
うん、比較してもしょうがないし。
アデーレ様のような大人の女性に憧れなかったわけではないけれど、それが理想だったわけじゃない。
自分で道を選んで歩けるような大人になること。
それが幼い頃の一番の夢で、それはこれ以上ないくらい叶っている。
幸せだ、自信を持ってそう言える。それこそが幸せなことだと思った。
「そうだな、ルカを見て思い出した。 お前も昔はあんな風に痩せていたな」
「あそこまでじゃなかったとおもうけど、でも、同じようなものだったわね」
昔は師匠もリオ様も口癖のようにちゃんとご飯は食べたか確認していた。
それだけ周りから見て痩せきった子供だったんだろう。
マリナがルカを見て感じる気持ちときっと同じだ。
師匠たちが手と目を掛けてくれたからこうしていられる。
ルカにも同じように信頼できる人を見つけてほしい。
自分が今幸せだからか、余計にそう願わずにはいられない。勝手な願いだとは思うけれど。
幸せだと口に出来たとき、より幸せを実感できると思うから。
「よし、食べたら出るか」
「うん! 今度こそ出発ね」
遅い出発になったけど、意味があったと思う。
偶然盗賊団の襲撃を受けた馬車の救助に居合わせて、盗賊団の探索に力を貸して、ルカと出会った。
まるですべてが導かれるような流れの中にあって。
この先の歩みもより良い未来に続いていると、そう信じられた。
捕まったら終わりだといつも言われていた。
子供だからとか関係なしに牢屋に入れられてずっとそこで暮らすことになるんだと。
でも、なんだか様子が違う。
最初に連れてこられたのは少し広い、多分訓練場みたいなところだと思う。
魔術師の女の人、マリナさんがいて、思いっきり魔力を出すように言われた。
壁とかを壊したらいけないと思って断ろうとしたけど、結界を張るから大丈夫だと言われて全力で力を解放した。
多分、押さえようとしないで力を使ったのは初めてだ。
全力だったのに、マリナさんは全く表情を変えないで、というか楽しそうな顔で私を見ていた。
終わるとその場で石を彫って何か作っていた。あっという間にできたそれは私専用の魔封じ。
それを付けていれば力で何かすることは出来ないと言われて、ほっとした。
これならあの人に命令されても何もできない。
小さな石が嵌まった腕輪の模様に見とれていると私を連れてきた騎士様が少し怒っていた。
なんでこんな無駄に飾りが多いんだとか。
でもマリナさんは可愛い方がいいでしょう、女の子なんだからと言い返していた。
マリナさんは可愛い物が好きなのかもしれない。
綺麗な人だから、可愛い物もきっと似合う。
マリナさんが作った魔封じも可愛くて、どうせ着けなきゃいけない物なので可愛いかったのはちょっとうれしかった。
試しにさっきと同じくらい全力で力を出そうとしてみたけれど本当に全然力が使えなかった。これがあれば普通の子みたいに生活できたのかもしれない。
その後、また別の場所に行くと言われて騎士様について行った。
あの人が言ってたように牢屋に入れられるのかと思ったけど、私が連れてこられたのは普通の部屋。
少し小さくて物が少ないけど、予想してた場所と違うところに連れてこられて戸惑った。
「ルカほど小さい子供を入れるような牢はないんだ。
ここは反省室だけど鍵はかかるからな、勝手に出ないようにするんだぞ」
他の人より若い騎士の人がそう教えてくれる。
反省室だと聞いてびっくりした。騎士様でも反省しなさいって怒られることがあるんだ。
休んでいいと言われたけど、椅子もベッドもきれいすぎて汚れた私が乗っちゃいけない気がする。
いつからお風呂に入ってないのか、もう忘れた。川の水で汗を流すくらいはしてたけど、石鹸はほとんど使わせてもらえなかったから。
触ったら汚してしまいそうで部屋に一歩入ったところで動けなくなった。
「ん? どうした。 遠慮しなくていいんだぞ?
それとも飯が先がいいのか?」
言われてお腹が鳴った。
「ああ、やっぱり飯を先にするか。
ちょうど朝飯の時間、っつっても夜中から起きてたんだし、なんか違う気もするけどな」
持ってくるから待ってろと騎士様が言う。
「待って」
お腹を押さえて違うと首を振る。
「なんだ? 腹が減ってるならそれこそ遠慮するなよ。
腹減ってるんだろ?」
「お腹は空いてる、けど、そうじゃなくて。
こんなきれいな部屋使えない。 私がいたら汚れちゃう」
騎士様には粗末なのかもしれないけれど、私にはとても上等な物に見える。敷布だって真っ白でシワも寄ってない。
「あ? ああ、気づかなくて悪い。 女の子だもんな。
後で浴場を使えばいい。 この時間なら使う人間もいないし、ちゃんと人払いをするから安心しろ」
考えてもみなかったことを言われて慌てた。
「違う、お風呂なんて……」
そういうつもりで言ったんじゃないのに。
「どちらにせよ、まずは飯だな。 持ってくるから部屋を出るなよ」
騎士様は私の話なんて聞かないで部屋を出ていく。
仕方ないので大人しく待つ。
しばらくして持って来てくれたのはまだ湯気の立つスープとパンだった。
テーブルに置かれた食事は一人分で、全部食べていいと言われる。
立ったまま食べようとしたらちゃんと椅子に座れと注意された。
出来るだけ汚さないように浅く座って、布巾で手を拭く。
見られてるのは気になったけど、冷める前にと手を伸ばす。
あったかくて、具もたくさん入っていて、野菜のカスが浮いたいつものスープと全然違う。腸詰にかぶりつくと口の中ではじけておいしさが広がる。
付いてきたパンを千切ると、柔らかくて、いい香りがした。冷めきって硬くなった、スープに漬けないと食べられないパンが当たり前だったのでとても驚いた。
おいしい。おなかの中から温まっていくのを感じる。
もったいなくてゆっくりと食べる。ふと、向かいに座っている騎士様が慌てた顔で私を見た。
「おい、泣くな」
「え?」
言われて気が付いた。
頬が濡れている。
スプーンを持ったまま頬を拭う。拭ったそばからまた新たな涙が溢れた。
「おいしいからだから、気にしないで」
騎士様を困らせてるのがわかっても涙は止まらない。
涙がスープに落ちないように注意しながら最後の一滴まで飲み干して、ようやく涙は止まった。
「眠そうだな」
「んー、大丈夫。 動いてたら覚めるし、夜更かしには慣れてるから!」
「褒められたことじゃないな」
思いのほか真面目に返されて口を噤む。
「せっかく久しぶりに故郷に顔を出すんだ、元気な顔を見せてやった方が喜ぶだろう?」
「そうね。 でも、あの頃からしたら健康そのものな姿だと思わない?
背だって伸びたし、食べたり食べなかったりだった頃に比べたらふっくらしたし」
そう、子供の頃に比べたら。
人よりは緩やかな成長だったかもしれないけれど、十分だと思う。
うん、比較してもしょうがないし。
アデーレ様のような大人の女性に憧れなかったわけではないけれど、それが理想だったわけじゃない。
自分で道を選んで歩けるような大人になること。
それが幼い頃の一番の夢で、それはこれ以上ないくらい叶っている。
幸せだ、自信を持ってそう言える。それこそが幸せなことだと思った。
「そうだな、ルカを見て思い出した。 お前も昔はあんな風に痩せていたな」
「あそこまでじゃなかったとおもうけど、でも、同じようなものだったわね」
昔は師匠もリオ様も口癖のようにちゃんとご飯は食べたか確認していた。
それだけ周りから見て痩せきった子供だったんだろう。
マリナがルカを見て感じる気持ちときっと同じだ。
師匠たちが手と目を掛けてくれたからこうしていられる。
ルカにも同じように信頼できる人を見つけてほしい。
自分が今幸せだからか、余計にそう願わずにはいられない。勝手な願いだとは思うけれど。
幸せだと口に出来たとき、より幸せを実感できると思うから。
「よし、食べたら出るか」
「うん! 今度こそ出発ね」
遅い出発になったけど、意味があったと思う。
偶然盗賊団の襲撃を受けた馬車の救助に居合わせて、盗賊団の探索に力を貸して、ルカと出会った。
まるですべてが導かれるような流れの中にあって。
この先の歩みもより良い未来に続いていると、そう信じられた。
捕まったら終わりだといつも言われていた。
子供だからとか関係なしに牢屋に入れられてずっとそこで暮らすことになるんだと。
でも、なんだか様子が違う。
最初に連れてこられたのは少し広い、多分訓練場みたいなところだと思う。
魔術師の女の人、マリナさんがいて、思いっきり魔力を出すように言われた。
壁とかを壊したらいけないと思って断ろうとしたけど、結界を張るから大丈夫だと言われて全力で力を解放した。
多分、押さえようとしないで力を使ったのは初めてだ。
全力だったのに、マリナさんは全く表情を変えないで、というか楽しそうな顔で私を見ていた。
終わるとその場で石を彫って何か作っていた。あっという間にできたそれは私専用の魔封じ。
それを付けていれば力で何かすることは出来ないと言われて、ほっとした。
これならあの人に命令されても何もできない。
小さな石が嵌まった腕輪の模様に見とれていると私を連れてきた騎士様が少し怒っていた。
なんでこんな無駄に飾りが多いんだとか。
でもマリナさんは可愛い方がいいでしょう、女の子なんだからと言い返していた。
マリナさんは可愛い物が好きなのかもしれない。
綺麗な人だから、可愛い物もきっと似合う。
マリナさんが作った魔封じも可愛くて、どうせ着けなきゃいけない物なので可愛いかったのはちょっとうれしかった。
試しにさっきと同じくらい全力で力を出そうとしてみたけれど本当に全然力が使えなかった。これがあれば普通の子みたいに生活できたのかもしれない。
その後、また別の場所に行くと言われて騎士様について行った。
あの人が言ってたように牢屋に入れられるのかと思ったけど、私が連れてこられたのは普通の部屋。
少し小さくて物が少ないけど、予想してた場所と違うところに連れてこられて戸惑った。
「ルカほど小さい子供を入れるような牢はないんだ。
ここは反省室だけど鍵はかかるからな、勝手に出ないようにするんだぞ」
他の人より若い騎士の人がそう教えてくれる。
反省室だと聞いてびっくりした。騎士様でも反省しなさいって怒られることがあるんだ。
休んでいいと言われたけど、椅子もベッドもきれいすぎて汚れた私が乗っちゃいけない気がする。
いつからお風呂に入ってないのか、もう忘れた。川の水で汗を流すくらいはしてたけど、石鹸はほとんど使わせてもらえなかったから。
触ったら汚してしまいそうで部屋に一歩入ったところで動けなくなった。
「ん? どうした。 遠慮しなくていいんだぞ?
それとも飯が先がいいのか?」
言われてお腹が鳴った。
「ああ、やっぱり飯を先にするか。
ちょうど朝飯の時間、っつっても夜中から起きてたんだし、なんか違う気もするけどな」
持ってくるから待ってろと騎士様が言う。
「待って」
お腹を押さえて違うと首を振る。
「なんだ? 腹が減ってるならそれこそ遠慮するなよ。
腹減ってるんだろ?」
「お腹は空いてる、けど、そうじゃなくて。
こんなきれいな部屋使えない。 私がいたら汚れちゃう」
騎士様には粗末なのかもしれないけれど、私にはとても上等な物に見える。敷布だって真っ白でシワも寄ってない。
「あ? ああ、気づかなくて悪い。 女の子だもんな。
後で浴場を使えばいい。 この時間なら使う人間もいないし、ちゃんと人払いをするから安心しろ」
考えてもみなかったことを言われて慌てた。
「違う、お風呂なんて……」
そういうつもりで言ったんじゃないのに。
「どちらにせよ、まずは飯だな。 持ってくるから部屋を出るなよ」
騎士様は私の話なんて聞かないで部屋を出ていく。
仕方ないので大人しく待つ。
しばらくして持って来てくれたのはまだ湯気の立つスープとパンだった。
テーブルに置かれた食事は一人分で、全部食べていいと言われる。
立ったまま食べようとしたらちゃんと椅子に座れと注意された。
出来るだけ汚さないように浅く座って、布巾で手を拭く。
見られてるのは気になったけど、冷める前にと手を伸ばす。
あったかくて、具もたくさん入っていて、野菜のカスが浮いたいつものスープと全然違う。腸詰にかぶりつくと口の中ではじけておいしさが広がる。
付いてきたパンを千切ると、柔らかくて、いい香りがした。冷めきって硬くなった、スープに漬けないと食べられないパンが当たり前だったのでとても驚いた。
おいしい。おなかの中から温まっていくのを感じる。
もったいなくてゆっくりと食べる。ふと、向かいに座っている騎士様が慌てた顔で私を見た。
「おい、泣くな」
「え?」
言われて気が付いた。
頬が濡れている。
スプーンを持ったまま頬を拭う。拭ったそばからまた新たな涙が溢れた。
「おいしいからだから、気にしないで」
騎士様を困らせてるのがわかっても涙は止まらない。
涙がスープに落ちないように注意しながら最後の一滴まで飲み干して、ようやく涙は止まった。
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