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セレスタ 故郷編
幼き魔術師 1
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布を被ったような粗末な服。細すぎるほど細い手足。
肩に付かない髪は長さもばらばらでツヤもなく、ぱっと見、男か女かもわからない。
攻撃されなければ盗賊団の仲間とは信じられないような相手だった。
「な……、子供?!」
立ち上がった子供の姿にラースさんが驚愕の声を上げる。
隣のルーカスさんは厳しい顔で子供を見つめていた。
その姿に、マリナは思わず声をかける。
「その格好寒くないですか?」
夜明け間近の森の中で存在するには異常な姿だ。
「これしかない」
見てるこっちの方が寒いと言うと抑揚のない声で答える。
落ち葉を踏みしめる足は裸足だった。
「中にある敷布でもいいから上に羽織りませんか? 慣れていても寒いでしょう」
わかったようなことを言うなと怒られるかとも思ったけど子供は大人しく頷く。
「ラースさん、中から適当な物を取ってきてください」
「なんで俺が……!」
反射的に否定の言葉を発したラースさんだったけど子供と目が合い、気まずそうに顔を背けて中に入っていった。
「まずは名前を聞いてもいいですか?」
ルーカスさんが穏やかな声で問いかける。
一定の距離を保っているのは騎士らしい注意深さだと思う。さっき攻撃されたのを忘れていないのだろう。
「ルカ」
素直に質問に答えたのでもう一つ聞いてみる。
「女の子ですか?」
「うん」
ルカが肯く。
このくらいの子供だとどちらにも見えるので聞いて正解だった。可愛らしい顔をした男の子かなと思っていたから。
年のころ7~9歳くらいに見えるけれど、もう少し上の可能性もある。栄養が足りていない身体を見れば昔のマリナみたいに年よりも育ちが悪いことは考えられた。
ルカの姿を見る限り彼女が好きで盗賊に手を貸していたとは考えがたい。
詳しい話は街に戻ってから聞くことになるだろうけど、ルカの目に敵意が浮かんでいないのは確かだった。
話を聞いていると建物の裏手からヴォルフとユリウスさんが歩いてきた。盗賊たちの捕縛が終わったので合流しに来たようだ。
「その子供が魔術師か?」
マリナが側にいるのを見てヴォルフが聞いてくる。
「そう。 名前はルカ。
今ラースさんが上に羽織れるような物を取りに行ってる」
寒そうな格好をしているルカを見てユリウスさんが頷く。
「そうだな、その格好では風邪をひくかもしれない。 馬上は冷える」
今のルカの格好では間違いなく冷えて体調を崩すことになりそうだ。あんまり健康そうにも見えないし。
遅いと建物を見るとラースさんが戻ってきた。
やせぎすな身体を敷布で包む。毛布も持ってきてくれたけれど動きづらいと辞退された。
馬に乗るときに掛けてあげればいいだろうとラースさんに返す。
文句を言いたそうな顔をしたけれどルカの目の前だからか何も言わずに毛布を抱えた。
「そちらには問題ありませんでしたか?」
「何も。 一人二人逃げてきたくらいで暇だった」
ルーカスさんがユリウスさんに聞くと退屈だったと言いたげな声が返ってくる。
急襲は成功して、殆どの盗賊たちは逃げ出す間もなかったようだ。
「では戻りましょうか」
二人に声を掛けて歩き出す。
ルーカスさんが前を歩き、その後ろにルカが続く。
ルカの左側には毛布を持ったラースさんが並び、マリナはルカの右隣りの少し後ろを歩いている。
マリナの後ろにはユリウスさんとヴォルフが続き、ルカの挙動を注視していた。
多分抵抗なんてしないだろうけれど、無警戒になれるわけもない。ルカは気づいているけれど仕方ないといった様子で無言で歩いている。
建物を通り過ぎようとしたとき、壊した扉から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「離せこの野郎!」
縄を掛けられ連行されながらもまだ抵抗を続ける者がいるらしい。
「暴れるな!」
男が建物から出てきたところで、ルカに目を止めた。
「ルカ! てめえ何やってんだ!
こいつらを蹴散らせ!」
男に名を呼ばれたルカが顔を強張らせ、足を止める。
青白い顔が乏しい表情を更に失わせていく。
「誰があの家から連れ出してやったと思ってんだ!」
異変を察したラースさんが落ち着かせようとルカの背をさする。
「落ち着け、耳を貸すな」
ラースさんの声が聞こえたのかルカはぎこちなくラースさんを見上げようとする。しかし……。
「いいから、やれ!!」
男の怒鳴り声にくるまった敷布を掴むルカの手が震えた。
手を振り上げ、男を連行する騎士たちに向けて手を振り下ろす。
「止め……」
ラースさんが上げた制止の声は男の恫喝に恐慌をきたしたルカには届かなかった。
肩に付かない髪は長さもばらばらでツヤもなく、ぱっと見、男か女かもわからない。
攻撃されなければ盗賊団の仲間とは信じられないような相手だった。
「な……、子供?!」
立ち上がった子供の姿にラースさんが驚愕の声を上げる。
隣のルーカスさんは厳しい顔で子供を見つめていた。
その姿に、マリナは思わず声をかける。
「その格好寒くないですか?」
夜明け間近の森の中で存在するには異常な姿だ。
「これしかない」
見てるこっちの方が寒いと言うと抑揚のない声で答える。
落ち葉を踏みしめる足は裸足だった。
「中にある敷布でもいいから上に羽織りませんか? 慣れていても寒いでしょう」
わかったようなことを言うなと怒られるかとも思ったけど子供は大人しく頷く。
「ラースさん、中から適当な物を取ってきてください」
「なんで俺が……!」
反射的に否定の言葉を発したラースさんだったけど子供と目が合い、気まずそうに顔を背けて中に入っていった。
「まずは名前を聞いてもいいですか?」
ルーカスさんが穏やかな声で問いかける。
一定の距離を保っているのは騎士らしい注意深さだと思う。さっき攻撃されたのを忘れていないのだろう。
「ルカ」
素直に質問に答えたのでもう一つ聞いてみる。
「女の子ですか?」
「うん」
ルカが肯く。
このくらいの子供だとどちらにも見えるので聞いて正解だった。可愛らしい顔をした男の子かなと思っていたから。
年のころ7~9歳くらいに見えるけれど、もう少し上の可能性もある。栄養が足りていない身体を見れば昔のマリナみたいに年よりも育ちが悪いことは考えられた。
ルカの姿を見る限り彼女が好きで盗賊に手を貸していたとは考えがたい。
詳しい話は街に戻ってから聞くことになるだろうけど、ルカの目に敵意が浮かんでいないのは確かだった。
話を聞いていると建物の裏手からヴォルフとユリウスさんが歩いてきた。盗賊たちの捕縛が終わったので合流しに来たようだ。
「その子供が魔術師か?」
マリナが側にいるのを見てヴォルフが聞いてくる。
「そう。 名前はルカ。
今ラースさんが上に羽織れるような物を取りに行ってる」
寒そうな格好をしているルカを見てユリウスさんが頷く。
「そうだな、その格好では風邪をひくかもしれない。 馬上は冷える」
今のルカの格好では間違いなく冷えて体調を崩すことになりそうだ。あんまり健康そうにも見えないし。
遅いと建物を見るとラースさんが戻ってきた。
やせぎすな身体を敷布で包む。毛布も持ってきてくれたけれど動きづらいと辞退された。
馬に乗るときに掛けてあげればいいだろうとラースさんに返す。
文句を言いたそうな顔をしたけれどルカの目の前だからか何も言わずに毛布を抱えた。
「そちらには問題ありませんでしたか?」
「何も。 一人二人逃げてきたくらいで暇だった」
ルーカスさんがユリウスさんに聞くと退屈だったと言いたげな声が返ってくる。
急襲は成功して、殆どの盗賊たちは逃げ出す間もなかったようだ。
「では戻りましょうか」
二人に声を掛けて歩き出す。
ルーカスさんが前を歩き、その後ろにルカが続く。
ルカの左側には毛布を持ったラースさんが並び、マリナはルカの右隣りの少し後ろを歩いている。
マリナの後ろにはユリウスさんとヴォルフが続き、ルカの挙動を注視していた。
多分抵抗なんてしないだろうけれど、無警戒になれるわけもない。ルカは気づいているけれど仕方ないといった様子で無言で歩いている。
建物を通り過ぎようとしたとき、壊した扉から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「離せこの野郎!」
縄を掛けられ連行されながらもまだ抵抗を続ける者がいるらしい。
「暴れるな!」
男が建物から出てきたところで、ルカに目を止めた。
「ルカ! てめえ何やってんだ!
こいつらを蹴散らせ!」
男に名を呼ばれたルカが顔を強張らせ、足を止める。
青白い顔が乏しい表情を更に失わせていく。
「誰があの家から連れ出してやったと思ってんだ!」
異変を察したラースさんが落ち着かせようとルカの背をさする。
「落ち着け、耳を貸すな」
ラースさんの声が聞こえたのかルカはぎこちなくラースさんを見上げようとする。しかし……。
「いいから、やれ!!」
男の怒鳴り声にくるまった敷布を掴むルカの手が震えた。
手を振り上げ、男を連行する騎士たちに向けて手を振り下ろす。
「止め……」
ラースさんが上げた制止の声は男の恫喝に恐慌をきたしたルカには届かなかった。
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