双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 故郷編

旅の途中で 2

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 路地裏は揉め事が多い。
「……!」
 言い合いのような声が聞こえたので視線を向けると女性二人と男性一人が向かい合っているところが目に入る。
「だからアンタなんてお呼びじゃないのよ! とっとと帰んなさいよ!」
「お前には関係ないだろう! 友人面して僕たちの邪魔をするな!」
 茶色の髪を後ろで一つに結んだ女性が友人らしき女の子を後ろに庇いながら男性を睨みつける。
 男性は怒りからか顔を赤らめていてあまり良い様子ではないな、と思う。
「アンネ! そんな女の側にいないでこっちにおいで?」
 男性が女の子に向かって手を伸ばす。が、どう見ても女の子は男性を恐れて友人の背中にしがみついている。
 友人の怯えを感じ取った女性の瞳に強い意志が宿った。
「この子のことは諦めて。 アンタみたいな男が近づいていい子じゃないの」
 女性のセリフに男性の瞳に剣呑さが増す。
「お前こそ余計な口を叩かずに消えろ!!
 僕はアンネと話しているんだ!!」
 男性が一歩踏み出し女性を見下ろした。
 わずかに身体を揺らしたものの一歩も引かずに女性は男性を睨み続ける。
「ヴォルフ、どうしたらいいと思う?」
 暴力沙汰にでもなったら大事なので、あまりに剣呑な雰囲気になったら割って入ろうと思って見ていた。
 女性はふたりとも男性に対して怯えを感じているようだし、男性の態度も褒められたものじゃない。
「声を掛けるか。 あの男の態度は些か問題を感じる」
「やっぱりそうなるわよね……」
 他人の揉め事に首を突っ込むのは良しとしないが、そうも言っていられない雰囲気だ。
 声を掛けてみて、余計なお世話だったなら立ち去ればいいし。
 と、迷っていた間に場はさらに険悪になっていた。
「お前、何の権利があって僕たちの邪魔をするんだ……」
「だからアンネはアンタとどうこうなる気は無いって言ってるでしょうが!!」
 押し殺したような怒りの声に叩きつけるような叱責が重なる。
 それに男性が激高した。
「黙れ!!」
 女性の言葉を消そうとするように男性が怒鳴り声を上げ、握っていた拳を振り上げる。
 女の子が小さく悲鳴を上げ、女性がぎゅっと目を瞑るのが見えた。
「それは駄目じゃない?」
 流石に見ていられなくて割って入る。
「……え?」
 女性が小さく疑問を零す。
「な、なんだお前は!?」
 声を掛けたマリナを三対の目が見つめた。
「随分と騒いでいたようですが……、お困りですか?」
 男性を無視して女性たちに声を掛ける。
 前に立って友人を守っていた女性がマリナを見、後ろにいるヴォルフを見て表情を緩ませた。
「この人に付きまとわれて困ってるんです」
 女性が助けを求める言葉を口にしたことで男性が表情を変える。
 騒ぎになって人が駆けつけてくる事態になるのは困るのだろう。
「違うっ! この女が邪魔をするからっ!」
「いずれにせよ私たちはあなたがそちらの女性に手を振り上げるところを見ています。
 冷静でいらっしゃらないようですから、今は立ち去られた方がよろしいかと」
 丁重な言葉を選びながら男性を促す。
 分が悪いと悟ったのか男性が怯む。視線がちらりとヴォルフを向き、忌々しそうに舌打ちをして立ち去って行った。
 どう見ても男性は肉体労働をしてなさそうだったし、一目見ただけで鍛えているとわかるヴォルフ相手に食って掛かるなんて馬鹿なことはしないようだ。
 男性の姿が見えなくなり、女性がほっと息を吐く。
「あの、ありがとうございました」
「いいえ、お困りのようでしたので」
 気にしなくていいと答えるマリナたちに女性が再度頭を下げる。
「ほら、あなたもお礼を言いなさい!」
 隠れていた女の子は女性に背中を押されてようやく出てきた。
「あ……、あの、ありがとうございました」
 ご迷惑をおかけしてごめんなさいと言う女の子は薄い茶色の髪に零れそうな大きな空色の瞳が特徴的で、シャルロッテを思い出す。
 シャルロッテと同じ色なのに与える印象が全然違うなー、と思う。
 シャルロッテはきりっとした目をしていて強気なお嬢様といった外見だ。
 目の前の女の子は庇護欲をそそりそうな可愛らしい見た目をしている。
 恐怖からか未だ瞳を潤ませている彼女はお礼を言った後、また女性の後ろに隠れてしまった。
「すみません、人見知りで……」
 女性の方が申し訳なさそうに謝る。
「かまいませんよ。 さっきの人がまだ近くにいないとも限らないので人通りのあるところまでご一緒しましょうか」
 そう申し出ると女性も不安だったのかぜひ、と頼まれた。
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