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異世界<日本>視察編
出立
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「……」
手元を照らしながら魔道具を加工していく。
小さな文様を凝視しているからか目が疲れてきた。
ふう、と息を吐いて手を止める。
結婚式の余興の構成は決まった。
ジグ様にも話をして、必要な物を集めているところだ。
その中でも必要不可欠なのがこの魔道具。
レグルスで活躍した物を一部改良して複数作ることになった。
実験では上手くいったので本格的に話を進めている。
ヴォルフに知られたらまた根を詰めているのかと怒られてしまいそうだけど、これが早く完成すれば他の魔術師たちの仕事も順当に進む。
村に行くまでに必要な個数を作って行きたかった。
必要な数は少ないけれど緻密な作業なので失敗をしないように気を使う。
手順を誤れば材料と時間が無駄になる、集中力のいる作業だ。
少しだけ休憩しようと立ち上がってお茶を入れに行く。
冷たいものが飲みたくなったのでお茶を冷やし氷を入れる。
口の中に流れ込むお茶が口内と頭を冷やしていく。
花火大会に行ってから頭の中でイメージが膨らんで、あれもこれもと作りたくなって困るほどだ。
優先順位はあるけれど気づけば思索に耽っていることもあるくらい、花火の美しさに感銘を受けた。
おかげで結婚式で使う魔道具の作成も捗っている。
魔道具作りと平行して村に帰る準備もしていた。
といってもマリナがするのは自分の身支度とおばさんたちへのお土産を考えるくらいで、その他の手配はヴォルフに任せきりだ。
色々な人のおかげで最近は村に帰る日が憂鬱だけでなく少し楽しみになってきた。
もちろん父親のことを考えるとまだ不安もあるけれどなるようにしかならない。
お茶を飲み終えてまた作業に戻る。
集中できたおかげで、早々に魔道具は完成した。
心配性な主に見送られて王宮を後にする。
「マリナ、気を付けて行ってくるんだよ」
「大丈夫ですよ王子。 道中は平坦な道ばかりですし、レグルスに行った時よりも楽な旅路になると思います」
距離だってレグルスより短いくらいだ。
まあ、王子が心配しているのはそれじゃないけど。
「王子、私もヴォルフもあなたの双翼です。
お側を離れるのは心苦しいですが……、必ず戻ってきますので、あまり心配なさらないでください」
寧ろ心配してるのはマリナの方かもしれない。
近衛騎士だって万全の体制を敷いているのだし、危険なんてそうないとわかっていてもだ。
「……すまない、そうだったな。
私がどっしり構えていなくては、君も安心できないか」
肯いた王子が表情を改める。
「こちらのことは心配しなくていいから、君は君の家族に向き合ってきなさい。
私はここで待っているから」
先ほどまでからの変わりように笑みが零れる。
「はい、ありがとうございます」
マリナの返事に王子も表情を緩めて今度はヴォルフの方を向く。
「ヴォルフ、わかっていると思うけれどマリナを支えてくれ。
意外とマリナは気が付いたら無茶ばかりしているから」
「わかっています。
目を離しませんから、安心してください」
マリナとヴォルフ両方から大丈夫だと言われて王子も落ち着いたみたいだ。
後ろから呆れたような内務卿の声が聞こえる。
「王子、二人とも子供ではないのですから、そう心配せずとも大丈夫でしょう」
「わかっている。 わかっているが、理屈ではないんだ」
王子に困ったような笑みを向け、内務卿がマリナに視線を移す。
「王子の結婚式に向けて準備を進めているでしょう。
式の見世物はあなたが中心です、魔術師たちが暴走を始める前に戻ってきなさい」
真面目な顔で命じる内務卿に笑いを堪える。
結局王子と同じようなことを言ってると気が付いてるのかな。
「では、行ってきますね」
心配されるほど遠い場所ではない。
道中も危ないことは起こらないだろう。
後はマリナがどう自分の父親と向き合うかだけ。
くすぐったい気持ちを抱えながら馬に乗る。
ヴァルトさんと目が合うと力強く頷いてくれた。
王子のことは任せろと伝える目にマリナも微笑み返す。
王宮のことは何も心配いらない。
前を行くヴォルフに視線を移せばすでに走り出していた。
皆に手を振ってヴォルフの背を追いかける。
いつかの遠駆けのように何も考えず、ヴォルフの背中だけを見て。
新涼の中、マリナたちは故郷に向けて出発した。
――――――――――――――――――――――――――――
以前お知らせしていたお休みを明日からいただきます!
期間は最大でも2週間程度になる予定。
再開は近況ボードにてお知らせしますので、それまでお待ちいただけると幸いです。
手元を照らしながら魔道具を加工していく。
小さな文様を凝視しているからか目が疲れてきた。
ふう、と息を吐いて手を止める。
結婚式の余興の構成は決まった。
ジグ様にも話をして、必要な物を集めているところだ。
その中でも必要不可欠なのがこの魔道具。
レグルスで活躍した物を一部改良して複数作ることになった。
実験では上手くいったので本格的に話を進めている。
ヴォルフに知られたらまた根を詰めているのかと怒られてしまいそうだけど、これが早く完成すれば他の魔術師たちの仕事も順当に進む。
村に行くまでに必要な個数を作って行きたかった。
必要な数は少ないけれど緻密な作業なので失敗をしないように気を使う。
手順を誤れば材料と時間が無駄になる、集中力のいる作業だ。
少しだけ休憩しようと立ち上がってお茶を入れに行く。
冷たいものが飲みたくなったのでお茶を冷やし氷を入れる。
口の中に流れ込むお茶が口内と頭を冷やしていく。
花火大会に行ってから頭の中でイメージが膨らんで、あれもこれもと作りたくなって困るほどだ。
優先順位はあるけれど気づけば思索に耽っていることもあるくらい、花火の美しさに感銘を受けた。
おかげで結婚式で使う魔道具の作成も捗っている。
魔道具作りと平行して村に帰る準備もしていた。
といってもマリナがするのは自分の身支度とおばさんたちへのお土産を考えるくらいで、その他の手配はヴォルフに任せきりだ。
色々な人のおかげで最近は村に帰る日が憂鬱だけでなく少し楽しみになってきた。
もちろん父親のことを考えるとまだ不安もあるけれどなるようにしかならない。
お茶を飲み終えてまた作業に戻る。
集中できたおかげで、早々に魔道具は完成した。
心配性な主に見送られて王宮を後にする。
「マリナ、気を付けて行ってくるんだよ」
「大丈夫ですよ王子。 道中は平坦な道ばかりですし、レグルスに行った時よりも楽な旅路になると思います」
距離だってレグルスより短いくらいだ。
まあ、王子が心配しているのはそれじゃないけど。
「王子、私もヴォルフもあなたの双翼です。
お側を離れるのは心苦しいですが……、必ず戻ってきますので、あまり心配なさらないでください」
寧ろ心配してるのはマリナの方かもしれない。
近衛騎士だって万全の体制を敷いているのだし、危険なんてそうないとわかっていてもだ。
「……すまない、そうだったな。
私がどっしり構えていなくては、君も安心できないか」
肯いた王子が表情を改める。
「こちらのことは心配しなくていいから、君は君の家族に向き合ってきなさい。
私はここで待っているから」
先ほどまでからの変わりように笑みが零れる。
「はい、ありがとうございます」
マリナの返事に王子も表情を緩めて今度はヴォルフの方を向く。
「ヴォルフ、わかっていると思うけれどマリナを支えてくれ。
意外とマリナは気が付いたら無茶ばかりしているから」
「わかっています。
目を離しませんから、安心してください」
マリナとヴォルフ両方から大丈夫だと言われて王子も落ち着いたみたいだ。
後ろから呆れたような内務卿の声が聞こえる。
「王子、二人とも子供ではないのですから、そう心配せずとも大丈夫でしょう」
「わかっている。 わかっているが、理屈ではないんだ」
王子に困ったような笑みを向け、内務卿がマリナに視線を移す。
「王子の結婚式に向けて準備を進めているでしょう。
式の見世物はあなたが中心です、魔術師たちが暴走を始める前に戻ってきなさい」
真面目な顔で命じる内務卿に笑いを堪える。
結局王子と同じようなことを言ってると気が付いてるのかな。
「では、行ってきますね」
心配されるほど遠い場所ではない。
道中も危ないことは起こらないだろう。
後はマリナがどう自分の父親と向き合うかだけ。
くすぐったい気持ちを抱えながら馬に乗る。
ヴァルトさんと目が合うと力強く頷いてくれた。
王子のことは任せろと伝える目にマリナも微笑み返す。
王宮のことは何も心配いらない。
前を行くヴォルフに視線を移せばすでに走り出していた。
皆に手を振ってヴォルフの背を追いかける。
いつかの遠駆けのように何も考えず、ヴォルフの背中だけを見て。
新涼の中、マリナたちは故郷に向けて出発した。
――――――――――――――――――――――――――――
以前お知らせしていたお休みを明日からいただきます!
期間は最大でも2週間程度になる予定。
再開は近況ボードにてお知らせしますので、それまでお待ちいただけると幸いです。
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