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異世界<日本>視察編
日本の夏 4
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戻ってきた二人を見て何もなかったように声を掛ける。
「おかえりなさい。 たこ焼き冷めちゃいましたよ」
繋いでいる手には触れなかった。
近づいて来るのが目に入った時から美咲さんは手を振りほどこうとしてるけれど、メルヒオールがしっかり掴んでいるのか振りほどけないでいる。
花火が始まる前に戻ってきてよかった。
「あ、かき氷は溶けるので食べちゃいました」
残しておいたところでただの甘い水になるのは目に見えていたから。
おいしかった。
「え?! 大丈夫です! むしろ私こそすみません急にいなくなって!」
慌てたように手を振り美咲さんが答える。
ようやく手を離したメルヒオールがたこ焼きに手を伸ばす。
「始まったら食べてられないよね、良かった間に合って」
パックを開けてたこ焼きを食べ始める。
お茶もぬるくなってると思うけどかまわないだろう。
「お茶も買ってきてあるのでお二人でどうぞ」
何も聞かないマリナに戸惑いながら美咲さんがお茶を受け取る。
「後20分くらいですかね」
スマホの時計を見ながら始まるのを待つ。
ぎこちない動きでお茶を飲むと美咲さんは少し落ち着いた。
たわいもない話をしながら花火を待っているとすぐに時間がやってきた。
花火が始まる。
ざわざわと期待に満ちたざわめきが辺りを満たす。
マリナも期待に胸を躍らせながらその瞬間を待つ。
――――……!
甲高い笛の音に続いて光の花が夜空に咲いた。
遅れて音が響く。
わあっと歓声が上がった。
「……!」
思わず息を呑む。
空に残った火の粉が消える前に新たに笛の根が聞こえ、落ちる火の粉を追っていた視線が空に吸い上げられる。
次いで上がった花火は光の端が赤く変わった。
次々に上がる花火は多種多様な形や色をしている。
見入るあまりに言葉も出ない。
光が消え、空が静まるわずかな間に新たな笛の音が聞こえる。
その音が聞こえる度に期待が高まり、瞬きも忘れて空を見つめた。
「すごい……」
ようやく発せた言葉は単純な感嘆だけ。
連続で打ち上げられる花火の迫力に気が付いたら口を開けて目を奪われていた。
最後の花火が終わりアナウンスが聞こえる。
「綺麗でしたねー」
マリナを振り返って掛けられた美咲さんの言葉にも反応できない。
煙だけが残る空を見上げ、目に焼き付いた映像を頭の中で再生する。
胸に衝動が湧きあがった。
一刻も早くこのイメージを形にしたい。
ゆっくりと動く人並みに合わせて進みながら頭の中で式を組み立てる。
「来て良かったでしょ」
得意気なメルヒオールの言葉に頷く。
王子の結婚式の演出に使えそうだと勧めたメルヒオールに感謝する。
マリナの頭の中には既にイメージが固まっていた。
花火を魔術で再現するのではない。
それではただの真似になってしまう。
それでもヒントになるものはあった。
単純に花火を再現しても喜ばれるとは思う。
しかしマリナには今の花火を見てやってみたいことができた。
早くセレスタに戻って試したい。
その思いで気が逸った。
「おかえりなさい。 たこ焼き冷めちゃいましたよ」
繋いでいる手には触れなかった。
近づいて来るのが目に入った時から美咲さんは手を振りほどこうとしてるけれど、メルヒオールがしっかり掴んでいるのか振りほどけないでいる。
花火が始まる前に戻ってきてよかった。
「あ、かき氷は溶けるので食べちゃいました」
残しておいたところでただの甘い水になるのは目に見えていたから。
おいしかった。
「え?! 大丈夫です! むしろ私こそすみません急にいなくなって!」
慌てたように手を振り美咲さんが答える。
ようやく手を離したメルヒオールがたこ焼きに手を伸ばす。
「始まったら食べてられないよね、良かった間に合って」
パックを開けてたこ焼きを食べ始める。
お茶もぬるくなってると思うけどかまわないだろう。
「お茶も買ってきてあるのでお二人でどうぞ」
何も聞かないマリナに戸惑いながら美咲さんがお茶を受け取る。
「後20分くらいですかね」
スマホの時計を見ながら始まるのを待つ。
ぎこちない動きでお茶を飲むと美咲さんは少し落ち着いた。
たわいもない話をしながら花火を待っているとすぐに時間がやってきた。
花火が始まる。
ざわざわと期待に満ちたざわめきが辺りを満たす。
マリナも期待に胸を躍らせながらその瞬間を待つ。
――――……!
甲高い笛の音に続いて光の花が夜空に咲いた。
遅れて音が響く。
わあっと歓声が上がった。
「……!」
思わず息を呑む。
空に残った火の粉が消える前に新たに笛の根が聞こえ、落ちる火の粉を追っていた視線が空に吸い上げられる。
次いで上がった花火は光の端が赤く変わった。
次々に上がる花火は多種多様な形や色をしている。
見入るあまりに言葉も出ない。
光が消え、空が静まるわずかな間に新たな笛の音が聞こえる。
その音が聞こえる度に期待が高まり、瞬きも忘れて空を見つめた。
「すごい……」
ようやく発せた言葉は単純な感嘆だけ。
連続で打ち上げられる花火の迫力に気が付いたら口を開けて目を奪われていた。
最後の花火が終わりアナウンスが聞こえる。
「綺麗でしたねー」
マリナを振り返って掛けられた美咲さんの言葉にも反応できない。
煙だけが残る空を見上げ、目に焼き付いた映像を頭の中で再生する。
胸に衝動が湧きあがった。
一刻も早くこのイメージを形にしたい。
ゆっくりと動く人並みに合わせて進みながら頭の中で式を組み立てる。
「来て良かったでしょ」
得意気なメルヒオールの言葉に頷く。
王子の結婚式の演出に使えそうだと勧めたメルヒオールに感謝する。
マリナの頭の中には既にイメージが固まっていた。
花火を魔術で再現するのではない。
それではただの真似になってしまう。
それでもヒントになるものはあった。
単純に花火を再現しても喜ばれるとは思う。
しかしマリナには今の花火を見てやってみたいことができた。
早くセレスタに戻って試したい。
その思いで気が逸った。
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