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異世界<日本>視察編
メルヒオールの失敗 4
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女の子はマリナさんと名乗った。
メルヒオールさんやジグムントさんと同じ魔術師で、私より一つ年下だという。
まだ日本で言ったら高校生くらいなのに仕事をして、しかも結構偉いみたい。
魔術に関してはメルヒオールさんよりもすごいらしい。
年下の女の子が普通に働いていて、認められているっていう事実に驚く。
日本ならバイトがせいぜいで高校生くらいの歳から働き始める人は多くない。少なくとも私の周りにはいなかった。
「こちらの部屋を使ってください」
マリナさんに案内されて入った部屋はびっくりするくらい大きな部屋。
親戚の結婚式の時に泊まったホテルの部屋よりも大きくて豪華だ。
あの時はお母さんと一緒の二人部屋だったんだけどそのホテルの部屋二つ半くらいはある。
「あのっ、本当にいいんですか? こんな大きな部屋」
「ええ、大丈夫です。 というよりこの部屋以外に案内できる部屋がないので。
申し訳ありませんが日本のことは王宮の人間でもごく一部にしか知らせていません。
ですのでこの部屋の外には出ないようにお願いします。 必要な設備は全て室内に入っていますから」
大きい部屋を使うように言われたのはそういう理由もあったのかと納得した。
部屋の説明を聞いてなんだかわくわくしてくる。
ホテルよりも豪華な部屋で一泊していいなんて、なんだかお得な気分だった。
それを言うとマリナさんが私に呆れた目を向ける。
「呑気なことを言いますね。 いきなり異世界に連れて来られてもっと慌てたり怒ったりしないんですか?」
「うーん。 これで帰れないって言われたら別だと思いますけれど、明日には帰れるんですよね。
だったら楽しまないと損かなって。 ……呑気すぎますか?」
ますます呆れさせてしまうかなと思ったけれどマリナさんは笑って正直助かると言った。
話も出来ないほど動揺していたら落ち着かせるのに時間がかかるからと話すマリナさんを見ながら私は美少女が笑うとさらに可愛いと余計なことを考えていた。
メルヒオールさんたちと話していたときはきりっとした表情で、かわいい顔なのにかっこいい雰囲気だったけど、笑うと可愛さが前面に出てくる。
「でもメルヒオールを甘やかさないでくださいね。
他人を巻き込むなんてとんでもないことなんですから。
咄嗟にあなたの腕を掴んで離れないようにして良かった。
そうでなければあなただけ別の場所に飛ばされたかもしれないんです」
その説明を聞いて流石に少しぞっとした。
「ならメルヒオールさんのおかげでここにいるんですね」
全く違う場所に飛ばされたのなら日本にも帰れなかったかもしれない。
そう思うけれどマリナさんの返事は容赦なかった。
「いえ、その元凶がメルヒオールなんですよ」
でもそれは私にも少し責任がある。
魔法を使おうとしていたメルヒオールさんに近寄って話しかけたのは私の方だったから。
でもそれを言うと周りを確かめてから魔法を使わないのがいけないんだと言われそうだったので黙っていた。
「マリナさんは日本に来たことがあるんですよね」
「ええ、短い間でしたけれど」
「マリナさんが日本に来たのはメルヒオールさんと同じような理由?」
「違いますよ、日本に行ったのは偶然……、でしょうか」
言葉を選びながらマリナさんが答える。
今日の私と同じように突然のことだったと聞いて驚いた。
「そうなんですか、でもマリナさんは魔法が使えたからすぐに帰れたんですよね」
でも魔法が使えるならすぐに戻れたんだろうと思ったら違ったらしい。
「いえ、そちらの世界は魔力が薄くて、魔力が溜まるのには時間がかかるんです。
日本に行ったときは魔力が空っぽの状態でしたから、戻るにも時間がかかったでしょうね」
「中々こっちの世界に帰って来れなかったんですか?」
もし自分がそうだったらと思うと心臓がぎゅっと締め付けられるような気持ちになる。
いきなり知らないところにいただけでなく帰ることができないなんて、想像しただけで苦しくなってしまいそう。
「そうでもありませんでした。 ……迎えに来てくれた人がいたので」
わずかに言い淀んだ間が気になってマリナさんの顔を見つめると、その頬が微かに染まっていた。
目を伏せ頬を染める表情は私まで恥じらってしまうほど可愛らしい。
マリナさんにこんな表情をさせる人が誰なのか気になった。
見とれていると気まずそうな顔になったマリナさんが話を切り上げる。
「話し込んでしまって申し訳ありません。
疲れているはずなのでどうぞ休んでいてください」
そう言ってマリナさんは部屋の隅にある扉に向かっていく。
「私は隣の部屋にいますので何かあったら声を掛けてください」
「続き部屋になってるんですか?」
ますますすごい。隣もこの部屋と同じくらいなら私の家よりも大きいんだけど。
「ええ、気になるようでしたら鍵をかけてくださればいいので」
「大丈夫ですよ、気になりませんから」
女の子同士だし、マリナさんが側にいるのは心強い。
多分だけど私を一人にしないようにっていう配慮もありそうだ。
監視って言ったら嫌な言葉だけど、ここは王宮の中だって聞いたし、身元の知れない人間を一人にしておけないのはわかる。
マリナさんが出て行って一人になった部屋でベッドに座って部屋を見渡す。
食事はメルヒオールさんたちに説明をしてもらっているときに軽く食させてもらったのでお腹は空いていない。
思い出すとちょっと恥ずかしい。真面目な説明をされているときにお腹が鳴っちゃうなんて思わなかったから。
でもだから余計に現実なんだって納得した。
なんだか本当に現実離れした出来事なんだけど、間違いなく現実なんだ。
「夢じゃなくてよかった……」
呟いてベッドに倒れ込む。
柔らかい感触に気持ちが解けてく。
こんな不思議で素敵な体験が夢なんてもったいない。
ポケットに入れていたスマホを取り出して見る。
当然なのか圏外だ。
朦朧としながらシャッターを切る。
アルバムの一番上に豪華な部屋の写真が入っているのを確認したら手から力が抜け、スマホがベッドの上に落ちた。
一人になったら気が抜けたのか、急激に睡魔が襲ってくる。
見た夢はメルヒオールさんとの出会ったときの夢だった。
メルヒオールさんやジグムントさんと同じ魔術師で、私より一つ年下だという。
まだ日本で言ったら高校生くらいなのに仕事をして、しかも結構偉いみたい。
魔術に関してはメルヒオールさんよりもすごいらしい。
年下の女の子が普通に働いていて、認められているっていう事実に驚く。
日本ならバイトがせいぜいで高校生くらいの歳から働き始める人は多くない。少なくとも私の周りにはいなかった。
「こちらの部屋を使ってください」
マリナさんに案内されて入った部屋はびっくりするくらい大きな部屋。
親戚の結婚式の時に泊まったホテルの部屋よりも大きくて豪華だ。
あの時はお母さんと一緒の二人部屋だったんだけどそのホテルの部屋二つ半くらいはある。
「あのっ、本当にいいんですか? こんな大きな部屋」
「ええ、大丈夫です。 というよりこの部屋以外に案内できる部屋がないので。
申し訳ありませんが日本のことは王宮の人間でもごく一部にしか知らせていません。
ですのでこの部屋の外には出ないようにお願いします。 必要な設備は全て室内に入っていますから」
大きい部屋を使うように言われたのはそういう理由もあったのかと納得した。
部屋の説明を聞いてなんだかわくわくしてくる。
ホテルよりも豪華な部屋で一泊していいなんて、なんだかお得な気分だった。
それを言うとマリナさんが私に呆れた目を向ける。
「呑気なことを言いますね。 いきなり異世界に連れて来られてもっと慌てたり怒ったりしないんですか?」
「うーん。 これで帰れないって言われたら別だと思いますけれど、明日には帰れるんですよね。
だったら楽しまないと損かなって。 ……呑気すぎますか?」
ますます呆れさせてしまうかなと思ったけれどマリナさんは笑って正直助かると言った。
話も出来ないほど動揺していたら落ち着かせるのに時間がかかるからと話すマリナさんを見ながら私は美少女が笑うとさらに可愛いと余計なことを考えていた。
メルヒオールさんたちと話していたときはきりっとした表情で、かわいい顔なのにかっこいい雰囲気だったけど、笑うと可愛さが前面に出てくる。
「でもメルヒオールを甘やかさないでくださいね。
他人を巻き込むなんてとんでもないことなんですから。
咄嗟にあなたの腕を掴んで離れないようにして良かった。
そうでなければあなただけ別の場所に飛ばされたかもしれないんです」
その説明を聞いて流石に少しぞっとした。
「ならメルヒオールさんのおかげでここにいるんですね」
全く違う場所に飛ばされたのなら日本にも帰れなかったかもしれない。
そう思うけれどマリナさんの返事は容赦なかった。
「いえ、その元凶がメルヒオールなんですよ」
でもそれは私にも少し責任がある。
魔法を使おうとしていたメルヒオールさんに近寄って話しかけたのは私の方だったから。
でもそれを言うと周りを確かめてから魔法を使わないのがいけないんだと言われそうだったので黙っていた。
「マリナさんは日本に来たことがあるんですよね」
「ええ、短い間でしたけれど」
「マリナさんが日本に来たのはメルヒオールさんと同じような理由?」
「違いますよ、日本に行ったのは偶然……、でしょうか」
言葉を選びながらマリナさんが答える。
今日の私と同じように突然のことだったと聞いて驚いた。
「そうなんですか、でもマリナさんは魔法が使えたからすぐに帰れたんですよね」
でも魔法が使えるならすぐに戻れたんだろうと思ったら違ったらしい。
「いえ、そちらの世界は魔力が薄くて、魔力が溜まるのには時間がかかるんです。
日本に行ったときは魔力が空っぽの状態でしたから、戻るにも時間がかかったでしょうね」
「中々こっちの世界に帰って来れなかったんですか?」
もし自分がそうだったらと思うと心臓がぎゅっと締め付けられるような気持ちになる。
いきなり知らないところにいただけでなく帰ることができないなんて、想像しただけで苦しくなってしまいそう。
「そうでもありませんでした。 ……迎えに来てくれた人がいたので」
わずかに言い淀んだ間が気になってマリナさんの顔を見つめると、その頬が微かに染まっていた。
目を伏せ頬を染める表情は私まで恥じらってしまうほど可愛らしい。
マリナさんにこんな表情をさせる人が誰なのか気になった。
見とれていると気まずそうな顔になったマリナさんが話を切り上げる。
「話し込んでしまって申し訳ありません。
疲れているはずなのでどうぞ休んでいてください」
そう言ってマリナさんは部屋の隅にある扉に向かっていく。
「私は隣の部屋にいますので何かあったら声を掛けてください」
「続き部屋になってるんですか?」
ますますすごい。隣もこの部屋と同じくらいなら私の家よりも大きいんだけど。
「ええ、気になるようでしたら鍵をかけてくださればいいので」
「大丈夫ですよ、気になりませんから」
女の子同士だし、マリナさんが側にいるのは心強い。
多分だけど私を一人にしないようにっていう配慮もありそうだ。
監視って言ったら嫌な言葉だけど、ここは王宮の中だって聞いたし、身元の知れない人間を一人にしておけないのはわかる。
マリナさんが出て行って一人になった部屋でベッドに座って部屋を見渡す。
食事はメルヒオールさんたちに説明をしてもらっているときに軽く食させてもらったのでお腹は空いていない。
思い出すとちょっと恥ずかしい。真面目な説明をされているときにお腹が鳴っちゃうなんて思わなかったから。
でもだから余計に現実なんだって納得した。
なんだか本当に現実離れした出来事なんだけど、間違いなく現実なんだ。
「夢じゃなくてよかった……」
呟いてベッドに倒れ込む。
柔らかい感触に気持ちが解けてく。
こんな不思議で素敵な体験が夢なんてもったいない。
ポケットに入れていたスマホを取り出して見る。
当然なのか圏外だ。
朦朧としながらシャッターを切る。
アルバムの一番上に豪華な部屋の写真が入っているのを確認したら手から力が抜け、スマホがベッドの上に落ちた。
一人になったら気が抜けたのか、急激に睡魔が襲ってくる。
見た夢はメルヒオールさんとの出会ったときの夢だった。
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