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異世界<日本>視察編
メルヒオールの失敗 3
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それから通された部屋は校長室とかどこかの社長室のような雰囲気だった。
重厚な雰囲気の内装は偉い人の部屋ということがひしひしと伝わってくる。
緊張しながらメルヒオールさんの後ろで成り行きを見守っていると説明を聞いていた男性が深いため息を吐いた。
「それで……、お前の不注意で異世界の人間を巻き込んだということだな」
怒りを押し殺しているような声にメルヒオールさんは平然としているけれど、後ろで聞いている私の方がびくびくしてしまう。
「申し訳ありません」
背筋を伸ばし謝るメルヒオールさんは真っ直ぐ男性を見ている。
男性――、メルヒオールさんのお師匠様は苦々しい表情でメルヒオールさんと私を見た。
「とりあえず二人とも座っていなさい。
メルヒオール、私以外にはこのことを話していないな?」
「ええ、当然です。 話せることじゃない」
「そうか、どちらにせよマリナには話しておかないといけないな」
立ち上がったメルヒオールさんのお師匠様が扉を開けて誰かに指示をする。
気おくれして立ったままだった私にメルヒオールさんが座るように促す。
示された椅子に座って私はメルヒオールさんに気になったことを聞いた。
「あの、ここが私の暮らしていた世界と違うのはわかりましたけれど、メルヒオールさんはどうして私の世界に来ていたんですか」
「そっちの世界には色々とおもしろい物があるから」
おもしろいものと言われてぱっと浮かんだのは映画や漫画などだったけど、メルヒオールさんが言いたかったのは違うものみたい。
「携帯とか電車とかこっちの世界にはないし」
「そうなんですか?」
「似たような物を作ろうとはしてるけど、仕組みがわからないからね」
仕組みがわからないと言われて確かに、と思った。
「言われてみたらそうですね」
私も毎日使っているけれどどうやって動いているのかなんて知らない。
そういった珍しい物を調べてこの世界で使えないか研究するのがメルヒオールさんの仕事だという。
簡単にいうけれどすごいことだと思う。わからない物を再現するのは大変そうだ。
「お師匠様って何のお師匠様なんですか?」
メルヒオールさんが職人さんならそのお師匠様なのかと聞くと違うと答えが返ってくる。
「師長は俺の魔術の師匠」
「まじゅつ?」
一瞬耳を疑った。
「魔術って……、魔法?」
「そうだよ」
メルヒオールさんの簡潔な答えに驚いて目を見開く。
「え、魔法があるんですか?」
異世界なんてファンタジーな言葉に加えて魔法……。
なんだか話が大きすぎて変な夢を見ているみたい。
「夢、じゃないですよね。
だって感覚もあるし」
あまりのことに夢じゃないかとも考えた。でも口に出すと違和感が酷くて、夢じゃないと感じていることを強く意識する。
「夢にしてくれるの?」
メルヒオールさんが私を覗き込む。
透き通った茶色の目は何を考えているのかわからない。
どう返事をしたらと言葉に困っているとメルヒオールさんのお師匠様が戻ってきた。
「何を馬鹿なことを言っているんだ、なかったことにはできないんだぞ!」
お師匠様に叱られてメルヒオールさんが肩を縮める。
わかりにくいけれど眉が少し下がっていた。
「わかってます、師長。
俺の不注意でした」
悪いのは自分だとメルヒオールさんが頭を下げる。
どうしたらいいのかわからなくて二人の間で視線が彷徨う。
「その話は後にして……。 まずはお嬢さんに詳しく話をしないといけませんね」
メルヒオールさんを叱っていたお師匠様が顔を私に向けてにっこりと笑う。
不安を和らげるためだろうその笑みに私は曖昧な笑顔を返すのが精一杯だった。
お師匠様はジグムントさんという名前でメルヒオールさんが言っていたようにメルヒオールさんの魔法の師匠で、この国の魔術師の長をやっているらしい。
本当に偉い人だったんだと感心しながら聞いていると扉をノックする音が聞こえた。
「来たか」
ジグムントさんが呼んだ人が来たみたい。
メルヒオールさんが立って扉を開けると女の子が入ってくる。
コートやジャケットとは違う、ローブと称するのがしっくりくる衣装。
映画やゲームでしか見たことのない衣装を違和感なく着こなす女の子はメルヒオールさんとジグムントさんを見た後、私に視線を移しわずかに目を見開いた。
ジグムントさんも同じようなローブを着ているけれど彼女の物は色が違う。
あの子も魔術師なのかもしれない。
女の子の目が説明を求めるようにメルヒオールさんに向く。
「連れて来ちゃった」
軽!と私さえ思ったメルヒオールさんの答えに女の子が目を吊り上げた。
「何をやってるんですかあなたは!!」
激しい叱責が女の子から飛び出す。
私が怒られているわけじゃないのに背筋がびしっと伸びた。
私よりも小さいくらいの女の子は長身のメルヒオールさんを睨み上げる。
自分よりも年上だろうメルヒオールさん相手に一歩も引かない女の子に賞賛の拍手を心の中で送った。
「今すぐ日本に帰して……」
「いや、今日はもう無理だって」
メルヒオールさんは日本に行ってきて戻ったところだからもう魔力がないらしい。
こっちの世界と日本を行き来するのには多くの魔力が必要になるので日に何度も行けるような場所ではないと聞いた。
「だったら私が送って行きます」
女の子の言葉を聞いてやっぱりあの子も魔術師だったんだと納得する。
秘密にしたいらしいことを話すくらいだから信頼されている魔術師なんだろう。
「せっかく日本の話を詳しく聞ける機会なのに」
空気を読まないメルヒオールさんの言葉に女の子がさらに目を吊り上げる。
綺麗な緑の瞳は怒っていても見とれる綺麗さだ。
「あの、あんまり怒らないであげてください」
思わずメルヒオールさんを庇うと彼女の視線が私に向く。
「その服を見る限り、あなたは学生ですよね。 高校生くらいでしょうか?
向こうの世界では学生に当たる年齢の人は親などの庇護を受けて生活しているはず。
あなたが帰って来ないと騒ぎになるのではありませんか?」
内容の詳しさに目を丸くする。
メルヒオールさんが以前に言っていた日本に住んでいた知り合いっていうのは彼女のことかもしれない。
声も、あの時の電話の相手の人に似ていると思った。
重厚な雰囲気の内装は偉い人の部屋ということがひしひしと伝わってくる。
緊張しながらメルヒオールさんの後ろで成り行きを見守っていると説明を聞いていた男性が深いため息を吐いた。
「それで……、お前の不注意で異世界の人間を巻き込んだということだな」
怒りを押し殺しているような声にメルヒオールさんは平然としているけれど、後ろで聞いている私の方がびくびくしてしまう。
「申し訳ありません」
背筋を伸ばし謝るメルヒオールさんは真っ直ぐ男性を見ている。
男性――、メルヒオールさんのお師匠様は苦々しい表情でメルヒオールさんと私を見た。
「とりあえず二人とも座っていなさい。
メルヒオール、私以外にはこのことを話していないな?」
「ええ、当然です。 話せることじゃない」
「そうか、どちらにせよマリナには話しておかないといけないな」
立ち上がったメルヒオールさんのお師匠様が扉を開けて誰かに指示をする。
気おくれして立ったままだった私にメルヒオールさんが座るように促す。
示された椅子に座って私はメルヒオールさんに気になったことを聞いた。
「あの、ここが私の暮らしていた世界と違うのはわかりましたけれど、メルヒオールさんはどうして私の世界に来ていたんですか」
「そっちの世界には色々とおもしろい物があるから」
おもしろいものと言われてぱっと浮かんだのは映画や漫画などだったけど、メルヒオールさんが言いたかったのは違うものみたい。
「携帯とか電車とかこっちの世界にはないし」
「そうなんですか?」
「似たような物を作ろうとはしてるけど、仕組みがわからないからね」
仕組みがわからないと言われて確かに、と思った。
「言われてみたらそうですね」
私も毎日使っているけれどどうやって動いているのかなんて知らない。
そういった珍しい物を調べてこの世界で使えないか研究するのがメルヒオールさんの仕事だという。
簡単にいうけれどすごいことだと思う。わからない物を再現するのは大変そうだ。
「お師匠様って何のお師匠様なんですか?」
メルヒオールさんが職人さんならそのお師匠様なのかと聞くと違うと答えが返ってくる。
「師長は俺の魔術の師匠」
「まじゅつ?」
一瞬耳を疑った。
「魔術って……、魔法?」
「そうだよ」
メルヒオールさんの簡潔な答えに驚いて目を見開く。
「え、魔法があるんですか?」
異世界なんてファンタジーな言葉に加えて魔法……。
なんだか話が大きすぎて変な夢を見ているみたい。
「夢、じゃないですよね。
だって感覚もあるし」
あまりのことに夢じゃないかとも考えた。でも口に出すと違和感が酷くて、夢じゃないと感じていることを強く意識する。
「夢にしてくれるの?」
メルヒオールさんが私を覗き込む。
透き通った茶色の目は何を考えているのかわからない。
どう返事をしたらと言葉に困っているとメルヒオールさんのお師匠様が戻ってきた。
「何を馬鹿なことを言っているんだ、なかったことにはできないんだぞ!」
お師匠様に叱られてメルヒオールさんが肩を縮める。
わかりにくいけれど眉が少し下がっていた。
「わかってます、師長。
俺の不注意でした」
悪いのは自分だとメルヒオールさんが頭を下げる。
どうしたらいいのかわからなくて二人の間で視線が彷徨う。
「その話は後にして……。 まずはお嬢さんに詳しく話をしないといけませんね」
メルヒオールさんを叱っていたお師匠様が顔を私に向けてにっこりと笑う。
不安を和らげるためだろうその笑みに私は曖昧な笑顔を返すのが精一杯だった。
お師匠様はジグムントさんという名前でメルヒオールさんが言っていたようにメルヒオールさんの魔法の師匠で、この国の魔術師の長をやっているらしい。
本当に偉い人だったんだと感心しながら聞いていると扉をノックする音が聞こえた。
「来たか」
ジグムントさんが呼んだ人が来たみたい。
メルヒオールさんが立って扉を開けると女の子が入ってくる。
コートやジャケットとは違う、ローブと称するのがしっくりくる衣装。
映画やゲームでしか見たことのない衣装を違和感なく着こなす女の子はメルヒオールさんとジグムントさんを見た後、私に視線を移しわずかに目を見開いた。
ジグムントさんも同じようなローブを着ているけれど彼女の物は色が違う。
あの子も魔術師なのかもしれない。
女の子の目が説明を求めるようにメルヒオールさんに向く。
「連れて来ちゃった」
軽!と私さえ思ったメルヒオールさんの答えに女の子が目を吊り上げた。
「何をやってるんですかあなたは!!」
激しい叱責が女の子から飛び出す。
私が怒られているわけじゃないのに背筋がびしっと伸びた。
私よりも小さいくらいの女の子は長身のメルヒオールさんを睨み上げる。
自分よりも年上だろうメルヒオールさん相手に一歩も引かない女の子に賞賛の拍手を心の中で送った。
「今すぐ日本に帰して……」
「いや、今日はもう無理だって」
メルヒオールさんは日本に行ってきて戻ったところだからもう魔力がないらしい。
こっちの世界と日本を行き来するのには多くの魔力が必要になるので日に何度も行けるような場所ではないと聞いた。
「だったら私が送って行きます」
女の子の言葉を聞いてやっぱりあの子も魔術師だったんだと納得する。
秘密にしたいらしいことを話すくらいだから信頼されている魔術師なんだろう。
「せっかく日本の話を詳しく聞ける機会なのに」
空気を読まないメルヒオールさんの言葉に女の子がさらに目を吊り上げる。
綺麗な緑の瞳は怒っていても見とれる綺麗さだ。
「あの、あんまり怒らないであげてください」
思わずメルヒオールさんを庇うと彼女の視線が私に向く。
「その服を見る限り、あなたは学生ですよね。 高校生くらいでしょうか?
向こうの世界では学生に当たる年齢の人は親などの庇護を受けて生活しているはず。
あなたが帰って来ないと騒ぎになるのではありませんか?」
内容の詳しさに目を丸くする。
メルヒオールさんが以前に言っていた日本に住んでいた知り合いっていうのは彼女のことかもしれない。
声も、あの時の電話の相手の人に似ていると思った。
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