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異世界<日本>視察編
夏のお出かけ 2
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嫌がっても避けられないとわかっているので黙って着ていた服を脱ぐ。
壁に掛けたワンピースを見てほうっと息を吐く。
かわいいのはかわいい。
けれど、いくら夏物とはいえ大胆すぎないだろうか。
白いワンピースは膝の辺りから裾に行くにつれて紅く色が変わっていく。
袖は小さくほとんど腕を隠せていない。
問題はそこではなく、紐を交差させ結ぶ。大胆に開いた背中のことだ。
夜会用のドレスなどではもっと大きく背中を見せるドレスもあるが、ワンピースでここまで露出してるのはやり過ぎではないんだろうか。
背中の半分も見えていないデザインで、通常は髪を下ろしたら隠れる。
ただ髪の短いマリナの場合背中が丸見えになってしまう。
袖を通すのを躊躇うデザインだった。
店内でシャルロッテとフローラ様に見せるだけなんだからと、羞恥心を抑え着替え終える。
見計らったようにシャルロッテの声が掛かり、試着室の扉が開かれた。
「あら……」
「まあ……!」
扉を開けたシャルロッテに続いて顔を覗かせたフローラ様が口を開ける。
驚きに満ちた視線がいたたまれなくて足元に視線を落とす。
感想を言われるのも恥ずかしいけれど、黙っていられても嫌だ。
似合わないでも次は別の衣装を着てでもなんでもいいから言ってほしい。
「何か言ってください……」
落ちる沈黙に耐えられず言葉を零す。
囁くような声になってしまったことが余計に恥ずかしかった。
「すごいわ! イメージ通り……、いいえ、それ以上です!」
フローラ様が感嘆の声を上げて試着室に入ってくる。
「本当ね……。 今のマリナを見て素通りする男の人はいないんじゃない」
フローラ様に続いてシャルロッテも試着室に入る。
貴族御用達のこの店ではお針子さんが一緒に入って微調整をしたり、意見を出す母親や侍女も細かく様子を見れるようにと試着室が広い。
3人入ってもまだ余裕なくらいなんだけど……。
「ああ、紐は背中で結んだんですね」
「靴も持ってきたから合わせてみてちょうだい」
鏡を見ながら次々に掛けられる言葉に怯んでいるうちにふたりはどんどん盛り上がっていく。
「背中で結ぶのも可愛いですけれど、首の後ろで結ぶのも可愛らしいんですよ」
「せっかくだから化粧もしましょうよ、マリナってばほとんど化粧をしないんだもの、もったいないわ」
口を挿む隙もなく、シャルロッテとフローラ様によってマリナは飾りたてられていった。
場所を移した喫茶店でジュースの入ったグラスを傾けながら窓の外を見る。
「まだ機嫌が悪いの?」
シャルロッテが呆れた聞いたので違うと首を振る。良いわけでもないけど。
「恥ずかしいだけです」
短い答えにシャルロッテが不満げに反論する。
「ちゃんと上着も選んであげたのに何が恥ずかしいのよ」
言われた通りマリナはあのワンピースの上に同系色の上着を羽織っている。花模様が編み込まれた薄手の上着は可愛らしくて、見ていると微笑ましい気持ちになる。
あくまで見ているなら、だ。
可愛らし過ぎて自分がそれを着ているということに違和感がある。
喫茶店に来るまでも視線が気になって仕方なかった。
そう言うとフローラ様が微笑む。
「それは仕方のないことですわ。 マリナ様の可愛らしさには視線が集まって当然ですもの」
自分が選んだ衣装に自信があるのかそう言って憚らない。
衣装そのものが可愛いことはマリナも認める。
でも……。
「なんだか自分じゃないみたいで恥ずかしいんです。
こんな格好も化粧も普段しないので……」
耳にも赤い石のついた銀の耳飾りを着けて、髪にも雰囲気を合わせた飾りを着けて軽く纏めてもらった。
シャルロッテもフローラ様も化粧や髪を整えるのが上手い。
貴族令嬢って全部侍女に任せきりだと思ってた。
「似合ってるから大丈夫よ、私とフローラを信じなさい」
「シャルの言う通りですよ、とっても似合ってます」
手放しの賞賛に顔が熱くなる。
恥ずかしい……。
会話を変えるため運ばれてきたケーキを口に入れる。
夏らしい甘酸っぱい果物がとてもおいしい。
「この前も来たけれどやっぱりここのケーキはおいしいですね」
あからさまな話題変更にシャルロッテは呆れながらも乗ってくれた。
「そうね、どれもおいしそうで目移りして困ったわ」
「せっかくだからこの季節限定の物にしましたけれど、他のも食べてみたかったです」
フローラ様も合わせてくれる。
それから話題は王都にできた新しいお店の話や流行のドレスの色の話に変わっていく。
シャルロッテもフローラ様も楽しそうに笑っている。
マリナもめまぐるしく変わる話題に戸惑いながらも楽しんでいた。
壁に掛けたワンピースを見てほうっと息を吐く。
かわいいのはかわいい。
けれど、いくら夏物とはいえ大胆すぎないだろうか。
白いワンピースは膝の辺りから裾に行くにつれて紅く色が変わっていく。
袖は小さくほとんど腕を隠せていない。
問題はそこではなく、紐を交差させ結ぶ。大胆に開いた背中のことだ。
夜会用のドレスなどではもっと大きく背中を見せるドレスもあるが、ワンピースでここまで露出してるのはやり過ぎではないんだろうか。
背中の半分も見えていないデザインで、通常は髪を下ろしたら隠れる。
ただ髪の短いマリナの場合背中が丸見えになってしまう。
袖を通すのを躊躇うデザインだった。
店内でシャルロッテとフローラ様に見せるだけなんだからと、羞恥心を抑え着替え終える。
見計らったようにシャルロッテの声が掛かり、試着室の扉が開かれた。
「あら……」
「まあ……!」
扉を開けたシャルロッテに続いて顔を覗かせたフローラ様が口を開ける。
驚きに満ちた視線がいたたまれなくて足元に視線を落とす。
感想を言われるのも恥ずかしいけれど、黙っていられても嫌だ。
似合わないでも次は別の衣装を着てでもなんでもいいから言ってほしい。
「何か言ってください……」
落ちる沈黙に耐えられず言葉を零す。
囁くような声になってしまったことが余計に恥ずかしかった。
「すごいわ! イメージ通り……、いいえ、それ以上です!」
フローラ様が感嘆の声を上げて試着室に入ってくる。
「本当ね……。 今のマリナを見て素通りする男の人はいないんじゃない」
フローラ様に続いてシャルロッテも試着室に入る。
貴族御用達のこの店ではお針子さんが一緒に入って微調整をしたり、意見を出す母親や侍女も細かく様子を見れるようにと試着室が広い。
3人入ってもまだ余裕なくらいなんだけど……。
「ああ、紐は背中で結んだんですね」
「靴も持ってきたから合わせてみてちょうだい」
鏡を見ながら次々に掛けられる言葉に怯んでいるうちにふたりはどんどん盛り上がっていく。
「背中で結ぶのも可愛いですけれど、首の後ろで結ぶのも可愛らしいんですよ」
「せっかくだから化粧もしましょうよ、マリナってばほとんど化粧をしないんだもの、もったいないわ」
口を挿む隙もなく、シャルロッテとフローラ様によってマリナは飾りたてられていった。
場所を移した喫茶店でジュースの入ったグラスを傾けながら窓の外を見る。
「まだ機嫌が悪いの?」
シャルロッテが呆れた聞いたので違うと首を振る。良いわけでもないけど。
「恥ずかしいだけです」
短い答えにシャルロッテが不満げに反論する。
「ちゃんと上着も選んであげたのに何が恥ずかしいのよ」
言われた通りマリナはあのワンピースの上に同系色の上着を羽織っている。花模様が編み込まれた薄手の上着は可愛らしくて、見ていると微笑ましい気持ちになる。
あくまで見ているなら、だ。
可愛らし過ぎて自分がそれを着ているということに違和感がある。
喫茶店に来るまでも視線が気になって仕方なかった。
そう言うとフローラ様が微笑む。
「それは仕方のないことですわ。 マリナ様の可愛らしさには視線が集まって当然ですもの」
自分が選んだ衣装に自信があるのかそう言って憚らない。
衣装そのものが可愛いことはマリナも認める。
でも……。
「なんだか自分じゃないみたいで恥ずかしいんです。
こんな格好も化粧も普段しないので……」
耳にも赤い石のついた銀の耳飾りを着けて、髪にも雰囲気を合わせた飾りを着けて軽く纏めてもらった。
シャルロッテもフローラ様も化粧や髪を整えるのが上手い。
貴族令嬢って全部侍女に任せきりだと思ってた。
「似合ってるから大丈夫よ、私とフローラを信じなさい」
「シャルの言う通りですよ、とっても似合ってます」
手放しの賞賛に顔が熱くなる。
恥ずかしい……。
会話を変えるため運ばれてきたケーキを口に入れる。
夏らしい甘酸っぱい果物がとてもおいしい。
「この前も来たけれどやっぱりここのケーキはおいしいですね」
あからさまな話題変更にシャルロッテは呆れながらも乗ってくれた。
「そうね、どれもおいしそうで目移りして困ったわ」
「せっかくだからこの季節限定の物にしましたけれど、他のも食べてみたかったです」
フローラ様も合わせてくれる。
それから話題は王都にできた新しいお店の話や流行のドレスの色の話に変わっていく。
シャルロッテもフローラ様も楽しそうに笑っている。
マリナもめまぐるしく変わる話題に戸惑いながらも楽しんでいた。
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