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異世界<日本>視察編
ふいの悩み
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「ごめんなさいね? 二人が似てたから、誤解しちゃったわ」
微笑みながらのセリフはまだおもしろがっているように聞こえる。
「全然似てません」
メルヒオールとマリナの外見上の共通点なんて髪の色が茶系統だということくらいしかないのに。
「そんなに嫌がらなくても……。
でも本当よ? 二人はどこか雰囲気が似てるわ」
「雰囲気、ですか?」
そんなことを言われたのは初めてだ。
「そうね、顔は別に似ていないんだけど佇まいというか……。
不思議ね」
顔を顰めるマリナに麻子さんが呼吸を整える。そんなに笑うほどおかしいですか。
「マスターから恋人と一緒に遊びに来たって聞いてたからもしかしてと思ったんだけど、聞いてた彼氏の風貌とは全然違うものね」
ヴォルフとメルヒオールは身長はそれほど変わらないけれど顔立ちや体格は明らかに違う。
人伝に聞いた話でも間違えないくらい。
「残念ねえ、私もマリナちゃんの彼氏さんと会ってみたかったわ」
美菜ちゃんもマスターも会ったのにずるい、と麻子さんが口を尖らせる。
からかう意図はないんだろうけれど、恥ずかしいので笑顔で誤魔化す。
「今日はどうしたの?」
「彼を案内してたんです」
メルヒオールを指して答える。
「そうだったの。 初めまして、前にマリナちゃんと一緒に働いてました雪村麻子です」
「どうも、マリナと一緒に働いてます」
「彼はメルヒオールです、今日は近くを観光しに来たんですよ」
「でもこの辺何にもないでしょう」
観光地でもないのにと言う麻子さんに首を振るマリナ。
「そうでもないですよ? おもしろいものがいっぱいでした」
答えたマリナにメルヒオールも頷く。
それを見て麻子さんが微笑んだ。
「そう? ならよかっ……」
「麻子?」
近くを通り過ぎようとしたサラリーマンが足を止める。
「あら、早かったのね」
「ああ、アキとセイは?」
明斗君と誠也君は麻子さんの息子さんだ。
ということは麻子さんと話してるのは旦那さんかな。
「二人とも家でゲームしてるわ」
「そうか、荷物持って帰るよ」
「ありがとう。 お願いね」
まだ買い物があるからと麻子さんは買った荷物を旦那さんに渡す。
マリナたちに会釈する旦那さんにマリナも会釈して見送る。
「一緒に帰らないんですか?」
「まだ買い物があるのよ」
それなら一緒に買い物して帰ればいいのに。
「たまには子供たちとだけの時間もあげないとね」
「?」
よくわからなくて首を傾げる。
「お父さんと子供たちって一緒に過ごす時間が少ないから。
私がいない方が一緒に遊んだり話をしたりする時間ができるでしょう?」
麻子さんの言葉にふいを突かれて一瞬言葉が遅れた。
「そ、うですね」
「うちは二人とも男の子だから、父親と子供だけの時間も必要かと思って。
子供みたいに一緒に遊ぶのよ?」
ふふっ、と微笑む顔は幸せに満ちている。
「じゃあ、ゆっくり買い物していくんですか?」
「そうねえ、でもあんまり遅くなると今度はお腹が空いたコールで賑やかなの。
ゆっくりするのは少しだけよ」
他に買う物は少しだけだし、とバックからメモを取り出す。
「あ、牛乳だけ忘れてたわ。 スーパーに戻らないと」
メモを畳んだ麻子さんがマリナたちに笑みを向ける。
「じゃあね、マリナちゃん。
今度は噂の彼氏連れてきてね」
「あはは……。 そのうちに」
「もう、絶対よ」
誤魔化そうとしたマリナに麻子さんが念を押す。
じっと見つめられて「はい……」と言わざるを得なかった。
相変わらず優しげに見えて強引なんだから。
手を振って去っていく麻子さんにマリナも手を振り返した。
姿が見えなくなったところで手を降ろす。
変わらず接してくれたことがうれしい。
なのに、どうしてなんだろう。
胸のどこかが黒いものを飲み込んだみたいに重かった。
微笑みながらのセリフはまだおもしろがっているように聞こえる。
「全然似てません」
メルヒオールとマリナの外見上の共通点なんて髪の色が茶系統だということくらいしかないのに。
「そんなに嫌がらなくても……。
でも本当よ? 二人はどこか雰囲気が似てるわ」
「雰囲気、ですか?」
そんなことを言われたのは初めてだ。
「そうね、顔は別に似ていないんだけど佇まいというか……。
不思議ね」
顔を顰めるマリナに麻子さんが呼吸を整える。そんなに笑うほどおかしいですか。
「マスターから恋人と一緒に遊びに来たって聞いてたからもしかしてと思ったんだけど、聞いてた彼氏の風貌とは全然違うものね」
ヴォルフとメルヒオールは身長はそれほど変わらないけれど顔立ちや体格は明らかに違う。
人伝に聞いた話でも間違えないくらい。
「残念ねえ、私もマリナちゃんの彼氏さんと会ってみたかったわ」
美菜ちゃんもマスターも会ったのにずるい、と麻子さんが口を尖らせる。
からかう意図はないんだろうけれど、恥ずかしいので笑顔で誤魔化す。
「今日はどうしたの?」
「彼を案内してたんです」
メルヒオールを指して答える。
「そうだったの。 初めまして、前にマリナちゃんと一緒に働いてました雪村麻子です」
「どうも、マリナと一緒に働いてます」
「彼はメルヒオールです、今日は近くを観光しに来たんですよ」
「でもこの辺何にもないでしょう」
観光地でもないのにと言う麻子さんに首を振るマリナ。
「そうでもないですよ? おもしろいものがいっぱいでした」
答えたマリナにメルヒオールも頷く。
それを見て麻子さんが微笑んだ。
「そう? ならよかっ……」
「麻子?」
近くを通り過ぎようとしたサラリーマンが足を止める。
「あら、早かったのね」
「ああ、アキとセイは?」
明斗君と誠也君は麻子さんの息子さんだ。
ということは麻子さんと話してるのは旦那さんかな。
「二人とも家でゲームしてるわ」
「そうか、荷物持って帰るよ」
「ありがとう。 お願いね」
まだ買い物があるからと麻子さんは買った荷物を旦那さんに渡す。
マリナたちに会釈する旦那さんにマリナも会釈して見送る。
「一緒に帰らないんですか?」
「まだ買い物があるのよ」
それなら一緒に買い物して帰ればいいのに。
「たまには子供たちとだけの時間もあげないとね」
「?」
よくわからなくて首を傾げる。
「お父さんと子供たちって一緒に過ごす時間が少ないから。
私がいない方が一緒に遊んだり話をしたりする時間ができるでしょう?」
麻子さんの言葉にふいを突かれて一瞬言葉が遅れた。
「そ、うですね」
「うちは二人とも男の子だから、父親と子供だけの時間も必要かと思って。
子供みたいに一緒に遊ぶのよ?」
ふふっ、と微笑む顔は幸せに満ちている。
「じゃあ、ゆっくり買い物していくんですか?」
「そうねえ、でもあんまり遅くなると今度はお腹が空いたコールで賑やかなの。
ゆっくりするのは少しだけよ」
他に買う物は少しだけだし、とバックからメモを取り出す。
「あ、牛乳だけ忘れてたわ。 スーパーに戻らないと」
メモを畳んだ麻子さんがマリナたちに笑みを向ける。
「じゃあね、マリナちゃん。
今度は噂の彼氏連れてきてね」
「あはは……。 そのうちに」
「もう、絶対よ」
誤魔化そうとしたマリナに麻子さんが念を押す。
じっと見つめられて「はい……」と言わざるを得なかった。
相変わらず優しげに見えて強引なんだから。
手を振って去っていく麻子さんにマリナも手を振り返した。
姿が見えなくなったところで手を降ろす。
変わらず接してくれたことがうれしい。
なのに、どうしてなんだろう。
胸のどこかが黒いものを飲み込んだみたいに重かった。
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