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異世界<日本>視察編
夕暮れの再会
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色々な物に引っかかりつつマリナたちはもとの街に戻ってきた。
途中メルヒオールの姿が見えなくなったときは焦ったけれど。
携帯の使い方を教えておいて良かったと思う。
夕暮れに増える灯りはマリナたちの世界の物よりはるかに輝かしくて、眩しいほどだ。
高速に灯るオレンジの明かりは温かみのある色なのに夕暮れの色と相まってか寂しく感じられる。
黙って窓の外を見る。メルヒオールも疲れたのか静かだった。
視線を向けると上部に貼られた広告をじっと見ている。
何を見ているのかと上を向くとマンションの広告だった。
メルヒオールの思考がわからない。
何がそんなにおもしろいのかと広告を見る。
そういえばこんな印刷技術もセレスタにはなかった。
見たものをそのまま紙に写し取ることがセレスタではできない。
映像として記録に残し再生することは出来るのに、同じような技術があっても進歩の仕方は変わるものだとぼんやり考える。
マリナがそんなことを考えているとメルヒオールが小さく呟く。
「あんなに家を買う人間がいるの?」
呟きを聞いて広告に視線を戻すと大きく1600戸!と書いてある。
「いるから売ってるんでしょうね」
すごい数。同じ建物にそんなに人が集まるのはなんだか不思議だ。
値段も書いてあるけれど、高いのか安いのかよくわからない。
メルヒオールが暮らしているのもある意味マンションみたいな場所かもしれないけれど。世話役のついてくる。
「意外な物を気にしますね」
心から意外だと声に乗せる。住む場所なんてどうでもいいと思ってそうなのに。
「いや、目に入っただけ。 寝る場所なんてどこでも大した違いないし」
「そうです、ね」
想像よりも酷い答えが返ってきた。
マリナが口を出すことでもないので話を変える。
以前ならマリナも似たようなことを考えていたからメルヒオールをおかしいとは思わない。
帰る場所。そう言える場所はメルヒオールにもあるんだろうか。
ちらと余計な考えが頭をよぎり、思考を振り払う。
「やっぱり速いね」
メルヒオールの声が駅に着いたことを教える。
帰宅する学生やサラリーマンに続き駅を出た。
「マリナちゃん?」
住宅地の方に足を向けたマリナを呼び止める声に後ろを振り返る。
立っていたのは買い物途中だったのかビニール袋を下げた麻子さんの姿。
「麻子さん!」
「ああ、やっぱりマリナちゃんだった。 久しぶりね、元気だった?」
変わらない優しい顔でふわりと笑う。
「はい! 麻子さんもお元気でしたか?」
「ふふ、私も元気よ。
マスターとはこの前会ったんですって?」
桜を見に来たときのことだ。
時間が悪かったのかマスター以外は休みで残念だった。
「はい! 連絡しないで行ってしまったので麻子さんにも美菜さんにも会えなくて残念でした」
「私も残念だったけど、マスターから話を聞けて安心したわ」
微笑む麻子さんの顔が後ろに立っていたメルヒオールに向けられる。
「そちらの人は、もしかしてマリナちゃんのお兄さん?」
「……っ! 違いますよ!」
あまりの衝撃に一瞬言葉が出てこなかった。
メルヒオールが兄なんて悪い冗談だと思う。
「こんな兄なんて御免ですから!」
「こっちだってこんな可愛げのない妹いらないし」
力一杯否定するマリナにメルヒオールも嫌そうに否定を重ねる。
嫌がるマリナたちに麻子さんは楽しそうに笑っていた。
途中メルヒオールの姿が見えなくなったときは焦ったけれど。
携帯の使い方を教えておいて良かったと思う。
夕暮れに増える灯りはマリナたちの世界の物よりはるかに輝かしくて、眩しいほどだ。
高速に灯るオレンジの明かりは温かみのある色なのに夕暮れの色と相まってか寂しく感じられる。
黙って窓の外を見る。メルヒオールも疲れたのか静かだった。
視線を向けると上部に貼られた広告をじっと見ている。
何を見ているのかと上を向くとマンションの広告だった。
メルヒオールの思考がわからない。
何がそんなにおもしろいのかと広告を見る。
そういえばこんな印刷技術もセレスタにはなかった。
見たものをそのまま紙に写し取ることがセレスタではできない。
映像として記録に残し再生することは出来るのに、同じような技術があっても進歩の仕方は変わるものだとぼんやり考える。
マリナがそんなことを考えているとメルヒオールが小さく呟く。
「あんなに家を買う人間がいるの?」
呟きを聞いて広告に視線を戻すと大きく1600戸!と書いてある。
「いるから売ってるんでしょうね」
すごい数。同じ建物にそんなに人が集まるのはなんだか不思議だ。
値段も書いてあるけれど、高いのか安いのかよくわからない。
メルヒオールが暮らしているのもある意味マンションみたいな場所かもしれないけれど。世話役のついてくる。
「意外な物を気にしますね」
心から意外だと声に乗せる。住む場所なんてどうでもいいと思ってそうなのに。
「いや、目に入っただけ。 寝る場所なんてどこでも大した違いないし」
「そうです、ね」
想像よりも酷い答えが返ってきた。
マリナが口を出すことでもないので話を変える。
以前ならマリナも似たようなことを考えていたからメルヒオールをおかしいとは思わない。
帰る場所。そう言える場所はメルヒオールにもあるんだろうか。
ちらと余計な考えが頭をよぎり、思考を振り払う。
「やっぱり速いね」
メルヒオールの声が駅に着いたことを教える。
帰宅する学生やサラリーマンに続き駅を出た。
「マリナちゃん?」
住宅地の方に足を向けたマリナを呼び止める声に後ろを振り返る。
立っていたのは買い物途中だったのかビニール袋を下げた麻子さんの姿。
「麻子さん!」
「ああ、やっぱりマリナちゃんだった。 久しぶりね、元気だった?」
変わらない優しい顔でふわりと笑う。
「はい! 麻子さんもお元気でしたか?」
「ふふ、私も元気よ。
マスターとはこの前会ったんですって?」
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時間が悪かったのかマスター以外は休みで残念だった。
「はい! 連絡しないで行ってしまったので麻子さんにも美菜さんにも会えなくて残念でした」
「私も残念だったけど、マスターから話を聞けて安心したわ」
微笑む麻子さんの顔が後ろに立っていたメルヒオールに向けられる。
「そちらの人は、もしかしてマリナちゃんのお兄さん?」
「……っ! 違いますよ!」
あまりの衝撃に一瞬言葉が出てこなかった。
メルヒオールが兄なんて悪い冗談だと思う。
「こんな兄なんて御免ですから!」
「こっちだってこんな可愛げのない妹いらないし」
力一杯否定するマリナにメルヒオールも嫌そうに否定を重ねる。
嫌がるマリナたちに麻子さんは楽しそうに笑っていた。
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