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異世界<日本>視察編
フレスへの贈り物
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駅から伸びる道には商店がいくつも建ち並んでいる。
統一性のない建物は入っているお店も内容が全然違う。
「異世界っていうからさ、浮いたらどうしようかと思ってたんだけど、なんか俺たちと同じ髪色の人も多いし全然平気そうだね」
「そうですね。 あの色は染めてるらしいですが、こちらとしては助かります」
日本では本来の色は黒色が多いらしいけど、見える範囲では茶色の髪色をした人も半数近い。黒でも茶でもない人もいる。
「え、あの真っ赤な髪も染めてるの?」
「服を変えるように髪の色を変える人もいるらしいですよ。 あそこまで派手な色は少数派みたいですけど」
「へぇ……。 ほんと所変われば風習も変わるもんだね。
髪の色を変えるって変装しか考え付かなかった」
「セレスタでは、というか向こうの世界ではあんまり髪の色を変えたりしませんものね」
メルヒオールの言う通り、自分とは違う人間を装う目的以外で髪の色や目の色を偽ったりすることはない。
言われてみたら真逆の風習かも。
麻子さんも美菜さんも髪を染めているようだったし、だからマリナの色も不自然に思われなかったんだろう。
目の色についても何も言われたことないけど、あれもファッションの一部と思われていたのかな。
気になる物を見つけたのかメルヒオールがふらっとお店に入っていく。
「楽器店?」
意外な店に入っていった。絶対興味なさそうなのに。
訝しむマリナの視線にメルヒオールが淡々と説明をする。
「アンタが急にいなくなったから師長がフレスの王族の相手をしてたんだよ。
ご機嫌取りじゃないけど、なんかおもしろそうな物があればと思って」
「ああ、マリエール様にですか」
滞在中はマリナが案内をするつもりだったのにユリノアスのせいで最初しか案内できなかった。
マリエール様はその程度のことでいちいち目くじらを立てたりしないだろうけれど、贈り物をするのはいいかもしれない。
お詫びと言って贈るのはセレスタに不手際があったと言うようなものなので、名目は違うものになるだろうけれど。
「でも今は自動風笛の小型化に情熱を燃やしているところじゃないですか?
この前技師が考案した魔石加工の技術にかなり感動していましたから。
他の楽器も興味は持ってくれると思いますけど、しばらくは余所見する余裕はないと思いますよ」
自国の魔術師や技師たちと改良に向けて試作を繰り返しているところだと思う。
「いっそ増幅器とか、遠隔地でも聞けるような拡声器とか」
音を増幅させる魔道具なら汎用性も高く、喜んでもらえそうだけど……。
「拡声器は通信機と似たような構造になるだろ。 まだ他国に渡せる技術じゃない」
「そうですよねえ。 増幅器だって組み立て式の物はまだ発表前ですし」
喜ぶとわかっていても渡せない技術はある。時期尚早だと言われたら別の物を探すしかない。
「だから普通に楽器でいいだろ。
自動風笛に組み込めるような物だとなおいい」
「難しいことを言いますね」
さらっと難しいことを言った。
「自動風笛に組み込むって考えたら、違う響きを楽しめそうな笛か邪魔にならないベルくらいしか考え付きません」
適当な楽器では音の邪魔をするだけだ。
「その笛でいいんじゃない?
既存の風笛に足すんじゃなくて違う笛で自動風笛を作ってみるとか、おもしろそうだし」
「ああ、なるほど……、って面倒な予感しかしませんよ!
先に完成させたなんてなったら目も当てられません!」
後発で作り始めたセレスタが考案者のフレスよりも先に自動風笛(小型化版)を完成させてしまったらフレスのプライドはズタズタになる。
いくらセレスタの方が技術が優れているからといっても手を出してはいけない領域があるでしょう。
「違うって。 そういうんじゃなくて……。」
焦るマリナにメルヒオールの冷静な声が否定を口にする。
「例えばこういう単純な形の笛をいくつかまとめて、えーと……、助奏?
そんな音を足せば深みがでるんじゃないか?」
「ああ、そういうことですか」
焦って損をした。そういうことなら理解できる。
「やりたいことはわかりました。 それならこういうのでもいいんじゃないですか」
持っていたメモ帳に絵を描いていく。
小さなベルが連なった木のような形をした置物。
わずかに大きさを変えることで鳴る音を調節すれば単調でない音が鳴る。
「これなら上手くできれば手の平くらいの大きさにできるでしょうし、贈りやすいサイズになりますよ」
笛だとある程度の長さがないといけないけれど、これなら一つ一つのベルは爪先ほどの大きさでいい。
そしてなによりも大事なことは……。
「とっても可愛いです」
「……だから?」
「見た目が可愛いのは大切ですよ。 マリエール様に贈るんですから」
他の方が見ても美しいと思うような品物であることはとても大事なことだった。
「貴族の子女が見て羨ましいと思われるような品物でないと」
個人的な贈り物ならいいけれど、セレスタからとなるとあまり貧相な物は贈れない。
マリエール様は喜ぶかもしれないけれど、周りから見てささやかに感じられる品物だと困る。
あとひとつ。それほど難しい技術を必要としないのも良いところだった。
統一性のない建物は入っているお店も内容が全然違う。
「異世界っていうからさ、浮いたらどうしようかと思ってたんだけど、なんか俺たちと同じ髪色の人も多いし全然平気そうだね」
「そうですね。 あの色は染めてるらしいですが、こちらとしては助かります」
日本では本来の色は黒色が多いらしいけど、見える範囲では茶色の髪色をした人も半数近い。黒でも茶でもない人もいる。
「え、あの真っ赤な髪も染めてるの?」
「服を変えるように髪の色を変える人もいるらしいですよ。 あそこまで派手な色は少数派みたいですけど」
「へぇ……。 ほんと所変われば風習も変わるもんだね。
髪の色を変えるって変装しか考え付かなかった」
「セレスタでは、というか向こうの世界ではあんまり髪の色を変えたりしませんものね」
メルヒオールの言う通り、自分とは違う人間を装う目的以外で髪の色や目の色を偽ったりすることはない。
言われてみたら真逆の風習かも。
麻子さんも美菜さんも髪を染めているようだったし、だからマリナの色も不自然に思われなかったんだろう。
目の色についても何も言われたことないけど、あれもファッションの一部と思われていたのかな。
気になる物を見つけたのかメルヒオールがふらっとお店に入っていく。
「楽器店?」
意外な店に入っていった。絶対興味なさそうなのに。
訝しむマリナの視線にメルヒオールが淡々と説明をする。
「アンタが急にいなくなったから師長がフレスの王族の相手をしてたんだよ。
ご機嫌取りじゃないけど、なんかおもしろそうな物があればと思って」
「ああ、マリエール様にですか」
滞在中はマリナが案内をするつもりだったのにユリノアスのせいで最初しか案内できなかった。
マリエール様はその程度のことでいちいち目くじらを立てたりしないだろうけれど、贈り物をするのはいいかもしれない。
お詫びと言って贈るのはセレスタに不手際があったと言うようなものなので、名目は違うものになるだろうけれど。
「でも今は自動風笛の小型化に情熱を燃やしているところじゃないですか?
この前技師が考案した魔石加工の技術にかなり感動していましたから。
他の楽器も興味は持ってくれると思いますけど、しばらくは余所見する余裕はないと思いますよ」
自国の魔術師や技師たちと改良に向けて試作を繰り返しているところだと思う。
「いっそ増幅器とか、遠隔地でも聞けるような拡声器とか」
音を増幅させる魔道具なら汎用性も高く、喜んでもらえそうだけど……。
「拡声器は通信機と似たような構造になるだろ。 まだ他国に渡せる技術じゃない」
「そうですよねえ。 増幅器だって組み立て式の物はまだ発表前ですし」
喜ぶとわかっていても渡せない技術はある。時期尚早だと言われたら別の物を探すしかない。
「だから普通に楽器でいいだろ。
自動風笛に組み込めるような物だとなおいい」
「難しいことを言いますね」
さらっと難しいことを言った。
「自動風笛に組み込むって考えたら、違う響きを楽しめそうな笛か邪魔にならないベルくらいしか考え付きません」
適当な楽器では音の邪魔をするだけだ。
「その笛でいいんじゃない?
既存の風笛に足すんじゃなくて違う笛で自動風笛を作ってみるとか、おもしろそうだし」
「ああ、なるほど……、って面倒な予感しかしませんよ!
先に完成させたなんてなったら目も当てられません!」
後発で作り始めたセレスタが考案者のフレスよりも先に自動風笛(小型化版)を完成させてしまったらフレスのプライドはズタズタになる。
いくらセレスタの方が技術が優れているからといっても手を出してはいけない領域があるでしょう。
「違うって。 そういうんじゃなくて……。」
焦るマリナにメルヒオールの冷静な声が否定を口にする。
「例えばこういう単純な形の笛をいくつかまとめて、えーと……、助奏?
そんな音を足せば深みがでるんじゃないか?」
「ああ、そういうことですか」
焦って損をした。そういうことなら理解できる。
「やりたいことはわかりました。 それならこういうのでもいいんじゃないですか」
持っていたメモ帳に絵を描いていく。
小さなベルが連なった木のような形をした置物。
わずかに大きさを変えることで鳴る音を調節すれば単調でない音が鳴る。
「これなら上手くできれば手の平くらいの大きさにできるでしょうし、贈りやすいサイズになりますよ」
笛だとある程度の長さがないといけないけれど、これなら一つ一つのベルは爪先ほどの大きさでいい。
そしてなによりも大事なことは……。
「とっても可愛いです」
「……だから?」
「見た目が可愛いのは大切ですよ。 マリエール様に贈るんですから」
他の方が見ても美しいと思うような品物であることはとても大事なことだった。
「貴族の子女が見て羨ましいと思われるような品物でないと」
個人的な贈り物ならいいけれど、セレスタからとなるとあまり貧相な物は贈れない。
マリエール様は喜ぶかもしれないけれど、周りから見てささやかに感じられる品物だと困る。
あとひとつ。それほど難しい技術を必要としないのも良いところだった。
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