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異世界<日本>視察編
携帯の使い方
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リオ様と別れてどこへ行こう相談しようと向かったのは幹線道路に面したファミレス。
昼には少し早いこの時間、話をするには最適な場所だ。
案内されたのは窓際の席。店内には静かに本を読んでいるおじいさんと、他にスーツを着たサラリーマンが喫煙室にいるだけ。
そのどちらもマリナたちが座った席からは離れているので話を聞かれる心配はしなくてよさそう。
早めの食事にしようと注文した品が来るまで飲み物を飲みながらこの後の話をする。
ドリンクバーに興味を示したメルヒオールは次から次にボタンを押して味を試している。少量ずつ注いで味見をするのはいいけど、グラスの中で味が混ざってわからなくならないのかな。
一番気に入ったらしい鮮やかな緑の飲み物を一杯に注いで戻ってきた。
「まずは携帯の使い方を教えますね。 はぐれたら携帯に連絡するので出てください」
「出る?」
マリナも最初は戸惑った言い回しをできるだけわかりやすく説明する。
「携帯を操作して受信した通信に答えることをそう言います」
「ふーん」
「まずは私が掛けますので取ってくださいね」
ダイヤル画面に変え、数字をタッチしていく。
画面が光りだしたのを見てメルヒオールが画面に触れる。
「この通話っていうボタンを押せばいいわけ?」
「そうです、押したら耳に当ててください」
言われた通りに操作してメルヒオールが携帯に声を通す。
『聞こえる?』
『聞こえてますよ』
マリナも携帯に向かって答えるとメルヒオールが目を瞬く。
「ほんとに声が聞こえる……。 どうなってんだろ、コレ」
「通話を切るときは同じ要領で通話を切るをタッチすると切れます」
画面を撫でメルヒオールが通話を切る。この分なら危なげなく使えそうだ。
「こっちから掛けるときはどうするの?」
「隅にあるこのマークをタッチすると通話した履歴が見れます。 今掛けたのがこれですね」
一番上にある番号を指差す。
「その番号をタッチしてダイヤルするを選べば掛かります」
「おお、本当だ」
メルヒオールの操作に従ってダイヤルされたマリナの携帯からコール音が鳴る。店内に響く着信音を指を滑らせて切る。
「掛け方はわかりましたね。 何かあったらこれで連絡してきてください」
「わかった」
一緒に行動するつもりなので緊急の時しか使わないだろうけれど、使い方を知っていると知らないとでは違う。
「このマークはなに?」
「あっ、勝手に知らないボタンを触らないでください! 壊したらどうするんですか」
カメラが起動したので戻るボタンをタッチして画面を元に戻す。
油断も隙もない。
「時間があったらもっとゆっくり説明しますけど、今日は色々見に行くので携帯のことは最低限にしますよ」
おもしろくなさそうな顔をしたけれど興味の対象が他にもあるとわかっているので文句は言わずに携帯をテーブルに置いた。
「まずはこの街が見渡せる場所に行きましょうか。 その後は適当に歩いて……」
明確に行きたい場所はないけれど、街の方を歩いていれば何かしら興味を引くものはたくさんあるだろう。
セレスタとは全然違うこの世界は興味深いもので満ちている。
世界の形も文化も人もすべて不思議で、興味は尽きない。
料理が運ばれてきたので言葉を止めてスプーンを手に取る。
久々のオムライスに顔が綻ぶ。
茶色いソースを纏った卵を掬うとふわっと卵の香りがした。
メルヒオールはステーキを選んだみたいでナイフとフォークで肉を切り分けている。
(そういえばメルヒオールと食事を一緒にするなんて初めてかも)
食堂でもメルヒオールの姿を見ることは極稀だ。
食事の時間も気にしないで研究に没頭する魔術師たちのため、魔術師の棟では女官が食事を用意してくれるので普段は外に出ないんだろう。
言動のおかしさとは異なり、ナイフを操る所作は洗練されて綺麗な動きだった。
ジグ様に教えてもらったんだろうか。マリナも食事のマナーなんかは師匠とリオ様に教えてもらったのでなんとなくそう思う。
飲み物はあれこれ試したくせに食事は冒険しないらしい。
肉を焼いて塩胡椒しただけの肉を切り分けては咀嚼していく。
三分の二を食べ終えたところでメルヒオールが口を開いた。
「足りないからまた頼んでもいい?」
「どうぞ」
ボタンを押して店員さんを呼ぶとメルヒオールは同じステーキをさらに二枚注文した。
運ばれてきたステーキを食べきって満足げに口を拭くメルヒオールに感嘆混じりの驚きを零す。
「ずいぶん大食漢なんですね」
普段のヴォルフよりも食べてるんじゃない?
「そう? アンタが食べなすぎなだけじゃない? 女はそんなものみたいだけど」
マリナだってオムライスについて来たサラダとスープは食べている。
小食と言われるような内容じゃないと思う。
「満足した。 おいしいね、異世界の食事も」
普段冷たい物ばかり食べてるから焼きたての肉はおいしかったと満足そうだ。
呆れと感嘆と……、危機感を感じ、早く出ようと伝票を手に取る。
メルヒオールの目がテーブルの端に置かれたメニューに向かったのをマリナは見逃さなかった。
まだ食べそうなメルヒオールを急かして店を出る。
五千円を超した会計に溜め息を吐きながら、マリナは街を見下ろせる場所に足を向けた。
昼には少し早いこの時間、話をするには最適な場所だ。
案内されたのは窓際の席。店内には静かに本を読んでいるおじいさんと、他にスーツを着たサラリーマンが喫煙室にいるだけ。
そのどちらもマリナたちが座った席からは離れているので話を聞かれる心配はしなくてよさそう。
早めの食事にしようと注文した品が来るまで飲み物を飲みながらこの後の話をする。
ドリンクバーに興味を示したメルヒオールは次から次にボタンを押して味を試している。少量ずつ注いで味見をするのはいいけど、グラスの中で味が混ざってわからなくならないのかな。
一番気に入ったらしい鮮やかな緑の飲み物を一杯に注いで戻ってきた。
「まずは携帯の使い方を教えますね。 はぐれたら携帯に連絡するので出てください」
「出る?」
マリナも最初は戸惑った言い回しをできるだけわかりやすく説明する。
「携帯を操作して受信した通信に答えることをそう言います」
「ふーん」
「まずは私が掛けますので取ってくださいね」
ダイヤル画面に変え、数字をタッチしていく。
画面が光りだしたのを見てメルヒオールが画面に触れる。
「この通話っていうボタンを押せばいいわけ?」
「そうです、押したら耳に当ててください」
言われた通りに操作してメルヒオールが携帯に声を通す。
『聞こえる?』
『聞こえてますよ』
マリナも携帯に向かって答えるとメルヒオールが目を瞬く。
「ほんとに声が聞こえる……。 どうなってんだろ、コレ」
「通話を切るときは同じ要領で通話を切るをタッチすると切れます」
画面を撫でメルヒオールが通話を切る。この分なら危なげなく使えそうだ。
「こっちから掛けるときはどうするの?」
「隅にあるこのマークをタッチすると通話した履歴が見れます。 今掛けたのがこれですね」
一番上にある番号を指差す。
「その番号をタッチしてダイヤルするを選べば掛かります」
「おお、本当だ」
メルヒオールの操作に従ってダイヤルされたマリナの携帯からコール音が鳴る。店内に響く着信音を指を滑らせて切る。
「掛け方はわかりましたね。 何かあったらこれで連絡してきてください」
「わかった」
一緒に行動するつもりなので緊急の時しか使わないだろうけれど、使い方を知っていると知らないとでは違う。
「このマークはなに?」
「あっ、勝手に知らないボタンを触らないでください! 壊したらどうするんですか」
カメラが起動したので戻るボタンをタッチして画面を元に戻す。
油断も隙もない。
「時間があったらもっとゆっくり説明しますけど、今日は色々見に行くので携帯のことは最低限にしますよ」
おもしろくなさそうな顔をしたけれど興味の対象が他にもあるとわかっているので文句は言わずに携帯をテーブルに置いた。
「まずはこの街が見渡せる場所に行きましょうか。 その後は適当に歩いて……」
明確に行きたい場所はないけれど、街の方を歩いていれば何かしら興味を引くものはたくさんあるだろう。
セレスタとは全然違うこの世界は興味深いもので満ちている。
世界の形も文化も人もすべて不思議で、興味は尽きない。
料理が運ばれてきたので言葉を止めてスプーンを手に取る。
久々のオムライスに顔が綻ぶ。
茶色いソースを纏った卵を掬うとふわっと卵の香りがした。
メルヒオールはステーキを選んだみたいでナイフとフォークで肉を切り分けている。
(そういえばメルヒオールと食事を一緒にするなんて初めてかも)
食堂でもメルヒオールの姿を見ることは極稀だ。
食事の時間も気にしないで研究に没頭する魔術師たちのため、魔術師の棟では女官が食事を用意してくれるので普段は外に出ないんだろう。
言動のおかしさとは異なり、ナイフを操る所作は洗練されて綺麗な動きだった。
ジグ様に教えてもらったんだろうか。マリナも食事のマナーなんかは師匠とリオ様に教えてもらったのでなんとなくそう思う。
飲み物はあれこれ試したくせに食事は冒険しないらしい。
肉を焼いて塩胡椒しただけの肉を切り分けては咀嚼していく。
三分の二を食べ終えたところでメルヒオールが口を開いた。
「足りないからまた頼んでもいい?」
「どうぞ」
ボタンを押して店員さんを呼ぶとメルヒオールは同じステーキをさらに二枚注文した。
運ばれてきたステーキを食べきって満足げに口を拭くメルヒオールに感嘆混じりの驚きを零す。
「ずいぶん大食漢なんですね」
普段のヴォルフよりも食べてるんじゃない?
「そう? アンタが食べなすぎなだけじゃない? 女はそんなものみたいだけど」
マリナだってオムライスについて来たサラダとスープは食べている。
小食と言われるような内容じゃないと思う。
「満足した。 おいしいね、異世界の食事も」
普段冷たい物ばかり食べてるから焼きたての肉はおいしかったと満足そうだ。
呆れと感嘆と……、危機感を感じ、早く出ようと伝票を手に取る。
メルヒオールの目がテーブルの端に置かれたメニューに向かったのをマリナは見逃さなかった。
まだ食べそうなメルヒオールを急かして店を出る。
五千円を超した会計に溜め息を吐きながら、マリナは街を見下ろせる場所に足を向けた。
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