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異世界<日本>視察編
ささやかな繋がり
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視界にビルが映る。
太陽を跳ね返すガラスのビルは眩しく、初夏の訪れを知らせていた。
久々に見た日本の風景は初めて見たときと同じような驚きをマリナに与える。
「メルヒオール、この世界では極力魔法を使わないでくださいね」
前もって話はしているけれど、改めて注意をする。
「ああ、魔力が薄いんだっけ? 言われてみたら確かに薄いな」
同じようにビルを驚きの目で見ていたメルヒオールも周囲の魔力を確認すると神妙に肯いた。
まずはリオ様に挨拶に行くと言うとメルヒオールが驚きに目を見開く。
「リオール? こっちにいるのか?」
そういえばメルヒオールには言ってなかった。
リオ様がこっちの世界にいると知っているのは師匠とヴォルフだけだ。
隠すことでもないけれど、あまり広めない方がいいだろうと思ったから、他の誰にも言ってない。
(リオ様は多分セレスタに帰りたくないもの)
聞いたことはないけれど、師匠もリオ様がこっちにいることを望んでいる。
『きっと好きに生きているだろうから、心配はしてないわ』
自分の意志で思うように生きているならそれでいいと言いたげだった。
誰よりもお互いを理解しているお二人がそう言うならマリナが口を挟むことではない。
行方もわからなかった頃からすれば、会いに行くことができるだけで十分だ。
「話を聞いて色々想像してたんだけど、想像を絶するね。
なにあの塔」
メルヒオールがビルを指す。
マリナたちの常識より遥かに高いビルはそれだけで異世界の技術の一端を表している。
「すごいな」
十五階はありそうなビルを見上げてメルヒオールが子供みたいにはしゃぐ。
きらきらと目を輝かせる表情は好奇心旺盛な子供そのものだ。
人目を集める前にメルヒオールを促して歩き出した。
公園の横を歩き住宅街へ入っていく。
メルヒオールは大人しく後ろをついて来ているけれど、視線があちらこちらへと忙しそうに動いていた。
「マリナ、あれはなんだ?」
公園の遊具を指してメルヒオールが聞いてくる。
たまたま子供のいない公園は変な形の置物が置いてある不思議な空間に見えた。
「あれは子供が遊ぶ遊具です。 鎖にぶら下がった板があるでしょう? あれは座って前後に揺らして遊ぶみたいですよ」
マリナは乗ったことがないけれど、子供が遊んでいるのは見たことがある。
「へえ、やってみたい」
「……。 後にしてください」
一瞬止めようかと思ったけれど、大人が乗ってはいけないわけではないようなので止める言葉が見つからない。
子供連れじゃない人が乗ってるの見たことないんだけど……。
大人と子供が一緒に乗ってるのは見たことがあるので重量制限もないようだし、メルヒオールは納得しないだろうと思って後にしてほしいとだけ告げる。
アパートの辺りに近づくとどこからともなくリオ様が現れた。
「ずいぶんと珍しい取り合わせで来たわねぇ」
「リオ様! お久しぶりです!」
桜の頃以来の再会だ。
数か月ぶりに会ったリオ様は本来の色に近い茶色に髪色を変えていた。
服もシンプルな白いシャツと紺色のパンツを身に着けたリオ様はどこから見ても格好良い男性だ。
こういった格好をしていると師匠が目の前にいるみたい。当たり前だけどよく似ている。
「久しぶりねマリナ。 メルヒオールも」
「ホントにリオールだ。 いなくなったと思ったら異世界に来てたわけ?」
「相変わらずね」
挨拶もせずに思ったことを口にするメルヒオールにリオ様が苦笑した。
「今日はどうしたの? メルヒオールまで一緒なんて」
「こっちの技術がおもしろいって聞いたから見に来た」
「あらそう……。 よく師長様が許したわね」
「メルヒオールなら色々と勉強になるだろうから見せてほしいと言われていました」
実際メルヒオールは見たことのない世界に刺激を受けたようだ。
こっちに来てから輝き続けている目は新しい物を吸収しようと忙しなく辺りを見回していた。
「そうねぇ、この国は常に新しい物が生まれているから見るところはたくさんあるんじゃない?
そういうところはセレスタに似てるわね」
セレスタも魔法技術に関しては常に新しい物を作り出している。
そう言われれば共通点がある気もした。
「まあ、退屈はしないところよ。
思うままに興味のある場所に行けばいいと思うわ」
「そうですね。 商店一つとっても全く違いますから」
直接関係なくても、新しい知識に触れると思わぬ発想が出てきたりするものだ。
「それでリオ様、申し訳ないんですがいくつかこちらでも使えそうな物を持ってきたので現金と交換してもらえますか?」
以前もらったバイト代はまだ残っているけれど、どのくらい使うかわからないので多めにないと不安だった。
「いいわよ? そういえばあんたが置いて行った携帯まだ使えるようにしてあるけれど、持って行く?」
リオ様が快く了承してくれたことに安堵する。続けて言われたことに驚いて目を見開く。
「え?! 残してたんですか?」
解約するようお願いしていたのに、わざわざ残していてくれたなんて。
「ええ、役に立つことがあるかと思って」
マリナがまた日本に来ることも考えていたのかもしれない。
聞いてもきっと肯定してはくれないけれど、その気持ちがうれしかった。
「ありがとうございます! あ、お金払います」
いなくなって一年分くらいの料金をリオ様が払ってくれていたことになる。
払うと申し出るとリオ様が首を振るけど、流石にそれは申し訳無さすぎるので固持した。
「頑固ねぇ。 お金には困ってないから気にしなくていいのに」
「それはそれですよ。 こうして使える状態にしていてくれたんですから、私が払うのは当然です」
きっぱり断ると仕方ないと言いながら微笑む。
きっとマリナがそう言うことはわかっていたんだろう。
「メルヒオールも持って行く? 私のだけれど、今日一日なら持って行っていいわよ」
「いいのか?」
驚きに丸くしながらもきらりと目が輝く。
「ええ、一日くらいなら困らないわ」
好奇心に満ちたわかりやすいメルヒオールの反応にも笑ってあっさりと貸し出してくれた。
「ありがとうございます、リオ様」
「いいのよ。 帰りも顔を見せてくれるんだから」
「はい、必ず」
メルヒオールが持った方の携帯にマリナの番号を登録し、同じように携帯の番号を登録する。
メールは別の端末で見れるから連絡してくれたら取りに行くと言われ、アドレスも教えてもらう。
一つ知ってることが増えて、リオ様との繋がりが糸一本分だけ強くなった気がする。
簡単に切れてしまうことも知っている頼りない糸だけれど、きっと切れることはない。
ふらっといなくなってしまった師との繋がりに笑みを浮かべる。
偶然の出会いに縋らなくても連絡を取れる手段があることはマリナを安心させた。
太陽を跳ね返すガラスのビルは眩しく、初夏の訪れを知らせていた。
久々に見た日本の風景は初めて見たときと同じような驚きをマリナに与える。
「メルヒオール、この世界では極力魔法を使わないでくださいね」
前もって話はしているけれど、改めて注意をする。
「ああ、魔力が薄いんだっけ? 言われてみたら確かに薄いな」
同じようにビルを驚きの目で見ていたメルヒオールも周囲の魔力を確認すると神妙に肯いた。
まずはリオ様に挨拶に行くと言うとメルヒオールが驚きに目を見開く。
「リオール? こっちにいるのか?」
そういえばメルヒオールには言ってなかった。
リオ様がこっちの世界にいると知っているのは師匠とヴォルフだけだ。
隠すことでもないけれど、あまり広めない方がいいだろうと思ったから、他の誰にも言ってない。
(リオ様は多分セレスタに帰りたくないもの)
聞いたことはないけれど、師匠もリオ様がこっちにいることを望んでいる。
『きっと好きに生きているだろうから、心配はしてないわ』
自分の意志で思うように生きているならそれでいいと言いたげだった。
誰よりもお互いを理解しているお二人がそう言うならマリナが口を挟むことではない。
行方もわからなかった頃からすれば、会いに行くことができるだけで十分だ。
「話を聞いて色々想像してたんだけど、想像を絶するね。
なにあの塔」
メルヒオールがビルを指す。
マリナたちの常識より遥かに高いビルはそれだけで異世界の技術の一端を表している。
「すごいな」
十五階はありそうなビルを見上げてメルヒオールが子供みたいにはしゃぐ。
きらきらと目を輝かせる表情は好奇心旺盛な子供そのものだ。
人目を集める前にメルヒオールを促して歩き出した。
公園の横を歩き住宅街へ入っていく。
メルヒオールは大人しく後ろをついて来ているけれど、視線があちらこちらへと忙しそうに動いていた。
「マリナ、あれはなんだ?」
公園の遊具を指してメルヒオールが聞いてくる。
たまたま子供のいない公園は変な形の置物が置いてある不思議な空間に見えた。
「あれは子供が遊ぶ遊具です。 鎖にぶら下がった板があるでしょう? あれは座って前後に揺らして遊ぶみたいですよ」
マリナは乗ったことがないけれど、子供が遊んでいるのは見たことがある。
「へえ、やってみたい」
「……。 後にしてください」
一瞬止めようかと思ったけれど、大人が乗ってはいけないわけではないようなので止める言葉が見つからない。
子供連れじゃない人が乗ってるの見たことないんだけど……。
大人と子供が一緒に乗ってるのは見たことがあるので重量制限もないようだし、メルヒオールは納得しないだろうと思って後にしてほしいとだけ告げる。
アパートの辺りに近づくとどこからともなくリオ様が現れた。
「ずいぶんと珍しい取り合わせで来たわねぇ」
「リオ様! お久しぶりです!」
桜の頃以来の再会だ。
数か月ぶりに会ったリオ様は本来の色に近い茶色に髪色を変えていた。
服もシンプルな白いシャツと紺色のパンツを身に着けたリオ様はどこから見ても格好良い男性だ。
こういった格好をしていると師匠が目の前にいるみたい。当たり前だけどよく似ている。
「久しぶりねマリナ。 メルヒオールも」
「ホントにリオールだ。 いなくなったと思ったら異世界に来てたわけ?」
「相変わらずね」
挨拶もせずに思ったことを口にするメルヒオールにリオ様が苦笑した。
「今日はどうしたの? メルヒオールまで一緒なんて」
「こっちの技術がおもしろいって聞いたから見に来た」
「あらそう……。 よく師長様が許したわね」
「メルヒオールなら色々と勉強になるだろうから見せてほしいと言われていました」
実際メルヒオールは見たことのない世界に刺激を受けたようだ。
こっちに来てから輝き続けている目は新しい物を吸収しようと忙しなく辺りを見回していた。
「そうねぇ、この国は常に新しい物が生まれているから見るところはたくさんあるんじゃない?
そういうところはセレスタに似てるわね」
セレスタも魔法技術に関しては常に新しい物を作り出している。
そう言われれば共通点がある気もした。
「まあ、退屈はしないところよ。
思うままに興味のある場所に行けばいいと思うわ」
「そうですね。 商店一つとっても全く違いますから」
直接関係なくても、新しい知識に触れると思わぬ発想が出てきたりするものだ。
「それでリオ様、申し訳ないんですがいくつかこちらでも使えそうな物を持ってきたので現金と交換してもらえますか?」
以前もらったバイト代はまだ残っているけれど、どのくらい使うかわからないので多めにないと不安だった。
「いいわよ? そういえばあんたが置いて行った携帯まだ使えるようにしてあるけれど、持って行く?」
リオ様が快く了承してくれたことに安堵する。続けて言われたことに驚いて目を見開く。
「え?! 残してたんですか?」
解約するようお願いしていたのに、わざわざ残していてくれたなんて。
「ええ、役に立つことがあるかと思って」
マリナがまた日本に来ることも考えていたのかもしれない。
聞いてもきっと肯定してはくれないけれど、その気持ちがうれしかった。
「ありがとうございます! あ、お金払います」
いなくなって一年分くらいの料金をリオ様が払ってくれていたことになる。
払うと申し出るとリオ様が首を振るけど、流石にそれは申し訳無さすぎるので固持した。
「頑固ねぇ。 お金には困ってないから気にしなくていいのに」
「それはそれですよ。 こうして使える状態にしていてくれたんですから、私が払うのは当然です」
きっぱり断ると仕方ないと言いながら微笑む。
きっとマリナがそう言うことはわかっていたんだろう。
「メルヒオールも持って行く? 私のだけれど、今日一日なら持って行っていいわよ」
「いいのか?」
驚きに丸くしながらもきらりと目が輝く。
「ええ、一日くらいなら困らないわ」
好奇心に満ちたわかりやすいメルヒオールの反応にも笑ってあっさりと貸し出してくれた。
「ありがとうございます、リオ様」
「いいのよ。 帰りも顔を見せてくれるんだから」
「はい、必ず」
メルヒオールが持った方の携帯にマリナの番号を登録し、同じように携帯の番号を登録する。
メールは別の端末で見れるから連絡してくれたら取りに行くと言われ、アドレスも教えてもらう。
一つ知ってることが増えて、リオ様との繋がりが糸一本分だけ強くなった気がする。
簡単に切れてしまうことも知っている頼りない糸だけれど、きっと切れることはない。
ふらっといなくなってしまった師との繋がりに笑みを浮かべる。
偶然の出会いに縋らなくても連絡を取れる手段があることはマリナを安心させた。
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