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異世界<日本>視察編
日本へ
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体調不良から完全に復活してマリナはそれなりに忙しい日々を送っている。
その合間を縫ってジグ様に会いに行く。
この前の誘拐事件のときにヴォルフが所持していた通信機の存在を知ったジグ様は、量産化に向けて研究をしたいとマリナに持ちかけてきた。
マリナとしても断る理由がないので了承するつもりでいる。
一番の問題であるコストを下げることができれば必ず広まる魔道具だ。
まずは王宮内で、それから各地の騎士団へと広げていきたいという。
それが可能になれば情報の伝わる速度が飛躍的に変わる。
特に騎士団では出動した部隊と本部で連絡を取り合えることがどれだけ有用か。
知ったら皆自分たちに回ってくるのを心待ちにすると思う。
マリナも協力を惜しまないつもりだ。
階段を上がり、執務室へ足を進める。
そこでマリナを待ち構えていたのは日本に連れて行けと要求するメルヒオールだった。
ジグ様の執務室がある階に上がるとメルヒオールが壁にもたれて立っている。
挨拶だけして通り過ぎようとしたら呼び止められた。
「なにか?」
「度々異世界に行ってるって聞いたんだけど」
どこで聞いたんだ。面倒な人間に知られた。
度々って言われるほどは行ってない、と思う。
「俺を連れて行…」
「嫌です」
言い終わる前に遮って拒否する。
不満そうに口を尖らせるメルヒオール。
「なんで」
なんでってメルヒオールを連れて行くなんて面倒な予感しかしない。
「なぜ連れて行かなければならないんですか」
「おもしろそうだから」
予想通りのセリフに顔をしかめる。
メルヒオールが興味を持つとは思った。
知らない技術の詰まった世界。
マリナも多くのことに興味を引かれたし、気持ちはとてもよくわかる。
「嫌ですよ」
だからこそメルヒオールがどんな反応をするのか想像がつく。
興味の赴くままにふらふら飛び回るメルヒオールが目に浮かぶ。
制御できる気がしない。
そのまま異世界に居ついてしまったりしそうで。
「はぐれたらどうするんですか」
魔力を失った状態でなければメルヒオールは自力で帰ってこれるとは思うけど。
嬉々として日本を回ってきそうだ。帰って来るのがいつになるのか……。
そのうち帰ってくるだろうけれど。
ジグ様が心配するし、メルヒオールの仕事は誰がやるのか。
「はぐれたら通信機で連絡を取り合えばいいだろ。 異世界にもあるんだろ、同じような物が」
「ありますけれど、私が使っていた物は返してしまいましたよ」
セレスタに帰るときに使っていた携帯は解約した。
その日一日だけ借りるとか無理だろうし……。リオ様持ってないかな。
「それなら魔道具でもいいし。 向こうでも使えることは使えるだろ」
「そのために通信機を作るんですか?」
なんていうお金の無駄。
いや、研究用と考えれば無駄とも言い切れないけれどね?
「なんでもいいから行くぞ!」
廊下に響くメルヒオールの声に冷静な注意が飛んでくる。
「何を騒いでいるんですか。 静かにしなさいメルヒオール」
メルヒオールの声が聞こえたのかジグ様が部屋から出てきた。
マリナとメルヒオールを交互に見て小さく溜め息を吐く。
「その話は私の部屋でしなさい。 必要以上に人目を引くことのないように」
ジグ様は話の内容を承知していたようでそんなことを言う。
部屋に入って勧められた椅子に座る。
メルヒオールも少し離れた場所に腰を下ろし話を戻した。
「師長、マリナが異世界に連れてけっていうのに反対するんですよ!」
「メルヒオール……」
ジグ様が目線で静かにしなさいとメルヒオールを制す。
「マリナ、理由はなんでしょうか」
静かな声で理由を問うジグ様に目を瞬く。
それはつまり、ジグ様は反対しないっていうこと?
意外な面持ちで理由を説明する。
「連れて行くのは不可能ではないのですが、メルヒオールを連れて無事に帰ってくる自信がありません」
「やはり、そういった理由ですか」
得心したように頷くジグ様。
メルヒオールがマリナの注意を素直に聞くとは到底思えない。
頷くマリナにジグ様は予想していなかった言葉を告げた。
「メルヒオールにはよく言い聞かせておくので共に異世界に連れて行ってはくれませんか?」
「え?」
驚きに目を見張るとジグ様が理由を聞かせてくれる。
「あなたが作った通信機はもとは異世界の技術ですね?」
「はい」
携帯をもとに作ったことは一応説明してある。電波とか説明しようもないものもあったので本当にマリナの実体験のみに絞った話だけど。
「異世界ではこちらとは全く違う技術が発展しているとか。
その技術をメルヒオールに見せてほしいのです」
「それは……」
「メルヒオールなら異世界の技術を新たな形で発展させることができると思っています。
あなたには世話をかけますが、どうかお願いできないでしょうか?」
真っ向からお願いされて言葉を呑む。
ジグ様たってのお願いなら断れない。
結局マリナは日本行きを承諾したのだった。
その合間を縫ってジグ様に会いに行く。
この前の誘拐事件のときにヴォルフが所持していた通信機の存在を知ったジグ様は、量産化に向けて研究をしたいとマリナに持ちかけてきた。
マリナとしても断る理由がないので了承するつもりでいる。
一番の問題であるコストを下げることができれば必ず広まる魔道具だ。
まずは王宮内で、それから各地の騎士団へと広げていきたいという。
それが可能になれば情報の伝わる速度が飛躍的に変わる。
特に騎士団では出動した部隊と本部で連絡を取り合えることがどれだけ有用か。
知ったら皆自分たちに回ってくるのを心待ちにすると思う。
マリナも協力を惜しまないつもりだ。
階段を上がり、執務室へ足を進める。
そこでマリナを待ち構えていたのは日本に連れて行けと要求するメルヒオールだった。
ジグ様の執務室がある階に上がるとメルヒオールが壁にもたれて立っている。
挨拶だけして通り過ぎようとしたら呼び止められた。
「なにか?」
「度々異世界に行ってるって聞いたんだけど」
どこで聞いたんだ。面倒な人間に知られた。
度々って言われるほどは行ってない、と思う。
「俺を連れて行…」
「嫌です」
言い終わる前に遮って拒否する。
不満そうに口を尖らせるメルヒオール。
「なんで」
なんでってメルヒオールを連れて行くなんて面倒な予感しかしない。
「なぜ連れて行かなければならないんですか」
「おもしろそうだから」
予想通りのセリフに顔をしかめる。
メルヒオールが興味を持つとは思った。
知らない技術の詰まった世界。
マリナも多くのことに興味を引かれたし、気持ちはとてもよくわかる。
「嫌ですよ」
だからこそメルヒオールがどんな反応をするのか想像がつく。
興味の赴くままにふらふら飛び回るメルヒオールが目に浮かぶ。
制御できる気がしない。
そのまま異世界に居ついてしまったりしそうで。
「はぐれたらどうするんですか」
魔力を失った状態でなければメルヒオールは自力で帰ってこれるとは思うけど。
嬉々として日本を回ってきそうだ。帰って来るのがいつになるのか……。
そのうち帰ってくるだろうけれど。
ジグ様が心配するし、メルヒオールの仕事は誰がやるのか。
「はぐれたら通信機で連絡を取り合えばいいだろ。 異世界にもあるんだろ、同じような物が」
「ありますけれど、私が使っていた物は返してしまいましたよ」
セレスタに帰るときに使っていた携帯は解約した。
その日一日だけ借りるとか無理だろうし……。リオ様持ってないかな。
「それなら魔道具でもいいし。 向こうでも使えることは使えるだろ」
「そのために通信機を作るんですか?」
なんていうお金の無駄。
いや、研究用と考えれば無駄とも言い切れないけれどね?
「なんでもいいから行くぞ!」
廊下に響くメルヒオールの声に冷静な注意が飛んでくる。
「何を騒いでいるんですか。 静かにしなさいメルヒオール」
メルヒオールの声が聞こえたのかジグ様が部屋から出てきた。
マリナとメルヒオールを交互に見て小さく溜め息を吐く。
「その話は私の部屋でしなさい。 必要以上に人目を引くことのないように」
ジグ様は話の内容を承知していたようでそんなことを言う。
部屋に入って勧められた椅子に座る。
メルヒオールも少し離れた場所に腰を下ろし話を戻した。
「師長、マリナが異世界に連れてけっていうのに反対するんですよ!」
「メルヒオール……」
ジグ様が目線で静かにしなさいとメルヒオールを制す。
「マリナ、理由はなんでしょうか」
静かな声で理由を問うジグ様に目を瞬く。
それはつまり、ジグ様は反対しないっていうこと?
意外な面持ちで理由を説明する。
「連れて行くのは不可能ではないのですが、メルヒオールを連れて無事に帰ってくる自信がありません」
「やはり、そういった理由ですか」
得心したように頷くジグ様。
メルヒオールがマリナの注意を素直に聞くとは到底思えない。
頷くマリナにジグ様は予想していなかった言葉を告げた。
「メルヒオールにはよく言い聞かせておくので共に異世界に連れて行ってはくれませんか?」
「え?」
驚きに目を見張るとジグ様が理由を聞かせてくれる。
「あなたが作った通信機はもとは異世界の技術ですね?」
「はい」
携帯をもとに作ったことは一応説明してある。電波とか説明しようもないものもあったので本当にマリナの実体験のみに絞った話だけど。
「異世界ではこちらとは全く違う技術が発展しているとか。
その技術をメルヒオールに見せてほしいのです」
「それは……」
「メルヒオールなら異世界の技術を新たな形で発展させることができると思っています。
あなたには世話をかけますが、どうかお願いできないでしょうか?」
真っ向からお願いされて言葉を呑む。
ジグ様たってのお願いなら断れない。
結局マリナは日本行きを承諾したのだった。
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