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セレスタ 波乱の婚約式編
セレスタへの帰還 5
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帰ってきた――。
王宮を見上げてそっと息を吐く。
見慣れた威容を目にすると戻ったと実感する。
セレスタの旗を見上げて喜びを噛みしめ、足を進める。
いきなり執務室に行くのも不躾なので先に戻ったことを近衛騎士に伝えてもらう。
ようやく、という思いが強い。
周りもそうだったみたいで、戻ったことを伝えるとすぐに王子が駆けつけてきた。後ろには内務卿と外務卿もいる。
「マリナ! よく帰ってきた!!」
扉を叩きつける勢いで現れた王子は本当に走ってきたらしく、息を切らしていた。
その様子に思わず笑みが零れる。
「王子、そんな走って来られずとも、こちらから向かいますよ?」
王子が走るところを見た人は何があったんだと驚くでしょうに。
「待っていられなかったんだ」
屈託なく微笑まれて面映ゆい心地で頭を下げる。
「ご心配をおかけしました」
心配と、面倒を掛けたと思う。
貴族たちからもマリナがいなくなったことを追及されたとヴォルフから聞いた。
深い感謝を込めて礼をする。顔を上げると心からの笑みを向けられる。
「ただいま帰還いたしました。 帰還に向けてお心を砕いてくださったこと、深く感謝しております。
ありがとうございます、王子」
最後に飾らない言葉で感謝を告げ、微笑むと王子も更に目を細めた。
「自分の双翼のために力を尽くすのは当然のことだ。 戻ってきてくれてうれしいよ」
微笑み合う王子とマリナの間にさて、と内務卿の声が落ちる。
「詳しく話を聞かせてもらいましょうか。 マールアの目的がどういうものだったのか」
ひた、とマリナの目を見据える内務卿と外務卿にわずかに顔が強張った。
嘘を吐こうとは思わないけれど、言いにくいな。
そんな内心を笑みで隠しながらマリナは席に着いた。
「随分予想外の理由ですね」
ユリノアスの目的を聞いた外務卿が零した言葉が全員の心情を代弁している。
「ええ、それは表向きの理由だと私も思ったのですが、第三王子の行動理由は本当にそれでした」
重ねて言うと外務卿も黙ってしまう。
「第二王子は私から魔術知識や技術を引き出し、国内の安定に使うつもりだったようですが」
そして第一王子はそれを放棄した。
「第一王子ユースティス殿はセレスタに親書を送りたいと言っていたんだな?」
王子が改めて確認をする。
マールアからセレスタに、というのは大きな意味があった。
基本的に仲良くなりたいと思った方から書簡を送るものだ。
この場合マールアがセレスタに伺いを立てているということになる。しかも第一王子直筆で。
これまでのマールアなら絶対に取らなかった方法だ。
「マールア国内での反発も高そうですがな」
「そちらはなんとかするおつもりなんでしょう」
内務卿の懸念は尤もだけど、心配はいらないと思う。
ユースティスなら黙らせる方法なんていくつも持っていそうだ。
外務卿も頷いている。外務卿もユースティスの手腕は聞き及んでいるのだろう。
「あちらから親書を送ってくるというのは喜ばしいことです。
これまでは外務官とのやり取りが主でしたから、王族からの親書は快挙です。
争うつもりがないという確認だけでも意味がありますからね」
外務卿が説明してくれる。
マリナが攫われたことにも意味があったってことかな。
「マリナ、向こうで無体を働かれたことはなかったか?
向こうの出方次第だが、優位に立てる情報はあればあるだけいい。 何かあれば教えてくれ」
問われて答える。使えそうなネタは多くないのだけれど。
「第二王子はずいぶんとセレスタを馬鹿にしているようで、王子とレイフェミア様を侮辱しました」
レイフェミア様の名前が出てきたことで王子の表情が変わる。
「私の能力を疑ったのか王子の側女だから重用されているのだろうと言ってきまして」
話の内容に二卿が目を細める。婚約式に参加しに来た国の人間の言葉とは思えない暴言だ。
「他国の技術を盗むしかできない鼠が大層な口を叩くなと言ったら殴られました」
殴られたという言葉に顔色を変えたのは王子だった。
「殴られたって大丈夫なのか!? 怪我は?」
「すでに治っていますので大丈夫です。 傷も少し口の中を切っただけでしたし」
「顔を殴られたのか?!」
説明すると王子が裏返った声を出す。
落ち着かせようと大丈夫だと繰り返すが王子の表情は優れない。
「他には?」
「後は何もありません。 第三王子も暴力を振るうような人間ではありませんでしたし、第一王子に至ってはセレスタとの関係を憂慮して心配りをしてくださいました」
本当かと疑わしげな眼を向けられる。
ユリノアスは元々の行動が暴力と言っていい行動なので全く信用がない。
「手を上げられるどころか手を握られてすらいませんよ、第三王子には」
マリナが付け加えた言葉に三人が目を見張る。
「第二王子に手を上げられたときには前に立って庇ってもくれましたし、暴力から遠い人なのでしょう。 顔を真っ青にしながら第二王子に反論していました」
「そうでしたか……。 そのような人が今回の誘拐を思いつくとは、短慮とは恐ろしいものですね」
外務卿が落とした言葉にマリナも同意する。
ユリノアスがもう少し思慮深ければ怒らなかった騒動だと思う。
そんな理由でひと月もセレスタを離れることになったのかと思うと溜め息しか出なかった。
王宮を見上げてそっと息を吐く。
見慣れた威容を目にすると戻ったと実感する。
セレスタの旗を見上げて喜びを噛みしめ、足を進める。
いきなり執務室に行くのも不躾なので先に戻ったことを近衛騎士に伝えてもらう。
ようやく、という思いが強い。
周りもそうだったみたいで、戻ったことを伝えるとすぐに王子が駆けつけてきた。後ろには内務卿と外務卿もいる。
「マリナ! よく帰ってきた!!」
扉を叩きつける勢いで現れた王子は本当に走ってきたらしく、息を切らしていた。
その様子に思わず笑みが零れる。
「王子、そんな走って来られずとも、こちらから向かいますよ?」
王子が走るところを見た人は何があったんだと驚くでしょうに。
「待っていられなかったんだ」
屈託なく微笑まれて面映ゆい心地で頭を下げる。
「ご心配をおかけしました」
心配と、面倒を掛けたと思う。
貴族たちからもマリナがいなくなったことを追及されたとヴォルフから聞いた。
深い感謝を込めて礼をする。顔を上げると心からの笑みを向けられる。
「ただいま帰還いたしました。 帰還に向けてお心を砕いてくださったこと、深く感謝しております。
ありがとうございます、王子」
最後に飾らない言葉で感謝を告げ、微笑むと王子も更に目を細めた。
「自分の双翼のために力を尽くすのは当然のことだ。 戻ってきてくれてうれしいよ」
微笑み合う王子とマリナの間にさて、と内務卿の声が落ちる。
「詳しく話を聞かせてもらいましょうか。 マールアの目的がどういうものだったのか」
ひた、とマリナの目を見据える内務卿と外務卿にわずかに顔が強張った。
嘘を吐こうとは思わないけれど、言いにくいな。
そんな内心を笑みで隠しながらマリナは席に着いた。
「随分予想外の理由ですね」
ユリノアスの目的を聞いた外務卿が零した言葉が全員の心情を代弁している。
「ええ、それは表向きの理由だと私も思ったのですが、第三王子の行動理由は本当にそれでした」
重ねて言うと外務卿も黙ってしまう。
「第二王子は私から魔術知識や技術を引き出し、国内の安定に使うつもりだったようですが」
そして第一王子はそれを放棄した。
「第一王子ユースティス殿はセレスタに親書を送りたいと言っていたんだな?」
王子が改めて確認をする。
マールアからセレスタに、というのは大きな意味があった。
基本的に仲良くなりたいと思った方から書簡を送るものだ。
この場合マールアがセレスタに伺いを立てているということになる。しかも第一王子直筆で。
これまでのマールアなら絶対に取らなかった方法だ。
「マールア国内での反発も高そうですがな」
「そちらはなんとかするおつもりなんでしょう」
内務卿の懸念は尤もだけど、心配はいらないと思う。
ユースティスなら黙らせる方法なんていくつも持っていそうだ。
外務卿も頷いている。外務卿もユースティスの手腕は聞き及んでいるのだろう。
「あちらから親書を送ってくるというのは喜ばしいことです。
これまでは外務官とのやり取りが主でしたから、王族からの親書は快挙です。
争うつもりがないという確認だけでも意味がありますからね」
外務卿が説明してくれる。
マリナが攫われたことにも意味があったってことかな。
「マリナ、向こうで無体を働かれたことはなかったか?
向こうの出方次第だが、優位に立てる情報はあればあるだけいい。 何かあれば教えてくれ」
問われて答える。使えそうなネタは多くないのだけれど。
「第二王子はずいぶんとセレスタを馬鹿にしているようで、王子とレイフェミア様を侮辱しました」
レイフェミア様の名前が出てきたことで王子の表情が変わる。
「私の能力を疑ったのか王子の側女だから重用されているのだろうと言ってきまして」
話の内容に二卿が目を細める。婚約式に参加しに来た国の人間の言葉とは思えない暴言だ。
「他国の技術を盗むしかできない鼠が大層な口を叩くなと言ったら殴られました」
殴られたという言葉に顔色を変えたのは王子だった。
「殴られたって大丈夫なのか!? 怪我は?」
「すでに治っていますので大丈夫です。 傷も少し口の中を切っただけでしたし」
「顔を殴られたのか?!」
説明すると王子が裏返った声を出す。
落ち着かせようと大丈夫だと繰り返すが王子の表情は優れない。
「他には?」
「後は何もありません。 第三王子も暴力を振るうような人間ではありませんでしたし、第一王子に至ってはセレスタとの関係を憂慮して心配りをしてくださいました」
本当かと疑わしげな眼を向けられる。
ユリノアスは元々の行動が暴力と言っていい行動なので全く信用がない。
「手を上げられるどころか手を握られてすらいませんよ、第三王子には」
マリナが付け加えた言葉に三人が目を見張る。
「第二王子に手を上げられたときには前に立って庇ってもくれましたし、暴力から遠い人なのでしょう。 顔を真っ青にしながら第二王子に反論していました」
「そうでしたか……。 そのような人が今回の誘拐を思いつくとは、短慮とは恐ろしいものですね」
外務卿が落とした言葉にマリナも同意する。
ユリノアスがもう少し思慮深ければ怒らなかった騒動だと思う。
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