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セレスタ 波乱の婚約式編
待ち望んだ光 2
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壊した壁から部屋の外に出る。広い場所の方がマリナに有利だ。
空を見上げた目に影が映る。
魔術師数名と……。
姿を確認する前に一人が地上に向かって飛び降りた。
慌てた様子で魔術師が飛び降りた人間に向かって魔術を掛ける。
無茶するんだから……。
「待たせたな」
いつもと変わらない声に笑みが零れる。
ずっと聞きたくて仕方なかった声。
降り立ったヴォルフの腕の中に飛び込む。
力一杯抱き締めると、同じだけ強く抱き返される。
「マリナ」
名前を呼ぶ声に篭った感情に胸が震えた。
「待ってた」
嬉しさに震える声で伝えると腕の力が一際強くなる。
空で牽制している魔術師たちから文句を言われる前に抱擁を解き、後ろにいたユリノアスたちと対峙した。
ユリノアスを射抜くヴォルフの視線は鋭く、激しい怒りを内包している。
「では殿下、私たちはセレスタに帰ります」
帰る、と言ったときユリノアスの目がわずかに揺らいだ。
瞳に映るのは後悔と、諦め。
何か言おうとしたくちびるが、中途半端に開き、閉じられる。
言えることは何もないのだと悟ったみたいに。
魔力で邪魔な瓦礫や庭園を囲う壁を吹き飛ばす。
開けた視界にユースティスとラムゼスが入る。
立て続いたの轟音と空に浮かぶ人影に異常事態を察し駆けつけたのだろう。
他にも慌ただしく近づいて来る足音が聞こえる。
「貴様! 逃げる気か!」
部下を率いたラムゼスがマリナに向かって吠える。後ろの部下たちも武器を手に近づいてきた。
「逃げない理由がありませんね」
剣を抜いたヴォルフにラムゼスが警戒の目を向ける。
「無断で内部に入り込んだ上に王宮を破壊して、そのまま逃げられると思っているのか!」
「発端はマールアにある。
セレスタに責任を問うなど、愚かなことを言わないでくださいね?
咎められるのは私たちではなくてそちらです」
改めて口に出すまでもない。全ての始まりはユリノアスがマリナを攫ったところから始まったのだ。
そこに異論の挟む余地はない。
「ふざけるな! 王宮を襲撃され黙っていられるか!
しかもたかが魔術師一人取り戻すためだと? 我が国を馬鹿にするつもりか!」
「黙っていられないのはこちらの方だ。
たかが魔術師だと? 寝言は寝てから言え」
ヴォルフから怒りが迸る。
ヴォルフの眼光を受け止めて怒りを燃やすラムゼスに、マリナは彼らが理解できていないことを説明する。
「攻撃をしかけたのはそちらの方です。
双翼は主の盾であり剣。
誰よりも近くで王子を護り、その執政の行く道を助ける者」
特にマリナは護衛だけを任務にしているわけではない。
「セレスタ次期国王の側近を攫って、どのような情報を得るつもりだったんでしょうか」
鋭い、敵意に満ちた視線をラムゼスに投げる。
ラムゼスは思わぬことを言われたというように瞠目した。
「暴力をもって聞き出すことも厭わないと言ったあなたの意図がどこにあったのか……。
一方的な攻撃を加えてきたのがそちらだというのは理解できましたか?」
視点を変えれば魔術師を攫っただけに止まらず次期国王を狙った策略の一部とも見えてしまう。
これが、ユリノアスが気づかず、ラムゼスが知らず、ユースティスが利用しようとしなかったマリナのもう一つの価値だった。
ユリノアスに視線を向けると真っ青な顔をしている。
他ならぬユリノアスがマリナを守っていたのでそこまで青褪めなくてもいいんだけれど……。
良い薬かなと思って黙っておく。
「そのような暴挙を働かれ黙っていられないのは当然のこと。
救出の際に多少の衝突があろうとも大義はこちらにある」
ラムゼスを睨みつけながらヴォルフが言い切った。
「そしてこれこそがそちらの暴挙の証です」
言いながらマリナは魔封じを見えるように袖を上げる。
魔封じを付けられ、望まぬ形でここにいるのが明らかだと示す。
袖を押さえ目配せをすると、ヴォルフは意図を過たず頷いた。
「……!」
マリナの手首に向かってヴォルフが剣を振り下ろす。
ヴォルフの剣は、寸分違わず魔封じを破壊する。
小さな金属音がして、マリナは解放された。
魔封じがなくなった手首を撫で、マールアの面々を見回す。
警戒を高めるラムゼスたちと反対にユースティスはゆっくりとした足取りでマリナたちを囲む輪の先頭に歩み出てきた。
「ユースティス様! お下がりください!」
叫ぶ周囲を手を振って黙らせ、マリナを見つめる。
その瞳はこれまでと変わらない。場違いなくらい落ち着いた目をしていた。
こうなると考えていたから驚くところではないのだろう、ユースティスにとっては。
「そなたが戻った後、セレスタは私の親書を受け取ってくれるだろうか」
「ええ、もちろん。
ユースティス様はこの度の騒動に関わりがなく、私を害するようなこともなさりませんでした。
セレスタとの関係を憂慮するお言葉や私を気遣う言葉までいただきまして、お心遣いに感謝しています。
主にはユースティス様より親書が届くと伝えておきます」
「そうか、感謝する」
短い言葉だったが和解を伝えるには十分な会話。
マリナはユースティスにおいては責任を問わないと口にした。
感謝を述べたユースティスも自国の非を認めたことが周囲にも伝わる。
「馬鹿な! セレスタ相手に膝を付くつもりなのか!」
「こちらに明らかな非があるのだ。
膝を付いての謝罪を求められても仕方のないことをしたと知れ」
非難の声を上げたラムゼスにユースティスは悠然とした態度を崩さない。
それどころかマールアが悪いと言ってのけた。
「ふざけるな!! そんなこと、認められるか!!」
吠えたラムゼスが武器を握りしめる。
「兄上! 何をするつもりですか、やめてください!」
ユリノアスが悲鳴のような声を上げ制止するが、ラムゼスは止まらない。
ユースティスはどうしようもないと言うように口元を釣り上げて笑っている。
自分で制止の声を上げないので、マリナが排除しても止めないということだろう。
本当に怖い人だわ、とマリナも口元だけで笑った。
空を見上げた目に影が映る。
魔術師数名と……。
姿を確認する前に一人が地上に向かって飛び降りた。
慌てた様子で魔術師が飛び降りた人間に向かって魔術を掛ける。
無茶するんだから……。
「待たせたな」
いつもと変わらない声に笑みが零れる。
ずっと聞きたくて仕方なかった声。
降り立ったヴォルフの腕の中に飛び込む。
力一杯抱き締めると、同じだけ強く抱き返される。
「マリナ」
名前を呼ぶ声に篭った感情に胸が震えた。
「待ってた」
嬉しさに震える声で伝えると腕の力が一際強くなる。
空で牽制している魔術師たちから文句を言われる前に抱擁を解き、後ろにいたユリノアスたちと対峙した。
ユリノアスを射抜くヴォルフの視線は鋭く、激しい怒りを内包している。
「では殿下、私たちはセレスタに帰ります」
帰る、と言ったときユリノアスの目がわずかに揺らいだ。
瞳に映るのは後悔と、諦め。
何か言おうとしたくちびるが、中途半端に開き、閉じられる。
言えることは何もないのだと悟ったみたいに。
魔力で邪魔な瓦礫や庭園を囲う壁を吹き飛ばす。
開けた視界にユースティスとラムゼスが入る。
立て続いたの轟音と空に浮かぶ人影に異常事態を察し駆けつけたのだろう。
他にも慌ただしく近づいて来る足音が聞こえる。
「貴様! 逃げる気か!」
部下を率いたラムゼスがマリナに向かって吠える。後ろの部下たちも武器を手に近づいてきた。
「逃げない理由がありませんね」
剣を抜いたヴォルフにラムゼスが警戒の目を向ける。
「無断で内部に入り込んだ上に王宮を破壊して、そのまま逃げられると思っているのか!」
「発端はマールアにある。
セレスタに責任を問うなど、愚かなことを言わないでくださいね?
咎められるのは私たちではなくてそちらです」
改めて口に出すまでもない。全ての始まりはユリノアスがマリナを攫ったところから始まったのだ。
そこに異論の挟む余地はない。
「ふざけるな! 王宮を襲撃され黙っていられるか!
しかもたかが魔術師一人取り戻すためだと? 我が国を馬鹿にするつもりか!」
「黙っていられないのはこちらの方だ。
たかが魔術師だと? 寝言は寝てから言え」
ヴォルフから怒りが迸る。
ヴォルフの眼光を受け止めて怒りを燃やすラムゼスに、マリナは彼らが理解できていないことを説明する。
「攻撃をしかけたのはそちらの方です。
双翼は主の盾であり剣。
誰よりも近くで王子を護り、その執政の行く道を助ける者」
特にマリナは護衛だけを任務にしているわけではない。
「セレスタ次期国王の側近を攫って、どのような情報を得るつもりだったんでしょうか」
鋭い、敵意に満ちた視線をラムゼスに投げる。
ラムゼスは思わぬことを言われたというように瞠目した。
「暴力をもって聞き出すことも厭わないと言ったあなたの意図がどこにあったのか……。
一方的な攻撃を加えてきたのがそちらだというのは理解できましたか?」
視点を変えれば魔術師を攫っただけに止まらず次期国王を狙った策略の一部とも見えてしまう。
これが、ユリノアスが気づかず、ラムゼスが知らず、ユースティスが利用しようとしなかったマリナのもう一つの価値だった。
ユリノアスに視線を向けると真っ青な顔をしている。
他ならぬユリノアスがマリナを守っていたのでそこまで青褪めなくてもいいんだけれど……。
良い薬かなと思って黙っておく。
「そのような暴挙を働かれ黙っていられないのは当然のこと。
救出の際に多少の衝突があろうとも大義はこちらにある」
ラムゼスを睨みつけながらヴォルフが言い切った。
「そしてこれこそがそちらの暴挙の証です」
言いながらマリナは魔封じを見えるように袖を上げる。
魔封じを付けられ、望まぬ形でここにいるのが明らかだと示す。
袖を押さえ目配せをすると、ヴォルフは意図を過たず頷いた。
「……!」
マリナの手首に向かってヴォルフが剣を振り下ろす。
ヴォルフの剣は、寸分違わず魔封じを破壊する。
小さな金属音がして、マリナは解放された。
魔封じがなくなった手首を撫で、マールアの面々を見回す。
警戒を高めるラムゼスたちと反対にユースティスはゆっくりとした足取りでマリナたちを囲む輪の先頭に歩み出てきた。
「ユースティス様! お下がりください!」
叫ぶ周囲を手を振って黙らせ、マリナを見つめる。
その瞳はこれまでと変わらない。場違いなくらい落ち着いた目をしていた。
こうなると考えていたから驚くところではないのだろう、ユースティスにとっては。
「そなたが戻った後、セレスタは私の親書を受け取ってくれるだろうか」
「ええ、もちろん。
ユースティス様はこの度の騒動に関わりがなく、私を害するようなこともなさりませんでした。
セレスタとの関係を憂慮するお言葉や私を気遣う言葉までいただきまして、お心遣いに感謝しています。
主にはユースティス様より親書が届くと伝えておきます」
「そうか、感謝する」
短い言葉だったが和解を伝えるには十分な会話。
マリナはユースティスにおいては責任を問わないと口にした。
感謝を述べたユースティスも自国の非を認めたことが周囲にも伝わる。
「馬鹿な! セレスタ相手に膝を付くつもりなのか!」
「こちらに明らかな非があるのだ。
膝を付いての謝罪を求められても仕方のないことをしたと知れ」
非難の声を上げたラムゼスにユースティスは悠然とした態度を崩さない。
それどころかマールアが悪いと言ってのけた。
「ふざけるな!! そんなこと、認められるか!!」
吠えたラムゼスが武器を握りしめる。
「兄上! 何をするつもりですか、やめてください!」
ユリノアスが悲鳴のような声を上げ制止するが、ラムゼスは止まらない。
ユースティスはどうしようもないと言うように口元を釣り上げて笑っている。
自分で制止の声を上げないので、マリナが排除しても止めないということだろう。
本当に怖い人だわ、とマリナも口元だけで笑った。
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