双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 波乱の婚約式編

火種持つマールア 1

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 少し休んだユリノアスが執務に戻って行った後、思い出したようにカイゼが魔封じを取り出した。
「すっかり忘れてた。 付けるから手を出してくれ」
「そうでしたね、はい」
 素直に腕を差し出すと呆れたような雰囲気がカイゼから漂う。
「言っておいてなんだが、本当に自分から差し出すか?
 嫌なもんだろう? 普通の魔術師は」
 もちろんマリナだって嫌だ。
「嫌に決まってますけれど、止めないでしょう。
 ……それに、魔封じが外れていたから過剰反応したんでしょうし、付けていた方が揉め事にならないと思います」
 ラムゼスは一瞬でマリナが魔封じを外していることを見咎めてきた。
 それは裏を返せば、それだけマリナの能力を恐れているということ。
 自分たちが封じていると確認することで安堵を得ている。
 名前を出さなくてもマリナが誰のことを言っているかはカイゼにも伝わった。
「あー、まあな。 さっさと終わらせときゃ良かったな。
 それでも絡まれた可能性はあるけど、ユリノアス様がすっ飛んで来るほど大事にはならなかったかもしれないし」
 かも、であってどうなったかなんてわからない。
「退屈だけど、閉じこもっていた方がよさそうですね」
 大人しくしてるのでさっさと付けてほしいと言うように手を上げると魔封じの留め具が開き、手首に止められる。
 言っておいてなんだけどやっぱり不快なものだ。
 手首を返して魔封じを見下ろす。
 一瞥して顔を上げようとしたところでいきなり手を引かれた。
「あの時、何をするつもりだった?」
 至近距離で覗き込む瞳には沈黙を許さない厳しさが見える。
「さあ、何のことでしょうか?」
 薄く笑みを乗せた顔でとぼけるマリナにも、表情を変えない。
 覗き込む瞳は険しく、恐ろしい。視線を逸らしたら危険だと本能が訴えていた。
「ラムゼス様に締め上げられたとき、あんたは抵抗しなかったように見えた。 おかしなことだろう?」
「大丈夫だったじゃないですか、他ならぬカイゼのおかげで」
 ユリノアスかカイゼが止めに入ると思っていた、のも本当だ。
「それは結果論だ。 あの壊された魔道具を使うようすも見えなかったし、助かると本気で思ってたのか?」
「本当に止めてくれると思っていましたよ」
 ユリノアスが威圧で動けなくてもカイゼはその限りではないと思っていた。
「それに、封じられているので魔道具は使えません」
 魔道具を使わなかったのではなく使えなかったのだと強調する。
「改めて言わなくともわかっているでしょうに、おかしなことを聞きますね」
 ひとつひとつ説明していくと苦虫を噛み潰したような顔になる。珍しい。
「それにしても落ち着き過ぎだ。
 まるで自分の身に危険なんて起こらないと思ってるみたいに」
 思わぬことを言われて目を瞬く。
「そんなに油断してましたか?」
 それは由々しきことだ。無事にセレスタに帰る、が目標なのに油断は足元を掬われかねない。
 気を引き締めなければと思っていると渋い声が降ってきた。
「違う。 余裕があるというんだそれは。
 余裕たっぷりに見えるからこそ、ラムゼス様は焦ったんだろう」
 マリナが挑発したせいもあるだろうが、簡単に怒りを露わにする姿には確かに焦りが見えた。
 ユリノアスまで威嚇するほどの焦り。
 その焦りはマリナがどうというより、ユースティスへの警戒のように見えた。
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