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セレスタ 波乱の婚約式編
魔力操作 2
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案内されて部屋に入ると、ユースティスの奥様はベッドから身を起こして待っていた。
「初めまして、セレスタの魔術師様。 シェイヌと申します。
ユースティス様が無理を言って申し訳ありません」
目を伏せるシェイヌ様は線の細い美女だった。
見事な黒髪と青みの強い紫の瞳が印象的だ。
「お初にお目にかかります。
セレスタにて双翼の名を賜っております、マリナと申します」
「本当にいつものことですし、大したことはないのよ?」
微笑む顔は無理をしているわけではなく、本当にいつものことなんだろう。
見た感じでは魔力量は普通に見える。
体調に影響が出るのは通常より魔力が多いことが多いのだけれど、体力の無さも影響しているのかもしれない。
「シェイヌ様、手を前に出していただけますか」
言われた通りに手を出してくれる。
「目を閉じて、呼吸を深くしてください」
シェイヌ様の呼吸の音が部屋に響く。
じっとシェイヌ様を見つめる。
魔力の流れが悪い場所がないか、逆に多く流れすぎている場所はないか見ていく。
「そのまま指先を組んで、両手を合わせてください」
組み合わせた指先から魔力が伝わっていく。多少ぎこちないけれど問題になるほど滞っているわけでもない。
「今、どのような感覚がありますか?」
「よく、わかりません」
魔力を感じられないのか。困った。
振り返るとカイゼと目が合う。
手首を上げて、腕輪を見せる。
意図はすぐ伝わったけれど、渋い顔をされた。
後から付けられた遮断タイプの魔封じを指さしてカイゼを見つめる。
無言で葛藤しているカイゼをじっと見て訴える。魔封じ一つ外れたからといってこんなところで暴れるほど馬鹿じゃない。
「マリナ……?」
沈黙を不思議に思ったシェイヌ様がマリナの名を呼ぶと、カイゼが折れた。
「シェイヌ様、お手に触れますがよろしいですか?」
「ええ」
組んだ手を包むように上から触れる。
「あ……」
包んだ手から魔力を流すとシェイヌ様がぴくりと反応した。
「何か感じられましたか?」
「ええ。 何か……、温かいものを感じるわ」
シェイヌ様が目を瞑ったまま手に意識を集中する。
同時に魔力が手に集まってきた。
「これが魔力です」
「これが……」
戸惑うように呟かれた声からはわずかに恐れのようなものが感じられる。
「ええ、誰の身体にもある力です」
「誰にも?」
「はい。 魔法を使える使えないに関わらず、生きるものすべてが持っている力です」
ゆっくりとした言葉で語りかけるとシェイヌ様の身体から余計な力が抜けていく。
身体の中を巡る魔力を一定の速度で循環させる。
手を離すとシェイヌ様が目を開いた。
「どうしてかしら、先ほどよりも気分が良い気がするわ」
「シェイヌ様は少し魔力の流れが弱いようですので、意識的に魔力を流す訓練をされるとよろしいかと思います」
流れが弱いので時々魔力が溜まり、発熱を引き起こすのだろうと付け加えるとシェイヌ様の顔が明るくなった。
「子供の頃からの体質だからずっと付き合っていかないといけないと思っていたの。
こんな簡単に治してもらえるなんてすごいわ」
嬉しそうに笑うシェイヌ様にマリナも微笑み返す。
後ろでカイゼがやきもきしているのが伝わってくる。
早く魔封じを付け直したいけれど、シェイヌ様の会話を遮るわけにもいかないといった様子だ。
「では、私はこれで失礼いたします。
感覚は掴めたと思いますが、無理をせずお休みください」
魔力の流れを掴めたからといってすぐに体質が変わるわけではない。
発熱していたこともあるし、休んだ方がいいと伝える。
「本当にありがとう。 急なことで申し訳なかったわ」
「いいえ、お役に立てて良かったです」
当たり障りのない返事をして部屋を出る。
シェイヌ様の部屋から離れたところで足を止めた。
「どうした?」
カイゼが足を止めたマリナを不思議そうに見る。
「付け直すのでは?」
すぐにでも魔封じを付け直したいと思ってるのではないかと言うとカイゼが変な顔をした。
「自分から言うのかよ」
そりゃ魔封じを付けているのは嫌だけど、ごねても結果は変わらないし。
他人が見たときにマリナが魔封じを付けていないのはいらない不安を招く。
トラブルは避けるべし。
そう考えていたが、マリナの行動は少し遅かった。
「初めまして、セレスタの魔術師様。 シェイヌと申します。
ユースティス様が無理を言って申し訳ありません」
目を伏せるシェイヌ様は線の細い美女だった。
見事な黒髪と青みの強い紫の瞳が印象的だ。
「お初にお目にかかります。
セレスタにて双翼の名を賜っております、マリナと申します」
「本当にいつものことですし、大したことはないのよ?」
微笑む顔は無理をしているわけではなく、本当にいつものことなんだろう。
見た感じでは魔力量は普通に見える。
体調に影響が出るのは通常より魔力が多いことが多いのだけれど、体力の無さも影響しているのかもしれない。
「シェイヌ様、手を前に出していただけますか」
言われた通りに手を出してくれる。
「目を閉じて、呼吸を深くしてください」
シェイヌ様の呼吸の音が部屋に響く。
じっとシェイヌ様を見つめる。
魔力の流れが悪い場所がないか、逆に多く流れすぎている場所はないか見ていく。
「そのまま指先を組んで、両手を合わせてください」
組み合わせた指先から魔力が伝わっていく。多少ぎこちないけれど問題になるほど滞っているわけでもない。
「今、どのような感覚がありますか?」
「よく、わかりません」
魔力を感じられないのか。困った。
振り返るとカイゼと目が合う。
手首を上げて、腕輪を見せる。
意図はすぐ伝わったけれど、渋い顔をされた。
後から付けられた遮断タイプの魔封じを指さしてカイゼを見つめる。
無言で葛藤しているカイゼをじっと見て訴える。魔封じ一つ外れたからといってこんなところで暴れるほど馬鹿じゃない。
「マリナ……?」
沈黙を不思議に思ったシェイヌ様がマリナの名を呼ぶと、カイゼが折れた。
「シェイヌ様、お手に触れますがよろしいですか?」
「ええ」
組んだ手を包むように上から触れる。
「あ……」
包んだ手から魔力を流すとシェイヌ様がぴくりと反応した。
「何か感じられましたか?」
「ええ。 何か……、温かいものを感じるわ」
シェイヌ様が目を瞑ったまま手に意識を集中する。
同時に魔力が手に集まってきた。
「これが魔力です」
「これが……」
戸惑うように呟かれた声からはわずかに恐れのようなものが感じられる。
「ええ、誰の身体にもある力です」
「誰にも?」
「はい。 魔法を使える使えないに関わらず、生きるものすべてが持っている力です」
ゆっくりとした言葉で語りかけるとシェイヌ様の身体から余計な力が抜けていく。
身体の中を巡る魔力を一定の速度で循環させる。
手を離すとシェイヌ様が目を開いた。
「どうしてかしら、先ほどよりも気分が良い気がするわ」
「シェイヌ様は少し魔力の流れが弱いようですので、意識的に魔力を流す訓練をされるとよろしいかと思います」
流れが弱いので時々魔力が溜まり、発熱を引き起こすのだろうと付け加えるとシェイヌ様の顔が明るくなった。
「子供の頃からの体質だからずっと付き合っていかないといけないと思っていたの。
こんな簡単に治してもらえるなんてすごいわ」
嬉しそうに笑うシェイヌ様にマリナも微笑み返す。
後ろでカイゼがやきもきしているのが伝わってくる。
早く魔封じを付け直したいけれど、シェイヌ様の会話を遮るわけにもいかないといった様子だ。
「では、私はこれで失礼いたします。
感覚は掴めたと思いますが、無理をせずお休みください」
魔力の流れを掴めたからといってすぐに体質が変わるわけではない。
発熱していたこともあるし、休んだ方がいいと伝える。
「本当にありがとう。 急なことで申し訳なかったわ」
「いいえ、お役に立てて良かったです」
当たり障りのない返事をして部屋を出る。
シェイヌ様の部屋から離れたところで足を止めた。
「どうした?」
カイゼが足を止めたマリナを不思議そうに見る。
「付け直すのでは?」
すぐにでも魔封じを付け直したいと思ってるのではないかと言うとカイゼが変な顔をした。
「自分から言うのかよ」
そりゃ魔封じを付けているのは嫌だけど、ごねても結果は変わらないし。
他人が見たときにマリナが魔封じを付けていないのはいらない不安を招く。
トラブルは避けるべし。
そう考えていたが、マリナの行動は少し遅かった。
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