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セレスタ 波乱の婚約式編
魔力操作 1
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目を覚ましたベッドの上で集中を始める。
鳥の声もしない時間、邪魔をする者は誰もいない。
身体の中を流れる魔力を動かし、次に魔力を外に流すイメージを繰り返し刻み付ける。
日本でも同じようなことをしてた。
自分の中にある魔力をスムーズに動かすというのは基本中の基本だ。
一定期間使わなかったからといって感覚を忘れることはないけれど、いざという時に失敗したくないのでここに連れて来られてから毎日欠かしていない。
訓練を終えてベッドから降りる。
元々夜更かしばかりしていたのに、マールアに来てからすることがないのですっかり早起きになった。
セレスタに戻ったら調子が狂いそうだ。
胸元の通信機を手に取る。朝日を受けて光る石は何の反応もしていない。
それを見て弱気が頭をもたげそうになる。
通信機から手を離し思考を止める。指輪を撫でると少しだけ落ち着いた。
着替えてぼうっとしているとユリノアスから朝食の誘いがあった。
衣装を整えてもらって指定された部屋へ向かう。
そこに現れた人を驚きを持って見つめた。
「ユースティス様」
第一王子ユースティスがユリノアスの隣で穏やかな笑みを顔に乗せている。
「朝からすまないな」
「いえ……」
ユリノアスの顔を見るけれど、彼もユースティスが来た理由は知らないらしく首を横に振られる。
「まずは食事にしよう。 マリナも座って」
ユリノアスが食事を先にと言うからには急ぎではないのだろうか。
戸惑いを顔に出してユースティスを見ると頷きが返された。
向こうが良いならマリナに文句はない。
席に着くと給仕がそれぞれの前に食事を運んできた。
庭園に行くことも控えている今は、食事くらいしか楽しみがない。
マールアの料理は朝はシンプルで味もあっさりしている。
昼と夜は香辛料を多く使った料理が出される。味付けが全然違うがどちらもおいしい。
煮込み料理より焼いた物や炒めた物が多いのが特徴的だ。あと魚がよく出てくる。
今日の朝食はパン(これもセレスタの物とは違うが)と野菜を蒸した物、あとフルーツが付いていた。
ユースティスがユリノアスやマリナに話を振ってくれるが、世間話の域を出ないものばかり。
やはり詳しい話は食後までするつもりがないようだ。
しかし並んで見ると二人はますますよく似ている。
年は離れているが、仲の良いごく普通の兄弟に見えた。
ユリノアスからはユースティスに対する信頼が透けて見えたし、ユースティスも慈しむような瞳でユリノアスと話をしている。
とはいえ普段は食事を一緒にすることはあまりないようで、ユリノアスはとても嬉しそうだった。
食べ終えて食後の珈琲を飲みながらユースティスが話しを始める。
「実は私の妻の一人が不調を訴えていてな、そなたの意見を聞かせてほしいのだ」
「私は医者ではないのですが」
師匠は医務官だが、マリナにそこまでの専門知識はない。
マールアの医者の方が当然知識と経験に溢れているはずだ。
「元々子供の頃から少し身体が弱いようでな、時折体調を崩す」
マリナの言葉に頷きながらもユースティスは話を続ける。
「軽い発熱くらいなので、これまで疲れが溜まりやすい体質なのだろうと言われてきた」
症状を聞いてユースティスの聞きたいことがおぼろげに見えてきた。
「知っての通り我が国は魔術知識に乏しい。 しかしセレスタの魔術師のそなたなら知っているだろう。
魔力が身体に及ぼす影響というものを」
「魔力が影響したものだとお考えなのですか?」
「妻の症状はいつも同じだ。 医者たちもそれに合わせて薬湯などを作っているが効果がない。
安静にしていれば二日程度で回復するが……」
ユースティスが言葉を切る。わずかに眉根を寄せた顔からは奥様を案じる気持ちが伝わってくる。
そんな兄をユリノアスも心配そうに見ていた。
「薬の種類を変えても効果がないのなら体質だけのせいではないと私は思っている。
だからそなたに診てもらいたいのだ」
「……わかりました」
正直魔法に関わることは話したくないのだが、診もしないで苦しませておく気にもなれない。
それに、ユースティスの話を聞いた限りなら問題にはならないだろう。
マリナが了承したことでユースティスがほっとした顔を見せる。
「そうか、感謝する。 では人払いが済んだら人を遣わすので、妻を頼む」
安堵の微笑みからは奥様を真摯に思っている様子が伝わってきた。
特別に大切な方なのか、複数いる奥様全てを平等に愛しているのか。
「はい、ではお待ちしております」
不躾に聞くことでもないのでマリナは余計なことを言わず頷いた。
鳥の声もしない時間、邪魔をする者は誰もいない。
身体の中を流れる魔力を動かし、次に魔力を外に流すイメージを繰り返し刻み付ける。
日本でも同じようなことをしてた。
自分の中にある魔力をスムーズに動かすというのは基本中の基本だ。
一定期間使わなかったからといって感覚を忘れることはないけれど、いざという時に失敗したくないのでここに連れて来られてから毎日欠かしていない。
訓練を終えてベッドから降りる。
元々夜更かしばかりしていたのに、マールアに来てからすることがないのですっかり早起きになった。
セレスタに戻ったら調子が狂いそうだ。
胸元の通信機を手に取る。朝日を受けて光る石は何の反応もしていない。
それを見て弱気が頭をもたげそうになる。
通信機から手を離し思考を止める。指輪を撫でると少しだけ落ち着いた。
着替えてぼうっとしているとユリノアスから朝食の誘いがあった。
衣装を整えてもらって指定された部屋へ向かう。
そこに現れた人を驚きを持って見つめた。
「ユースティス様」
第一王子ユースティスがユリノアスの隣で穏やかな笑みを顔に乗せている。
「朝からすまないな」
「いえ……」
ユリノアスの顔を見るけれど、彼もユースティスが来た理由は知らないらしく首を横に振られる。
「まずは食事にしよう。 マリナも座って」
ユリノアスが食事を先にと言うからには急ぎではないのだろうか。
戸惑いを顔に出してユースティスを見ると頷きが返された。
向こうが良いならマリナに文句はない。
席に着くと給仕がそれぞれの前に食事を運んできた。
庭園に行くことも控えている今は、食事くらいしか楽しみがない。
マールアの料理は朝はシンプルで味もあっさりしている。
昼と夜は香辛料を多く使った料理が出される。味付けが全然違うがどちらもおいしい。
煮込み料理より焼いた物や炒めた物が多いのが特徴的だ。あと魚がよく出てくる。
今日の朝食はパン(これもセレスタの物とは違うが)と野菜を蒸した物、あとフルーツが付いていた。
ユースティスがユリノアスやマリナに話を振ってくれるが、世間話の域を出ないものばかり。
やはり詳しい話は食後までするつもりがないようだ。
しかし並んで見ると二人はますますよく似ている。
年は離れているが、仲の良いごく普通の兄弟に見えた。
ユリノアスからはユースティスに対する信頼が透けて見えたし、ユースティスも慈しむような瞳でユリノアスと話をしている。
とはいえ普段は食事を一緒にすることはあまりないようで、ユリノアスはとても嬉しそうだった。
食べ終えて食後の珈琲を飲みながらユースティスが話しを始める。
「実は私の妻の一人が不調を訴えていてな、そなたの意見を聞かせてほしいのだ」
「私は医者ではないのですが」
師匠は医務官だが、マリナにそこまでの専門知識はない。
マールアの医者の方が当然知識と経験に溢れているはずだ。
「元々子供の頃から少し身体が弱いようでな、時折体調を崩す」
マリナの言葉に頷きながらもユースティスは話を続ける。
「軽い発熱くらいなので、これまで疲れが溜まりやすい体質なのだろうと言われてきた」
症状を聞いてユースティスの聞きたいことがおぼろげに見えてきた。
「知っての通り我が国は魔術知識に乏しい。 しかしセレスタの魔術師のそなたなら知っているだろう。
魔力が身体に及ぼす影響というものを」
「魔力が影響したものだとお考えなのですか?」
「妻の症状はいつも同じだ。 医者たちもそれに合わせて薬湯などを作っているが効果がない。
安静にしていれば二日程度で回復するが……」
ユースティスが言葉を切る。わずかに眉根を寄せた顔からは奥様を案じる気持ちが伝わってくる。
そんな兄をユリノアスも心配そうに見ていた。
「薬の種類を変えても効果がないのなら体質だけのせいではないと私は思っている。
だからそなたに診てもらいたいのだ」
「……わかりました」
正直魔法に関わることは話したくないのだが、診もしないで苦しませておく気にもなれない。
それに、ユースティスの話を聞いた限りなら問題にはならないだろう。
マリナが了承したことでユースティスがほっとした顔を見せる。
「そうか、感謝する。 では人払いが済んだら人を遣わすので、妻を頼む」
安堵の微笑みからは奥様を真摯に思っている様子が伝わってきた。
特別に大切な方なのか、複数いる奥様全てを平等に愛しているのか。
「はい、ではお待ちしております」
不躾に聞くことでもないのでマリナは余計なことを言わず頷いた。
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