双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 波乱の婚約式編

帰るために必要なこと

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 ユースティスが去って行った方向を見て思案を巡らせる。
 マールアの王宮は広すぎて普段過ごしているのがどの辺りなのかも想像がつかない。
 ユースティスが戻って行った方向が中心部なのかもしれないが、わざわざ迂回している可能性もある。
「楽しそうなところ悪いがそろそろ戻らないか?」
 思考を遮るようにカイゼから声が掛けられた。
「?」
 頭に疑問符が浮かんだ。今までそんなこと言ったことがないのに。
「わかったわ。 戻る道はこっちでいいの?」
 カイゼを見て確認すると頷きが返される。
 部屋から庭園に来るときも時々道が違うことがあった。
 道を覚えさせないためか、後は厄介事がある道を避けているんだろうと思っている。
 カイゼはマリナの監視役であり護衛だ、護衛が移動を進めたり道を変えたりするのは何かがある時だ。
 事実、これまでカイゼの道案内にしたがって廊下を曲がったときなどは、視界の端に女性物の衣装が見えたりしていた。
 そのまま進んでいたら道の先にいた方々に絡まれたことは想像がつく。
 今回も何らかの異変を見つけたからの言葉だと思うので大人しく従う。
 揉め事に首を突っ込みたい性分なら反対の行動を取るんだろうけど。
 そこまで物好きじゃないし、それを止める側の人間だったので自分から揉め事に近づいていく人間の心理はよくわからない。
 王子は護衛の言葉を無視して無茶をするタイプじゃないけれど、トラブル好きで好奇心旺盛な主を持った人は大変だろう。
 幸いマリナの知り合いにそういう人はいない。
 好奇心旺盛で問題製造機トラブルメーカーな部下を持った人なら知っているけど。
 状況が状況だけに通信機のことはメルヒオールにばれただろうな。
 嬉々として通信機を弄り回す姿が簡単に想像できる。
 ジグ様も止めるに止められないだろうし。
 セレスタの面々を思い出して溜め息が出そうになる。
 まだ、焦るほど時間が経ったわけじゃない。
 言い聞かせてもふとした瞬間に浮かんできてしまう。
 持て余すほど時間があるのがいけない。
 身体を動かしたり、集中できる作業でもあれば別だけれど、与えられた部屋にはそういった物は特になかった。
 時々ユリノアスが弾いている楽器はあるけど、マリナは楽器なんて弾けない。
 気晴らしに触ってみることも考えたけれどユリノアスが喜びそうなので止めた。
 セレスタから離れてどのくらいになったのか。
 マールアで目を覚ましてから十日以上は経っている。意識を失っていた間を含めたらどれだけになったんだろう。
 浮かべてはいけない言葉を口にしてしまいそうになる。
 思考にすら浮かべないでいる言葉。
 口元を自嘲に歪め、思考を切り替える。
 自ら作ったものでなければ、隙を見せるのは何の利にもならない。
 浮かべるのは自信に満ちた笑み。
 攫われた身を悲観し嘆き悲しむ少女だったなら絶対に見せないだろう笑みは自分を守る鎧。
 マリナにできるのは信じて待つこと。
 それは、セレスタの双翼として帰るための必須事項だ。
 腕の魔封じを揺らしながら笑う。
 感傷的になっている場合じゃない。
 第一王子までマリナを見に来たくらいだ、マリナのことはそれなりに広まっているのだろう。
 ラムゼスでなくてもマリナの能力に興味がある者はいるだろう。ユリノアスがどこまで止められるか。
 ユリノアスの国内での評価は知らないが、ユースティスの言葉を聞いた限りではそこまで高いようには思えない。
 護衛カイゼでは対処できない人間が来る可能性も考えてしばらくは部屋で大人しくしていようと考えた。
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