247 / 368
セレスタ 波乱の婚約式編
奪還の準備
しおりを挟む
王宮の一室。王子の執務室とは違う部屋でヴォルフとメルヒオールは顔を突き合わせていた。
「参加する魔術師は6人、結構な人数でしょ」
メルヒオールが持って来た名簿を見てヴォルフも肯きを返す。
事前に魔術師長ジグムントやメルヒオール、フィルといった中心人物が事情を把握しているおかげか魔術師たちの選定はすぐに済んだ。
マールアに向かうと言われて怯んだ魔術師は意外に少なく、候補に考えていた人間が名乗りを上げたことから願った通りの人選ができたと笑う。
「流石にフィルは連れて来れないけどさ、十分な戦力だと思うよ?
これだけの人数を他国に派遣するのはそうはないことだからね」
「そうだな。 正直魔術師たちがそこまで声を上げてくれるとは思わなかった」
メルヒオールの言う通り、結構な人数に上る。
マールアに攫われたマリナの救出に臨む魔術師たちの士気は高い。
体力が無く長旅ができない者などは残留組にならざるを得ないが、その分救出に向かう仲間に手土産を託していると聞く。
門外漢なので詳しくは知らない。聞かない方がいいと勘が言っている。
「まあ、魔術師は大体が外に出たがらないものだからね」
マリナみたいに王子にくっついてどこにでも行くのが変わってるんだとメルヒオールが言う。
「お前は来るんだろう?」
「……そりゃあね。 実戦で魔術を使える貴重な機会だし、マリナには聞きたいこともあるし。
何より通信機を使うっていうのに行かないでどうするの!
せっかくこんな魔道具があるのに効果を試せないなんてもったいなくて仕方ない!」
手にした通信機を握りしめてメルヒオールが叫ぶ。
救出任務に当たってヴォルフの通信機はメルヒオールが持つことになった。
使えないヴォルフが持っていても意味がないのでそれに異論はないのだが……。
興奮した目で魔道具を眺めるメルヒオールを見ていると不安が湧いてくる。
(ちゃんと返してくれるよな……?)
マリナが嫌がっていたのも少し理解できた。
「それで、そっちの方は?」
騎士団の人選は魔術師ほど順調ではない。
王子の側に残る方との調整もあるので、そちらが難航している。
「王子は自分の側に残るのは最低限でいいと言ってくれているがな、そういうわけにもいかないだろう」
「そりゃそうだろうね。 アンタが側を離れるなら尚更」
尤もだとメルヒオールが頷く。
「行くんでしょう?」
「当然だ」
メルヒオールの問いに力を込めて答える。
「マリナを連れ帰るのは俺の役目だ」
日本に残ると決めてヴォルフだけをセレスタに帰した時も、マリナを迎えに行ったのはヴォルフだ。
今度も自分で動く。待ってなどいられない。
あの時よりも強い焦燥で胸が焼けそうだ。
抑えていてもなお溢れそうなヴォルフの感情を読み取ってかメルヒオールが「こわ……」と呟く。
怖がってみせる態度がどこまで本音かわからないが自分が冷静でないのは事実だ。
無表情を装った中では行き場のない感情が暴れていた。
「参加する魔術師は6人、結構な人数でしょ」
メルヒオールが持って来た名簿を見てヴォルフも肯きを返す。
事前に魔術師長ジグムントやメルヒオール、フィルといった中心人物が事情を把握しているおかげか魔術師たちの選定はすぐに済んだ。
マールアに向かうと言われて怯んだ魔術師は意外に少なく、候補に考えていた人間が名乗りを上げたことから願った通りの人選ができたと笑う。
「流石にフィルは連れて来れないけどさ、十分な戦力だと思うよ?
これだけの人数を他国に派遣するのはそうはないことだからね」
「そうだな。 正直魔術師たちがそこまで声を上げてくれるとは思わなかった」
メルヒオールの言う通り、結構な人数に上る。
マールアに攫われたマリナの救出に臨む魔術師たちの士気は高い。
体力が無く長旅ができない者などは残留組にならざるを得ないが、その分救出に向かう仲間に手土産を託していると聞く。
門外漢なので詳しくは知らない。聞かない方がいいと勘が言っている。
「まあ、魔術師は大体が外に出たがらないものだからね」
マリナみたいに王子にくっついてどこにでも行くのが変わってるんだとメルヒオールが言う。
「お前は来るんだろう?」
「……そりゃあね。 実戦で魔術を使える貴重な機会だし、マリナには聞きたいこともあるし。
何より通信機を使うっていうのに行かないでどうするの!
せっかくこんな魔道具があるのに効果を試せないなんてもったいなくて仕方ない!」
手にした通信機を握りしめてメルヒオールが叫ぶ。
救出任務に当たってヴォルフの通信機はメルヒオールが持つことになった。
使えないヴォルフが持っていても意味がないのでそれに異論はないのだが……。
興奮した目で魔道具を眺めるメルヒオールを見ていると不安が湧いてくる。
(ちゃんと返してくれるよな……?)
マリナが嫌がっていたのも少し理解できた。
「それで、そっちの方は?」
騎士団の人選は魔術師ほど順調ではない。
王子の側に残る方との調整もあるので、そちらが難航している。
「王子は自分の側に残るのは最低限でいいと言ってくれているがな、そういうわけにもいかないだろう」
「そりゃそうだろうね。 アンタが側を離れるなら尚更」
尤もだとメルヒオールが頷く。
「行くんでしょう?」
「当然だ」
メルヒオールの問いに力を込めて答える。
「マリナを連れ帰るのは俺の役目だ」
日本に残ると決めてヴォルフだけをセレスタに帰した時も、マリナを迎えに行ったのはヴォルフだ。
今度も自分で動く。待ってなどいられない。
あの時よりも強い焦燥で胸が焼けそうだ。
抑えていてもなお溢れそうなヴォルフの感情を読み取ってかメルヒオールが「こわ……」と呟く。
怖がってみせる態度がどこまで本音かわからないが自分が冷静でないのは事実だ。
無表情を装った中では行き場のない感情が暴れていた。
0
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる