双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 波乱の婚約式編

奪還の準備

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 王宮の一室。王子の執務室とは違う部屋でヴォルフとメルヒオールは顔を突き合わせていた。
「参加する魔術師は6人、結構な人数でしょ」
 メルヒオールが持って来た名簿を見てヴォルフも肯きを返す。
 事前に魔術師長ジグムントやメルヒオール、フィルといった中心人物が事情を把握しているおかげか魔術師たちの選定はすぐに済んだ。
 マールアに向かうと言われて怯んだ魔術師は意外に少なく、候補に考えていた人間が名乗りを上げたことから願った通りの人選ができたと笑う。
「流石にフィルは連れて来れないけどさ、十分な戦力だと思うよ?
 これだけの人数を他国に派遣するのはそうはないことだからね」
「そうだな。 正直魔術師たちがそこまで声を上げてくれるとは思わなかった」
 メルヒオールの言う通り、結構な人数に上る。
 マールアに攫われたマリナの救出に臨む魔術師たちの士気は高い。
 体力が無く長旅ができない者などは残留組にならざるを得ないが、その分救出に向かう仲間に手土産を託していると聞く。
 門外漢なので詳しくは知らない。聞かない方がいいと勘が言っている。
「まあ、魔術師は大体が外に出たがらないものだからね」
 マリナみたいに王子にくっついてどこにでも行くのが変わってるんだとメルヒオールが言う。
「お前は来るんだろう?」
「……そりゃあね。 実戦で魔術を使える貴重な機会だし、マリナには聞きたいこともあるし。
 何より通信機を使うっていうのに行かないでどうするの!
 せっかくこんな魔道具があるのに効果を試せないなんてもったいなくて仕方ない!」
 手にした通信機を握りしめてメルヒオールが叫ぶ。
 救出任務に当たってヴォルフの通信機はメルヒオールが持つことになった。
 使えないヴォルフが持っていても意味がないのでそれに異論はないのだが……。
 興奮した目で魔道具を眺めるメルヒオールを見ていると不安が湧いてくる。
(ちゃんと返してくれるよな……?)
 マリナが嫌がっていたのも少し理解できた。
「それで、そっちの方は?」
 騎士団の人選は魔術師ほど順調ではない。
 王子の側に残る方との調整もあるので、そちらが難航している。
「王子は自分の側に残るのは最低限でいいと言ってくれているがな、そういうわけにもいかないだろう」
「そりゃそうだろうね。 アンタが側を離れるなら尚更」
 尤もだとメルヒオールが頷く。
「行くんでしょう?」
「当然だ」
 メルヒオールの問いに力を込めて答える。
「マリナを連れ帰るのは俺の役目だ」
 日本に残ると決めてヴォルフだけをセレスタに帰した時も、マリナを迎えに行ったのはヴォルフだ。
 今度も自分で動く。待ってなどいられない。
 あの時よりも強い焦燥で胸が焼けそうだ。
 抑えていてもなお溢れそうなヴォルフの感情を読み取ってかメルヒオールが「こわ……」と呟く。
 怖がってみせる態度がどこまで本音かわからないが自分が冷静でないのは事実だ。
 無表情を装った中では行き場のない感情が暴れていた。
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