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セレスタ 波乱の婚約式編

目覚めたらそこは

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 目を覚ましたらまたも見覚えのない場所にいた。
 マリナが寝かされていた、大人3人が眠れそうな無駄に広い寝台には驚くほど肌触りの良い布が掛けられている。
 大きな窓から入る光に照らされた調度品はとても高そうだ。
 豪奢な室内からここがどこかは聞かずとも知れた。
『静かにしていてもらうよ』
 その言葉通り、マールアまで眠らされていたらしい。
 おまけに魔封じが増えていた。
 見た感じこっちは魔力を遮断するタイプか。
 効果の違う魔封じをあえて付けた思惑に歯噛みする。
(今度は何日寝ていたんだか……)
 飲まされた薬の効果が感じられない。
 だるさも気持ち悪さもないので薬はすっかり抜けたんだろう。
 立ち上がっても不調を感じることはない。
 しっかりと床を踏みしめられる。
 と、そこで着替えさせられていることに気づく。
 焦り首元に手をやると慣れ親しんだ鎖の感触が手に触れる。
(良かった……、盗られてない)
 通信機があることを確かめてほっと息を吐く。
(良かったけどなぜあるんだろう?)
 マリナなら真っ先に取り上げる魔道具なんだけど。
(魔道具だと気付かなかった……。 いくらなんでもそれはないわよね……)
 でも魔術師の数が少ないならありえなくはないのかもしれない。
 魔術師を攫ってくると最初から計画していたことは流石にないだろうから、人材が確保できなかったんだろうと結論付けた。
 通信機はマリナのオリジナルなので素人にはわからないだろうし。
 そこまで考えて首を傾げる。
 本当に気づいていなかったんだろうか。
 わからなくても持ち物すべてを確認するものじゃないかと思う。
 マリナが魔術師だというのは知っているわけだし、一見そうとは見えなくても魔道具の可能性があると考えた方が自然だ。
 わからなくて頭がぐるぐるする。
 ベッドに座り込んで額に手を当て考え込むマリナの耳に扉を開ける音が聞こえた。
「ああ、起きたのか。 随分よく寝てたな」
 扉を開けて入ってきたのはカイゼだった。
 顔が見えた瞬間怒りが蘇り、近くにあった枕を投げつける。
「おっと。 元気そうだな」
 片手であっさりと枕を受け止めて、ベッドの側まで歩いてくる。
 悪びれもせず笑う姿に更に怒りが湧く。
「怒る元気があるなら食事もとれるだろ」
 そう言って差し出した器には果物が乗っている。
 片手に食器を持っていながらマリナが投げた枕を受け止める業に悔しさを感じる。どうやってもカイゼに敵う気がしない。
 悔しさを感じながらも差し出された器を受け取る。
 小さくカットされた果物は瑞々しくおいしそうだ。乾いた喉が求めるようにこくりと鳴った。
 果物を口に運ぶとカイゼが驚いたように目を瞬いた。
 口に広がる甘酸っぱさに気を取られながらもマリナの目はカイゼの驚きを捉える。
「どうかしましたか」
 自分が驚いていたことを確かめるようにもう一度瞬きを繰り返し、カイゼが答えを返す。
「何か入ってるとか考えないの?」
 薬を盛られた後なのにさ、と言う声にも驚きが含まれている。
「私を殺すつもりでしたか?」
 何日も眠らされたあとでさらに薬など盛られたら命が危ない。
 ただでさえ食事も水も摂っていないのに。
「まさか、そんなわけないだろう」
 カイゼが即座に否定する。
「そうでしょう? でしたら警戒する必要もないですよね」
 わざわざセレスタから攫ってきてすぐに害されることもないと思う。
 ユリノアスの馬鹿げた言葉を除いてもマリナには価値がある。
 寧ろそちらの方がマールアには魅力的だろう。
 度々セレスタに潜入してまで欲している力、それをマリナは持っている。
 果物を持って来たのがカイゼ以外なら警戒したかもしれないけれど、ユリノアスから直々に護衛兼世話役と紹介されたカイゼならマリナを害せない。少なくとも今は。
 思考は言葉にせず、カイゼを見つめる。
 言われずとも察しないといけない間諜らしく、マリナの言外の意味を理解して頷く。
「まったく。 本当に16か?
 度胸といい判断力といい、部下にほしいくらいだ」
 冗談にしても止めてほしい。
 無視して果物を口に運ぶ。
 見たことのない果物もあったけれど、とてもおいしかった。
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