双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 波乱の婚約式編

救う覚悟

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 手紙に浮かんだ文字を読んで深く息を吐く。
「やはりか……」
 まさかと口にした自分の甘さに腹が立つ
 憤りを吐き出すようにゆっくりと胸の中の空気を吐き出した。
 予想通りと言えば予想通り。
 マリナがいなくなった原因はマールアだった。
「この手紙のことを誰かに話したかい?」
 ミリアムにマリナが攫われたことを話したかと問う。
「夫には最初の手紙しか見せていません。
 手紙の仕掛けに気が付いたときは私一人だけでしたし、ここには友人に会いに行くと言ってきましたの」
「そうか……」
 誰にも言っていないとの答えにわずかに胸が軽くなる。
 双翼が攫われたというのはセレスタにとってかなりの醜聞だ。
 この事件は難しい立場のマリナを更に困難に導くかもしれない。
 ヴォルフと婚約し、後ろ盾を得たマリナを疎む者には千載一遇の機会。
 マリナを攻撃する材料を得て危機として王宮に乗り込んで来るだろう。
 彼女と夫君を信じていないわけではないが、国が変われば立場も変わる。
 黙って来たということは彼女もそのあたりはわかっているのだろう。
「手紙を受け取ったのはいつ頃のことだろうか」
「3日前ですわ。 それからすぐセレスタへ向かいました」
 余程急いだのだろう、セレスタに隣接する街でもなければもっと時間がかかるはずだ。
 彼女が急いで知らせてくれたことに謝意を述べる。
「よく知らせてくれた、感謝する」
「もったいないお言葉です」
 彼女にとってもマリナは大切な友人だという。
 その友人が危機にあって急ぎ知らせるのは当然だと微笑む。
「直接お渡しできて良かったですわ。
 マリナ様の無事を願うしかない私には、これしかできないものですから」
 木の実色の目が複雑に輝く。
 瞳に宿るのは強い願いと微かな不安。
 不安の理由も今の私には理解できた。
 縋る言葉を飲み込んでミリアムが辞去の挨拶をする。
「では、私はこれで失礼いたします」
 最後にじっと私の目を見つめてミリアムは部屋を出て行った。
「これでマールアの関与がはっきりとしたな」
 黙って控えていたヴォルフに声を掛ける。
 見上げたヴォルフの瞳には恐ろしいほどの激情が見えた。
「王子、俺をマールアに派遣してください」
 言うと思った。今すぐにでも飛び出して行きたいだろう、そう思っても首を振って止める。
「君を向かわせるのは決定しているがすぐには行かせられない。
 まずは父や外務卿たちに話を通さないとな。
 それからジグムントたちにもマリナの手紙を見せて同行者を募ってくれ」
 マールアに行かせるのに騎士たちだけで向かわせられない。
 おそらく、マリナは何らかの事情で魔術が使えない状態になっていると考えられる。
 魔術が使えるならすでに逃げているだろう。
 わざわざミリアムに手紙を託す必要などない。
 魔術を封じられているのか、それとも身体に不調を抱えているのか。
 何もわからない。
「マールアがマリナを攫ったのは確定だ」
 マリナが望んで付いて行ったなどとは、私を含め近しい者は誰も思っていない。
「はい」
 セレスタ国内どころか王宮内で起こったであろう事件に黙ってはいられない。しかし……。
「マリナを連れ帰るということはマールアと事を構えるということだ。
 その後の処理も含めて事前に話をしておく必要がある」
 理由を解くとヴォルフも焦りを抑えて頷く。
「承知しました。 では、魔術師長に手紙を見せマールアに向かう魔術師の選定をお願いしてきます」
「ああ、頼んだ」
 退出するヴォルフと入れ替わりにジークヴァルトが部屋に入ってくる。
 父と話をすると伝えるとジークヴァルトが黙って肯く。
 事前に手紙を見ているジークヴァルトも次に必要なことは理解している。
 父の元に向かうと言った瞬間、無表情を保ちながらも安堵の浮かんだ目をした。
 マリナは必ず助ける。
 切り捨てるような真似など、させはしない。
 可能性の一つを念頭に置きながらも自らの心に誓う。
 絶対に父たちを説得し、マリナを救うと。
 ジークヴァルトを従えながら足早に父の執務室に向かった。
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