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セレスタ 波乱の婚約式編
桜を求めて 5
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言葉も無くただ桜を見つめる。
マリナがどうしてそこまで桜にこだわるのかと思っていたが、実際に目にした光景は圧巻だった。
並んだ桜の樹から落ちる花びらは淡く、それほど印象に残る色でもないように思える。
しかし光を受けて一面に映える桜の花はこれまでに見たどの花よりも美しく、鮮烈な印象を残した。
「すごいな……」
「本当ね……」
ヴォルフの感嘆に答えるマリナの声にも率直な感動が混じっている。
マリナの視線が夢の中を泳ぐように桜を追う。
桜は魔力が多い。
そう言っていたマリナの言葉を思い出し、ぼうっと桜を見つめるマリナを抱き寄せた。
「……? ……どうしたの?」
魔力に浸っていたのか反応の鈍いマリナがヴォルフの顔を見上げる。
魔術や魔力のことはヴォルフにはよくわからない。
そのまま桜の魔力に酔ってどこかに行ってしまうんではないかと思ったなんて、馬鹿なことは言えなかった。
「いや? あんまり綺麗で言葉が出てこないな」
「そうね。 感動しすぎると何も言えないものね」
自分を引き寄せるヴォルフの腕に手を重ね、マリナが答える。
そのまま二人で桜を見上げているとマリナがうれしそうに笑う。
体重を預けるマリナはちらりとヴォルフを見て、桜に視線を戻す。
「斎藤さんに感謝しなくちゃね、いい場所を教えてもらったわ」
「結構遠くまで来たけどな」
電車を乗り継いで行くほど遠いとは思わなかった。
「そうね、それも楽しかったけどね」
一度ヴォルフと電車に乗ってみたかったの、と笑うマリナが空を仰ぐ。
広がる空の青はセレスタのものよりも鮮やかで、その下に広がる桜の色がよく映えた。
「ヴォルフと一緒に見られて良かった」
可愛らしい物言いに笑みが浮かぶ。
さらりとした言葉で自分を喜ばせる。
マリナはよく自分ばかりが動揺させられているようなことを言うが、そんなことはない。
何気ない動作や言葉に心が跳ねるのはヴォルフも同じこと。
マリナの無意識の言動に動揺させられているのは寧ろヴォルフの方な気がする。
だからマリナにも同じだけ心を乱してほしい。
「……っ、ちょっと、くすぐったい」
首筋を撫でながら頬にくちづける。
くすぐったいと身を捩るマリナの手を取り、瞳を覗き込む。
何を欲しているのか悟ったマリナが顔を朱に染めていく。
「こんなところで……」
「誰も来ない」
人の来ない隠れた桜の名所だと言っていた。
反論されてマリナの目が泳ぐ。
何を考えているのか、手に取るようにわかった。
だから、逃げ道を塞ぐように言葉で願う。
「触れたい……。 嫌か?」
真っ直ぐに伝えると唇を震わせ、一瞬だけ視線を逸らす。
ずるい……、と小さく囁いた声は酷く甘く聞こえた。
いつもよりも深くくちづける。
触れ合った感触にマリナがびくりと肩を揺らす。
薄らと色づいた頬がさらに赤みを増していく。
口内に感じるマリナの吐息に、少しだけ乱暴な気持ちが湧き上がってくる。
もっと欲しいと思うのは当然の本能だが、それを押し付けるつもりはない。
どうやって欲望を逃がそうかと思っているとマリナの目がぱちっと開いた。
視線が交わりマリナの瞳が潤む。
じいっと瞳を見つめながらくちづけを続けると面白いくらいマリナの動揺が伝わってくる。
ヴォルフの口元が上がったのに気付いたのか瞳の色が羞恥から怒りに変わっていく。
「ちょっと、なんで笑ってるのよ!」
ぐい、とヴォルフの身体を押しのけ怒り出すマリナに毒気が飛んだ。
「お前がかわいいから」
からかう意図はなかったのにマリナは顔を真っ赤にして黙った。
抱き上げて視線を合わせる。この体勢が嫌いじゃないのはこれまでの経験でわかっている。
まだ熱の上っている頬にくちづけるとびくっと震えた。
「嫌だったか……?」
怖がらせるのは本意ではない。
吐息を触れ合わせるような口づけはまだ早かったかとわずかな後悔が胸に寄せる。
「……。
こんな外では、いや……」
視線を逸らして本音を吐露するマリナに笑みを零す。
わかってないな。外でなければ自身が危険だということに。
正直に口にしたらしばらく抱きしめさせてくれないだろうからヴォルフは口を噤む。
「わかった。 もう外ではしない」
だからこれだけ、と触れるだけのくちづけを落とす。
ほっとしたように力を抜くマリナに湧き上がった悪戯心は心の中に押し隠した。
マリナがどうしてそこまで桜にこだわるのかと思っていたが、実際に目にした光景は圧巻だった。
並んだ桜の樹から落ちる花びらは淡く、それほど印象に残る色でもないように思える。
しかし光を受けて一面に映える桜の花はこれまでに見たどの花よりも美しく、鮮烈な印象を残した。
「すごいな……」
「本当ね……」
ヴォルフの感嘆に答えるマリナの声にも率直な感動が混じっている。
マリナの視線が夢の中を泳ぐように桜を追う。
桜は魔力が多い。
そう言っていたマリナの言葉を思い出し、ぼうっと桜を見つめるマリナを抱き寄せた。
「……? ……どうしたの?」
魔力に浸っていたのか反応の鈍いマリナがヴォルフの顔を見上げる。
魔術や魔力のことはヴォルフにはよくわからない。
そのまま桜の魔力に酔ってどこかに行ってしまうんではないかと思ったなんて、馬鹿なことは言えなかった。
「いや? あんまり綺麗で言葉が出てこないな」
「そうね。 感動しすぎると何も言えないものね」
自分を引き寄せるヴォルフの腕に手を重ね、マリナが答える。
そのまま二人で桜を見上げているとマリナがうれしそうに笑う。
体重を預けるマリナはちらりとヴォルフを見て、桜に視線を戻す。
「斎藤さんに感謝しなくちゃね、いい場所を教えてもらったわ」
「結構遠くまで来たけどな」
電車を乗り継いで行くほど遠いとは思わなかった。
「そうね、それも楽しかったけどね」
一度ヴォルフと電車に乗ってみたかったの、と笑うマリナが空を仰ぐ。
広がる空の青はセレスタのものよりも鮮やかで、その下に広がる桜の色がよく映えた。
「ヴォルフと一緒に見られて良かった」
可愛らしい物言いに笑みが浮かぶ。
さらりとした言葉で自分を喜ばせる。
マリナはよく自分ばかりが動揺させられているようなことを言うが、そんなことはない。
何気ない動作や言葉に心が跳ねるのはヴォルフも同じこと。
マリナの無意識の言動に動揺させられているのは寧ろヴォルフの方な気がする。
だからマリナにも同じだけ心を乱してほしい。
「……っ、ちょっと、くすぐったい」
首筋を撫でながら頬にくちづける。
くすぐったいと身を捩るマリナの手を取り、瞳を覗き込む。
何を欲しているのか悟ったマリナが顔を朱に染めていく。
「こんなところで……」
「誰も来ない」
人の来ない隠れた桜の名所だと言っていた。
反論されてマリナの目が泳ぐ。
何を考えているのか、手に取るようにわかった。
だから、逃げ道を塞ぐように言葉で願う。
「触れたい……。 嫌か?」
真っ直ぐに伝えると唇を震わせ、一瞬だけ視線を逸らす。
ずるい……、と小さく囁いた声は酷く甘く聞こえた。
いつもよりも深くくちづける。
触れ合った感触にマリナがびくりと肩を揺らす。
薄らと色づいた頬がさらに赤みを増していく。
口内に感じるマリナの吐息に、少しだけ乱暴な気持ちが湧き上がってくる。
もっと欲しいと思うのは当然の本能だが、それを押し付けるつもりはない。
どうやって欲望を逃がそうかと思っているとマリナの目がぱちっと開いた。
視線が交わりマリナの瞳が潤む。
じいっと瞳を見つめながらくちづけを続けると面白いくらいマリナの動揺が伝わってくる。
ヴォルフの口元が上がったのに気付いたのか瞳の色が羞恥から怒りに変わっていく。
「ちょっと、なんで笑ってるのよ!」
ぐい、とヴォルフの身体を押しのけ怒り出すマリナに毒気が飛んだ。
「お前がかわいいから」
からかう意図はなかったのにマリナは顔を真っ赤にして黙った。
抱き上げて視線を合わせる。この体勢が嫌いじゃないのはこれまでの経験でわかっている。
まだ熱の上っている頬にくちづけるとびくっと震えた。
「嫌だったか……?」
怖がらせるのは本意ではない。
吐息を触れ合わせるような口づけはまだ早かったかとわずかな後悔が胸に寄せる。
「……。
こんな外では、いや……」
視線を逸らして本音を吐露するマリナに笑みを零す。
わかってないな。外でなければ自身が危険だということに。
正直に口にしたらしばらく抱きしめさせてくれないだろうからヴォルフは口を噤む。
「わかった。 もう外ではしない」
だからこれだけ、と触れるだけのくちづけを落とす。
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