双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 波乱の婚約式編

桜を求めて 2

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 マリナはリオ様の住んでいる家を知らないので、自分が住んでいた家の辺りを歩く。
 運が良ければ会えると思っていたら、アパートに続く角を曲がったところでいきなり会えた。
「リオ様!」
 また髪の色を変えたのか深い蒼色をした髪を高い位置で結い、髪飾りを挿している。
「あら、久しぶり」
 全く驚いた様子がなく再会の挨拶を述べる。
 マリナたちが来たことに気が付いていた、そんなわけないよね。
 リオ様の視線がヴォルフに向く。
「仲良くやってるみたいねぇ、良かったこと」
 なんだかんだでヴォルフと一緒に帰ることを決めた後は、ばたばたしてリオ様にちゃんと挨拶も出来なかった。
 仰々しい挨拶なんて御免よ、とリオ様が言っていたのもあるけれど。
 セレスタに帰ることと感謝の一言しか伝えていない。
 戻ってからは連絡をすることもできなかった。
 手紙が届く場所ではないから。
「おかげさまで。 師匠も元気にしてますよ」
「そうみたいね。
 元気なのはいいけれど、仕事ばっかりで食事もちゃんと取ってないんじゃない」
 言い当てられてそっと視線を外す。
 お互いのことがわかる二人に誤魔化しは通じなかった。
「それにしても今回はどうしたの?」
 リオ様の疑問も当然だ。
 日本とセレスタは距離では測れないほどの隔たりがある。
「桜が見てみたくて……。
 日本にいたのは桜が終わった時期だったのでテレビや写真でしか見られなかったんです」
 思い立って来てしまった。
 意外そうにリオ様が目を瞬く。
「それでわざわざ日本に? すごい行動力ね」
「こっちにいた時から一度見てみたいと思っていたんです」
「ふぅん、でも残念ながらこの辺りはまだ桜が咲くには早いわね」
 リオ様の言葉を聞いてやっぱりと頭で思う。
 道中の樹もまだつぼみが固かったのでそうかと思ったんだ。
「今年の桜はどこから開花してたかしら」
 南や西に行けば開花している地域もあるそう。
 詳しくは知らないそうなのでまた他の人に聞いてみよう。
 他の人にも挨拶をしたら咲いている場所を探しに行ってみると言うと「元気ねぇ」と呆れられた。
 歩いて行くわけじゃないのでその言い様はちょっと不満だ。
 ……でも、当て所もなく探し求めに行くというのは、そう言われても仕方ないのかもしれない。
 時間になったのでリオ様と別れて喫茶店に行くと、店にはマスターだけだった。
 美菜さんはまだバイトの時間じゃないし、麻子さんは今日は休みだと言う。
 残念に思いながらも入れてもらったカフェモカを口にする。
 コーヒーは苦手だけれど、マスターが入れてくれたこれはおいしい。
「美菜ちゃんに聞いたときは驚いたけど、実際に見て安心したよ。
 いきなり結婚するって聞いたから驚いたんだ」
 ははっと笑うマスターに苦笑を返す。
 まだ先ですって言っといたのに、美菜さんったら。
「麻子ちゃんも心配してたからなあ、会えたら良かったんだけど」
「残念です、連絡しないで来てしまいましたからね」
「まあゆっくりしておいで、お昼までは人が少ないからね。
 そっちのお兄さんも遠慮しないで」
「ああ、ありがたい」
 マスターの入れたコーヒーを味わっていたヴォルフがマスターの言葉を受けて笑みを返す。
 久々に美味しいコーヒーを飲んだからか嬉しそうな顔をしている。
 王子の執務室や自室ではお茶ばかりだからね。
「いやあ、しかし二人並ぶとどこかの雑誌みたいだねえ。
 何かウチの店じゃないみたいだよ」
 マスターが不思議なことを言う。
 日本っぽくないっていう意味かな?
 マリナもヴォルフもそこまで日本で浮く色彩は纏っていないはずだけれど。
 ヴォルフは黒髪黒目だしマリナも髪色は茶色だ。
 よく見る色よね?
「何かおかしかったですか?」
 服もこちらに合わせた物を着ているのでおかしなところは無いはず、多分。
「いやいや、二人とも美男美女で目立つからねえ」
 ヴォルフを見上げる。
 精悍で整った顔をしてはいる。目つきが鋭いので少し近寄り難いかもしれないが。
「マスター、それは言い過ぎですよ」
 醜いと思ったことはないけれど、美女とは絶対に言われない。
「マリナちゃんは成長したら美人さんになるってわかるような美少女だよ」
 自分じゃわからないかな?と言われるけれど、成長期はもう止まっているんです。
 アデーレ様みたいなかっこいい大人の女性になりたいと思っていた時もありましたけど。
 ……人間諦めも肝心だった。
「お兄さんも鍛えた身体してるし、何かスポーツやってたの?」
「運動は昔から欠かさずするようにしている」
「へえ! すごいねえ。
 僕なんかウォーキングしても三日坊主になっちゃうよ」
 マスターとヴォルフが和やかに言葉を交わしている横でマリナはのんびりとカフェオレを飲む。
 ゆったりした時間は、とても心地よかった。
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