双翼の魔女は異世界で…！？

セレスタ 波乱の婚約式編

一番寒い季節

　セレスタで一番寒い季節。
　今日は晴れていたけれど、身を切るような寒さだった。
　暖かいお茶を飲みながら魔法陣の構成を考える。
　今を乗り切れば暖かい春はすぐそこだ。
　ジグ様やメルヒオール、フィルさんとも相談した結果、王都と隣接した街までを範囲とすることに決まった。
　円形に魔法を広げるので隣接していない地域も一部含まれるけれど、それはそれで喜んでもらえるだろう。
　最初は小規模な魔法で目を楽しませ、最後に度肝を抜くような大規模魔術を見せつける。
　王宮魔術師たちで協力して放つ魔法は効果、範囲ともに驚異的だろう。
　王都を覆い、その外にまで影響を与える魔法に瞠目する姿が今から楽しみだ。
「あまり根を詰めるなよ」
　すらすら走っていたペンが止まったのを見てヴォルフが声を掛けてくる。
「んー、まだ大丈夫」
　次どう描けばいいのかわかっているうちは手を止めたくない。
　考えるようになったら休憩時だと思っている。
「まったく」
　呆れた声をさせながらもそれ以上は言わないで少し離れたところに腰を下ろす。
　マリナの気を散らさないように離れたところに座ってくれたんだろう。
　気遣いに感謝してまたペンを滑らせる。
　このままいけば今日は夜更かしをせずに済みそうだ。
　予定していた分を全て描き終えてペンを置く。
　描き終えた紙を束ねているとヴォルフが手招きをした。
「？　どうかした？」
　何も言わず抱きしめられて疑問を口にする。
「いや、こうして抱きしめても変化させられなくなったなと思ってな」
　確かに。意識しなくても魔力が暴走することはなくなっていた。
「もっと掛かるかと思っていたから感慨深い」
「どんだけ慣れないと思ってたのよ……」
　あれから半年経つのに。
　最初の反応を思えば仕方ないのかもしれないけれど。
　変化させなくなったけれど、意識をしなくなったわけじゃない。
　その証拠に胸は鼓動を激しくさせている。
　けれど、それらも心地よく感じた。
「その調子でもっと慣れてくれ」
　そう言って耳のすぐ上に口づけられる。
　くちびるが耳を掠めたのはわざとだよね？
　楽しそうに笑う口元が狙ったと伝えている。
　それだけで真っ赤になる自分の反応が恨めしい。
　逆に一泡吹かせてみたいと思わなくもないけれど、逆襲が怖いので出来ない。
　赤い顔を押さえて顔をそむける。
　宥めるように頭を撫でる手を払っても、それが照れ隠しだとわかっているのかヴォルフは楽しそうだった。