213 / 368
セレスタ 波乱の婚約式編
誕生日の贈り物 3
しおりを挟む
食事を終えて飲みながら寛ぐ。
今日は怪しいお酒はない。
あれを呑んだ翌日、起きた途端叫びそうになった。
恥ずかしすぎる醜態に夢だったらよかったとどんなに思ったか。
しかし記憶にははっきりと残っていて、紛れもない現実だと自分で理解していた。
酩酊状態が楽しいとも思わなかったし、お酒は味を楽しむくらいで十分だと思う。
ヴォルフのグラスに注がれたお酒を一口だけ貰う。
舐めるように味わったお酒は、マリナが飲んでいる物よりアルコールが強く、少量で口内が熱くなった。
「苦……」
正確に言うと苦いというか辛いと言うか、アルコールの刺激が強くて味がよくわからない。
舌がぴりぴりするので水を飲むと少しだけ落ち着いた。
「そうだ、これ見て」
夜更かしして作っていた魔道具をテーブルに出す。
からん、と小さな音を立てたのは角柱の形をした魔道具だった。
長さはマリナの指とほぼ同じで幅は指より少し太い。
角柱のふちは金属で覆われ、上部に付けられた金具はチェーンに繋がっていた。
角柱そのものは半透明でうっすらと反対側が見える。
「これは……。 魔道具だろうが何に使うんだ?」
中心に入っている石を見てヴォルフが魔道具だと気づく。
中に入っているのは魔石だが、通常採れる魔石と違い透明がかっている。
俗に魔晶石とも魔宝石とも呼ばれるが、マリナたち魔術師はどちらも魔石としか呼ばない。
純度の高い魔石の中でもごく一部がこうして透き通った物になる。
稀少価値も高く、手にしたがる好事家は多い。
魔石の一種なので勝手に取引をすれば当然裁かれる。
そのため巷に出回るのは少ない採取量よりさらに少ない。
基本的には王宮や採取した鉱山を管理している貴族ぐらいしかお目に掛かれない物だった。
王宮勤めで魔道具も作る魔術師だからこそ手に入れられる品だ。
研究用にいくつも魔石を持っているマリナでもこのタイプの魔石は数個しか持っていない。
とっておきの魔道具を作る時に使おうと思って取っていた。
そしてこれはその魔石を使ったとびっきりの魔道具だ。
「これは通信機よ」
「通信機?」
「日本で使っていた携帯電話みたいに、離れても連絡が取れる物があったら便利だと思って、ずっと作れないか考えていたのよ」
「なるほど、確かにあれはすごかったな」
最初見た時は何もない空間に一人で話しかけているように見えてわけがわからなかったと笑う。
ヴォルフの言う通り、こちらの世界では離れた人間と話をする技術は無い。
「それで出来たのがこれ。
携帯みたいに話は出来ないんだけどね」
「じゃあ何が出来るんだ?」
会話が出来ないと聞いてヴォルフが不思議そうな顔をする。
「まずは見てて」
テーブルに置いた物と対になる魔道具を握り魔力を一瞬だけ流す。
突如光り出した魔道具を興味深そうに見つめるヴォルフ。
魔道具にある反応が現れると、驚きに声を上げた。
「これはっ、……すごいな」
感嘆の言葉を呟きながら魔道具を見つめ続ける。
透明だった石の表面には文字が浮かび上がり、短い文章を作っていた。
時間にして6、7秒くらいだろうか、文章が消えるとそのまま光も収束する。
光が消えた後もヴォルフは目を奪われていた。
「言葉を送る魔道具、か」
感嘆の溜息と共に零れた言葉に頷く。
「そう、思ったことを相手に伝えることが出来るの」
最初に考えた問題、魔術を使えない人に伝えるためにどうしたらいいか。
それを解消するために考えたのが、人ではなく魔道具に文章を送るという方法。
これなら人は浮かんだ文字を読むだけでいいため、魔術が使える必要はない。
「頻繁に使える物じゃないけど、役に立ちそうでしょう?」
この前のレグルスみたいに離れて行動するときにはとても便利だと思う。
「頻繁に使えないというのはどういう意味だ?」
欠点を上げるマリナにヴォルフの質問が飛ぶ。
「正確に言うとこの王宮内では頻繁に使えないってこと。
王宮内には不審な魔力を感知する魔道具があるから、不用意に使うと引っかかっちゃう」
不審な魔力を感知したと、真面目に警備している騎士たちを脅かしてしまうことになる。
「後はヴォルフからは送れないってこととかが欠点といえば欠点かしらね」
仕様です、と言ってしまえばそれまでだけど、魔術が使えない人からはメッセージを送ることができない。
「まあ、それは仕方ないな」
ヴォルフはあっさり納得する。
「お前が持っている方とこっちの魔道具は機能自体は同じなのか?」
「一応そうよ」
付いている鎖が違うだけで魔道具は同じ物だ。
「なら、仮に魔術師がいればこちらからもメッセージを送ることが可能なんだな」
「そうね」
誰でもとは言わないけど王宮魔術師なら可能だろう。
一つの魔石を割って作った対の魔道具なので、別の石を使った物より相手の場所を補足しやすいはず。
対の魔道具にメッセージが送れるということがわかれば、失敗して壊すこともないと思う。
「効果範囲は王宮内なら余裕で送れて、王都の端っこまで行くと人によっては上手く送れないと思う。
試してないけどね」
王都から王宮に向かって送ったら間違いなく警戒対象になるので試したりはしない。
やったら怒られるのが目に見えている。
「お前なら?」
「王都内なら問題ないけど、隣町までとかは流石に無理ね」
そんな遠くまでは魔力が飛ばない。
個人の魔力に頼る以上、それほど使える範囲は広くならないだろう。
携帯のように誰でも使える便利な道具ではないが、マリナは魔道具の出来に満足していた。
今日は怪しいお酒はない。
あれを呑んだ翌日、起きた途端叫びそうになった。
恥ずかしすぎる醜態に夢だったらよかったとどんなに思ったか。
しかし記憶にははっきりと残っていて、紛れもない現実だと自分で理解していた。
酩酊状態が楽しいとも思わなかったし、お酒は味を楽しむくらいで十分だと思う。
ヴォルフのグラスに注がれたお酒を一口だけ貰う。
舐めるように味わったお酒は、マリナが飲んでいる物よりアルコールが強く、少量で口内が熱くなった。
「苦……」
正確に言うと苦いというか辛いと言うか、アルコールの刺激が強くて味がよくわからない。
舌がぴりぴりするので水を飲むと少しだけ落ち着いた。
「そうだ、これ見て」
夜更かしして作っていた魔道具をテーブルに出す。
からん、と小さな音を立てたのは角柱の形をした魔道具だった。
長さはマリナの指とほぼ同じで幅は指より少し太い。
角柱のふちは金属で覆われ、上部に付けられた金具はチェーンに繋がっていた。
角柱そのものは半透明でうっすらと反対側が見える。
「これは……。 魔道具だろうが何に使うんだ?」
中心に入っている石を見てヴォルフが魔道具だと気づく。
中に入っているのは魔石だが、通常採れる魔石と違い透明がかっている。
俗に魔晶石とも魔宝石とも呼ばれるが、マリナたち魔術師はどちらも魔石としか呼ばない。
純度の高い魔石の中でもごく一部がこうして透き通った物になる。
稀少価値も高く、手にしたがる好事家は多い。
魔石の一種なので勝手に取引をすれば当然裁かれる。
そのため巷に出回るのは少ない採取量よりさらに少ない。
基本的には王宮や採取した鉱山を管理している貴族ぐらいしかお目に掛かれない物だった。
王宮勤めで魔道具も作る魔術師だからこそ手に入れられる品だ。
研究用にいくつも魔石を持っているマリナでもこのタイプの魔石は数個しか持っていない。
とっておきの魔道具を作る時に使おうと思って取っていた。
そしてこれはその魔石を使ったとびっきりの魔道具だ。
「これは通信機よ」
「通信機?」
「日本で使っていた携帯電話みたいに、離れても連絡が取れる物があったら便利だと思って、ずっと作れないか考えていたのよ」
「なるほど、確かにあれはすごかったな」
最初見た時は何もない空間に一人で話しかけているように見えてわけがわからなかったと笑う。
ヴォルフの言う通り、こちらの世界では離れた人間と話をする技術は無い。
「それで出来たのがこれ。
携帯みたいに話は出来ないんだけどね」
「じゃあ何が出来るんだ?」
会話が出来ないと聞いてヴォルフが不思議そうな顔をする。
「まずは見てて」
テーブルに置いた物と対になる魔道具を握り魔力を一瞬だけ流す。
突如光り出した魔道具を興味深そうに見つめるヴォルフ。
魔道具にある反応が現れると、驚きに声を上げた。
「これはっ、……すごいな」
感嘆の言葉を呟きながら魔道具を見つめ続ける。
透明だった石の表面には文字が浮かび上がり、短い文章を作っていた。
時間にして6、7秒くらいだろうか、文章が消えるとそのまま光も収束する。
光が消えた後もヴォルフは目を奪われていた。
「言葉を送る魔道具、か」
感嘆の溜息と共に零れた言葉に頷く。
「そう、思ったことを相手に伝えることが出来るの」
最初に考えた問題、魔術を使えない人に伝えるためにどうしたらいいか。
それを解消するために考えたのが、人ではなく魔道具に文章を送るという方法。
これなら人は浮かんだ文字を読むだけでいいため、魔術が使える必要はない。
「頻繁に使える物じゃないけど、役に立ちそうでしょう?」
この前のレグルスみたいに離れて行動するときにはとても便利だと思う。
「頻繁に使えないというのはどういう意味だ?」
欠点を上げるマリナにヴォルフの質問が飛ぶ。
「正確に言うとこの王宮内では頻繁に使えないってこと。
王宮内には不審な魔力を感知する魔道具があるから、不用意に使うと引っかかっちゃう」
不審な魔力を感知したと、真面目に警備している騎士たちを脅かしてしまうことになる。
「後はヴォルフからは送れないってこととかが欠点といえば欠点かしらね」
仕様です、と言ってしまえばそれまでだけど、魔術が使えない人からはメッセージを送ることができない。
「まあ、それは仕方ないな」
ヴォルフはあっさり納得する。
「お前が持っている方とこっちの魔道具は機能自体は同じなのか?」
「一応そうよ」
付いている鎖が違うだけで魔道具は同じ物だ。
「なら、仮に魔術師がいればこちらからもメッセージを送ることが可能なんだな」
「そうね」
誰でもとは言わないけど王宮魔術師なら可能だろう。
一つの魔石を割って作った対の魔道具なので、別の石を使った物より相手の場所を補足しやすいはず。
対の魔道具にメッセージが送れるということがわかれば、失敗して壊すこともないと思う。
「効果範囲は王宮内なら余裕で送れて、王都の端っこまで行くと人によっては上手く送れないと思う。
試してないけどね」
王都から王宮に向かって送ったら間違いなく警戒対象になるので試したりはしない。
やったら怒られるのが目に見えている。
「お前なら?」
「王都内なら問題ないけど、隣町までとかは流石に無理ね」
そんな遠くまでは魔力が飛ばない。
個人の魔力に頼る以上、それほど使える範囲は広くならないだろう。
携帯のように誰でも使える便利な道具ではないが、マリナは魔道具の出来に満足していた。
0
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
婚約解消したら後悔しました
せいめ
恋愛
別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。
婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。
ご都合主義です。ゆるい設定です。
誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる