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セレスタ 波乱の婚約式編
王都探索 4
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店に入ってケーキとお茶を注文する。
シャルロッテも同じようにケーキとお茶を頼んだ。
「不思議ね。 本当に気がつかないなんて」
「そういうものですから」
彼らがこちらを認識しづらくなるだけなので、騒いだり目立ったりしたら気づかれる。
窓際に座った彼らが見える奥の席からマリナたちは二人を観察していた。
「彼が好みそうな女性ですね」
以前自分で言っていたとおりの女性らしい曲線を持った女性だ。
彼が片想いしていた女官はもっときりっとした硬い美貌をしていたけれど。
彼女とは違う甘ったるい顔をしている。
「あれが好みなら趣味が悪いと思うわ」
シャルロッテはよっぽど彼女のことが嫌いらしい。
身内が騙されているのを見たらそうなってもしかたないかな。
まだ騙されているとは決まっていないけれど、ほぼ確信している。
ケーキにフォークを入れて口に運ぶ。
白いクリームはさっぱり甘くて上に乗った果物と合う。
「これおいしい」
「本当ね、今度はフローラと一緒に来ましょう?」
シャルロッテは茶葉を練り込んだふわふわ柔らかそうなケーキを食べていた。
楽しみを得てシャルロッテの表情が少し柔らかくなる。
それも彼らの話が聞こえてくるまでだった。
「今日はありがとう」
「大したことじゃない、その笑顔が見られるなら安いものだ」
その言葉が聞こえてきた段階でシャルロッテの眉間に皺が入った。
眉間を指して注意するととシャルロッテが指で眉間を伸ばす。
「騎士様ってすごいのね、あれを大したことないと言っちゃうなんて」
媚びるように視線を絡ませながら女性が微笑む。
(……)
「マリナ、皺が寄ってるわよ」
今度は反対にマリナがシャルロッテに注意された。
「だって、いつ彼は騎士になったのですか。
詐称は許されることじゃないですよ?」
騎士と騎士見習いの間には確固とした差がある。
見習いはどれだけ時間を費やそうが見習いで、騎士とは違う。
彼が騎士になるのを諦めても元騎士見習いなんて肩書きにはならない。
騎士というのはそれだけ特別なものだ。
「彼は本当に騎士になる気があるんですか?」
いずれ騎士になるべく努力していると話すならいいが、騎士と言われて否定しないだけでも問題だった。
「あれから頑張っているとアルフからも聞いているのだけれど」
ひそひそとシャルロッテと言い合う。
マリナたちが話す向こうでは更なる茶番が繰り広げられていた。
「ねぇ? こんなに良くしてもらって申し訳ないと思うのだけれど……。
ひとつお願いがあるの」
ひとつって言いながら何度目のお願いなのよ、とシャルロッテが呟く。
「なんだ? 俺に出来ることなら何でも叶えるよ」
完全に骨抜きにされているのかとシャルロッテの顔が不安に曇る。
シャルロッテの顔を見て彼が再教育されることになったらマリナも口を出そうと心に決めた。
女性が彼の手に自らの手を重ねる。
シャルロッテの従兄弟の顔がだらしなく緩む。
その様子を見て後でどうしてくれようかと真剣に考え始めた。
従姉妹にこんな顔をさせておいていい気なものだ。
「貴方の仕事場が見てみたいの」
蠱惑的な声で囁かれた願いはマリナを瞠目させる内容だった。
彼も驚きに目を見開いて硬直している。
「ダメかしら?」
彼の手を指先で撫でながら甘い声でねだる女性。
(王宮に入りたい?)
何のつもりかと警戒度が一気に引き上がる。
内部で働く人間を誑かして王宮内に入る、まるっきり間諜の手口ではないか。
王宮に憧れる町娘、そうも見えるが彼を動かす手管も含め不審を感じる。
ただの好奇心で片づける気にはどうしてもなれない。
マリナの雰囲気が変化したのに気付き、シャルロッテも不安そうに従兄弟を見つめる。
「それは……」
要求の大きさに彼が言葉を躊躇う。
「ムリならいいの、ごめんなさい!
貴方のことをもっと知りたくて無茶なことを言ってしまったわ!」
女性がしおらしく引いてみせる。
自分から発言を撤回することで相手の警戒心を薄れさせるつもりなんだろう。
断られても伝手を失うよりは関係を保って機会を待った方が良い。
「ごめん、それは俺には出来ないことだった」
シャルロッテの従兄弟が残念そうに声を落とす。
はっきりと断ったことにマリナとシャルロッテが同時に胸を撫で下ろした。
彼を内通者として探らなくてよくなったことは喜ばしいが、まだ警戒は緩められない。
いいの、と笑う女性の胸の内はどのようなものか。
彼はまた休みになったら会いに来ると約束して女性の機嫌を取ろうと必死だ。
女性は飲み物に口を付けながら楽しみにしてるわ、と微笑む。
二人は店を出たところで別れた。
家まで送ろうとする彼を女性がやんわりと断り、先程の食堂とは別の方向へ歩いて行く。
女性が向かう方向を見つめ、シャルロッテに先に帰るよう伝える。
休みが休みでなくなった瞬間だった。
シャルロッテも同じようにケーキとお茶を頼んだ。
「不思議ね。 本当に気がつかないなんて」
「そういうものですから」
彼らがこちらを認識しづらくなるだけなので、騒いだり目立ったりしたら気づかれる。
窓際に座った彼らが見える奥の席からマリナたちは二人を観察していた。
「彼が好みそうな女性ですね」
以前自分で言っていたとおりの女性らしい曲線を持った女性だ。
彼が片想いしていた女官はもっときりっとした硬い美貌をしていたけれど。
彼女とは違う甘ったるい顔をしている。
「あれが好みなら趣味が悪いと思うわ」
シャルロッテはよっぽど彼女のことが嫌いらしい。
身内が騙されているのを見たらそうなってもしかたないかな。
まだ騙されているとは決まっていないけれど、ほぼ確信している。
ケーキにフォークを入れて口に運ぶ。
白いクリームはさっぱり甘くて上に乗った果物と合う。
「これおいしい」
「本当ね、今度はフローラと一緒に来ましょう?」
シャルロッテは茶葉を練り込んだふわふわ柔らかそうなケーキを食べていた。
楽しみを得てシャルロッテの表情が少し柔らかくなる。
それも彼らの話が聞こえてくるまでだった。
「今日はありがとう」
「大したことじゃない、その笑顔が見られるなら安いものだ」
その言葉が聞こえてきた段階でシャルロッテの眉間に皺が入った。
眉間を指して注意するととシャルロッテが指で眉間を伸ばす。
「騎士様ってすごいのね、あれを大したことないと言っちゃうなんて」
媚びるように視線を絡ませながら女性が微笑む。
(……)
「マリナ、皺が寄ってるわよ」
今度は反対にマリナがシャルロッテに注意された。
「だって、いつ彼は騎士になったのですか。
詐称は許されることじゃないですよ?」
騎士と騎士見習いの間には確固とした差がある。
見習いはどれだけ時間を費やそうが見習いで、騎士とは違う。
彼が騎士になるのを諦めても元騎士見習いなんて肩書きにはならない。
騎士というのはそれだけ特別なものだ。
「彼は本当に騎士になる気があるんですか?」
いずれ騎士になるべく努力していると話すならいいが、騎士と言われて否定しないだけでも問題だった。
「あれから頑張っているとアルフからも聞いているのだけれど」
ひそひそとシャルロッテと言い合う。
マリナたちが話す向こうでは更なる茶番が繰り広げられていた。
「ねぇ? こんなに良くしてもらって申し訳ないと思うのだけれど……。
ひとつお願いがあるの」
ひとつって言いながら何度目のお願いなのよ、とシャルロッテが呟く。
「なんだ? 俺に出来ることなら何でも叶えるよ」
完全に骨抜きにされているのかとシャルロッテの顔が不安に曇る。
シャルロッテの顔を見て彼が再教育されることになったらマリナも口を出そうと心に決めた。
女性が彼の手に自らの手を重ねる。
シャルロッテの従兄弟の顔がだらしなく緩む。
その様子を見て後でどうしてくれようかと真剣に考え始めた。
従姉妹にこんな顔をさせておいていい気なものだ。
「貴方の仕事場が見てみたいの」
蠱惑的な声で囁かれた願いはマリナを瞠目させる内容だった。
彼も驚きに目を見開いて硬直している。
「ダメかしら?」
彼の手を指先で撫でながら甘い声でねだる女性。
(王宮に入りたい?)
何のつもりかと警戒度が一気に引き上がる。
内部で働く人間を誑かして王宮内に入る、まるっきり間諜の手口ではないか。
王宮に憧れる町娘、そうも見えるが彼を動かす手管も含め不審を感じる。
ただの好奇心で片づける気にはどうしてもなれない。
マリナの雰囲気が変化したのに気付き、シャルロッテも不安そうに従兄弟を見つめる。
「それは……」
要求の大きさに彼が言葉を躊躇う。
「ムリならいいの、ごめんなさい!
貴方のことをもっと知りたくて無茶なことを言ってしまったわ!」
女性がしおらしく引いてみせる。
自分から発言を撤回することで相手の警戒心を薄れさせるつもりなんだろう。
断られても伝手を失うよりは関係を保って機会を待った方が良い。
「ごめん、それは俺には出来ないことだった」
シャルロッテの従兄弟が残念そうに声を落とす。
はっきりと断ったことにマリナとシャルロッテが同時に胸を撫で下ろした。
彼を内通者として探らなくてよくなったことは喜ばしいが、まだ警戒は緩められない。
いいの、と笑う女性の胸の内はどのようなものか。
彼はまた休みになったら会いに来ると約束して女性の機嫌を取ろうと必死だ。
女性は飲み物に口を付けながら楽しみにしてるわ、と微笑む。
二人は店を出たところで別れた。
家まで送ろうとする彼を女性がやんわりと断り、先程の食堂とは別の方向へ歩いて行く。
女性が向かう方向を見つめ、シャルロッテに先に帰るよう伝える。
休みが休みでなくなった瞬間だった。
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