双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 波乱の婚約式編

王宮のすみっこで

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 秋半ばになると寒く感じる日も増えてきた。
 まだ息が白くなるほどではないけれど、あとひと月もすれば初雪が見られるかもしれない。
 珍しく王都に降りていたマリナは戻ってきた庭園で見知った人影を見つけた。
「シャルロッテ、何をしてるんですか」
 深い青色のドレスの後ろ姿を見かけて声を掛ける。
「…!?」
 びくんと身体を揺らして固まったシャルロッテ。
 その態度に不審を感じて近づこうとしていた足を止める。
 じっとその背中を見つめるけれど、シャルロッテは固まったまま振り向こうとしない。
 マリナも黙って見つめているとぎこちなく身体を振り向かせた。
「何してるんですか」
 いつも通り恋人に会いに来ただけならおかしな態度だ。
「ま、マリナ…」
 マリナの名前を呼んで瞳を彷徨わせる。
 その逃げ場所を探しているような目に不審を募らせた。
 シャルロッテを観察する。
 マリナの視線から隠すように片手を後ろに回す。
 視線で追ったが何を隠したのかは見えなかった。
「訓練所に行った帰りですか?」
 相変わらず恋人に差し入れを続けているらしい。
 今日も王宮に来たのはそれが目的だろうと思った。
「え、ええ。 そうよ」
「ふーん……? で、何隠してるんですか」
 自分から言う気がなさそうなので単刀直入に聞く。
「え!? ま、マリナには関係のない物よ?」
「関係はないけれど後ろめたい物ですか?」
 態度が怪しすぎる。
 関係なくても知られたくない物と言っているようなものだ。
「そんな物じゃないわよ!
 ただちょっと、従兄弟に上げようと思って持ってきただけよ」
 マリナが中身を疑う発言をしたのでシャルロッテが慌てて否定する。
「ああ、あの方に……」
 問題行動の多かったあの人か。
 あれから少しは改善して訓練も頑張っていると聞いたけれど。
「最近様子がおかしいのよ。
 いつも私がアルフの為に作った差し入れをつまみに来てたのに、訓練所に顔を出してもちょっとこっちを見てどこかに行っちゃうの
 だから好きだったお菓子を差し入れに作ってみたのよ」
「そんな子供みたいなことしてたんですか?」
 呆れた感情が声に乗る。
 お菓子が欲しいからって人の為に作ってきた物に手を出すとか、ダメでしょう。
「でもそれなら別に隠す必要ないのでは?」
 ただの差し入れならマリナから隠す必要はないのに。
「えっと…、マリナは従兄弟にあまり良い感情を持っていないでしょう?」
「ええ、まあ」
 印象が悪いのは事実だ。
「だからあんまり話したくなかったの」
「どうしてですか? 別にシャルロッテが彼に差し入れをするのは自由だと思いますが」
 話題にもしたくないほど不快な人間だとは言っていないし。
「違うわ。 甘やかすんじゃないって言われるかと思ったの!」
「ああ…」
 シャルロッテの言うことは正しい。それに近いことは考えると思う。
「思っても言いませんよ。 厳しくするだけではいけないと思いますし」
 応援してくれる人がいるというのはやる気に繋がるので反対するつもりはない。
 そこまで口を出す権限もないし。
「でもシャルロッテがそれをすると他の女性が寄って来ないと文句を言いそうですけどね」
 他の人と近づきになるきっかけが無くなるとか言いそう。
「そう! 文句を言いそうなのに何も言ってこないの!
 それがおかしくって気になるのよ!」
 ええー、という感情は心の中に秘めておいた。
 従姉妹にもそんな言いがかりを付ける人間だと思われてるんだ…。
 今までの行いのせいだろうから何も言わないけれど。
 彼が信頼を取り戻す日は遠そうだ。
「もしかしたら恋人が出来たのかも!!」
「いえ、それはないと思いますよ」
 間髪入れずに否定してみる。
 この前の一件で上司からしごかれているので自由時間はあまりない上に、彼を恋人にしようという女官はいないと思う。
 彼の素行は女官の間では有名だ。
 努力しているのは聞いているけれど彼の評判が上がるのはまだまだ先だろう。
 それ以外の、例えば食堂や洗濯場で働いているような下働きの女性なら知らない人もいるかもしれないけれど、彼とは接点がない。
「わからないわよ? 王宮の人なら彼の話を知っているけれど、王宮外の人なら?」
「それなら…、なくはないかもしれませんね」
 休日に街に出て知り合ったということは十分に考えられる。
 街の女性なら王宮に勤める騎士は憧れの存在だ。
 彼はまだ見習いだけれど。
「ちょっと調べてみない?」
 シャルロッテがきらきらと瞳を輝かせて誘ってくる。
「興味ないので」
 短く断ると頬を膨らませて不満を表す。
「いいじゃない、時間の空いている日にちょっと見に行くだけよ!」
「趣味が悪いですよ」
 人の休日を覗き見するなんて貴族令嬢のすることじゃないでしょう。
 呆れ混じりに諭すと「じゃあ私だけで行く!」と怒り出した。
 シャルロッテ一人で王都を歩くなんて嫌な予感しかしない。
 結局折れたのはマリナの方だった。
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