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セレスタ 弟さんの結婚式編

嘘つき

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 笑顔を見せてくれたことに僅かな安堵が胸に広がる。
「ミリ…」
「マリナ様」
 ほっとした声で名前を呼ぼうとしたマリナを遮ってミリアム様がマリナの名を呼ぶ。
「お気遣いありがとうございます。
 環境が変わることへの漠然とした不安を聞いていただいて胸が晴れました。
 いつかフレスへ来る機会がありましたら、お顔を見せてくださるとうれしいです」
 さっきまでの感情を覗かせた笑顔とは違う、完璧な作られた笑顔。
 ミリアム様が別の覚悟を決めたことに刹那、言葉を失う。
 では、と立ち去りそうなミリアム様を止めようと慌てた。
「ミリアム様! 待ってください!」
 これで話を終わらせるつもりだと表情が言っている。
「もっとお話をしていたく思いますが、私本日はこれでお暇いたしますので」
 全く話をする気はないと態度で表す。
「話はまだ…」
「そちらにいらっしゃるのはライツ伯爵ではありませんか、お久しぶりです」
 マリナの言葉を遮って近くにいた男性に声を掛ける。
 さっきからヴォルフやマリナと話をする機会を窺っていた男性だ。
 ミリアム様の知己のようで挨拶を交わしてマリナたちへ紹介した。
 この男性を盾に逃げるつもりだと気づいて歯噛みしたい気持ちになる。
「私は少し風に当たりたいので失礼いたしますね」
「…っ!」
 強引に立ち去ろうとするミリアム様を止めようと目で背を追う。
 視線を遮るように伯爵がマリナたちの眼前に立ち話を始める。
 賛辞を交えた挨拶の言葉に笑顔で答えながらミリアム様を探す。
 しかしすぐに会場を出て行ってしまったのか姿が見えない。
(何で…!)
 話してくれるかと思ったら偽りの笑顔で拒否された。
 木の実色の瞳には先程までの揺れる感情を見つけられない。
 瞳でまで嘘を吐いて立ち去った。
 ミリアム様は勝手だ
 目の前の伯爵を無視して立ち去るわけにもいかず、話を切り上げるタイミングを伺いながらミリアム様の悪口を頭の中で並べ立てた。
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