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セレスタ 弟さんの結婚式編
王子の懸念
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「ヴォルフ、この案件なんだけどどう考える?」
ふたりが異世界より帰ってきて早半年。
侯爵にも挨拶をし、そろって弟の挙式にも出席した。
誰がどう聞いても正式な婚約を交わした間柄だ。
しかし・・・。
「ちょっと待て…、これは確かディーボル男爵の領地侵犯が問題になっていたんだよな」
ふたりは過去に起きた貴族同士の揉め事を扱った判例について語り合っている。
「そう、シュラフ子爵の領地との間にあった森を切り開くまではよかったんだけど、境目にある川を自分の領地の畑に引こうとしたところが問題になったのよね」
「どちらが悪いというか…、川はどちらの物でもないんだよな?」
あまりにも関係が変わっていない。
いや、大きな変化もあったのだが。
真剣に議論を戦わせるヴォルフなど以前は見ることのなかった姿だ。
前なら意見を聞いたところで自分の決めることではないと答えていたことだろう。
マリナを伴侶に選んだことで自分でも領地の管理や政務に携わる心づもりが出来たようだ。
実に喜ばしいことなのだが、現状彼らの様子を見ていると・・・。
「ではまず、今回の争いの争点はどこだと思う?」
「うーん、男爵に川の水を使う権利があるかというところか?」
恋人や婚約者というよりは、同僚というか教師と生徒とにしか見えないのだ。
異世界まで飛んで掴んだ大恋愛のはずなのだが。
ふたりの主としてそのことを多少憂慮している。
特にマリナには自身の恋を助けてもらった経験から何かをしたいと思っていた。
「森を切り開いて作られたのが男爵の荘園だというのも問題のひとつね。
農民が勝手にやったことならここまで激しい抗議にはならなかったと思うわ」
「何故だ?」
「今回のケースで言えば子爵に断りなく水を引いたということが一番の問題よ。
相談なく勝手に利水をした、つまり子爵にとっては男爵に伺いを立てる必要もない相手だと軽く見られたということになるのよ」
仲良く勉強もいいとは思うのだけれど。
ふたりのこの様子を見て、付け入る隙があると考える輩もいるだけに放置しておく気にはなれない。
色気のないふたりだけど強く結ばれているのは主としてわかるので、ふたりの為に一肌脱ぐことにした。
時には関係を見せつける必要もあるのだ。
「で、どうして舞踏会にそろって出席する必要があったんですか」
問い詰めるマリナの目が恐ろしいものになっている。
愛らしい外見をしているのに発する眼力は思わず謝ってしまいたくなるほどに強い。
とはいっても自分も長年の付き合いで多少の慣れがある。
笑って受け流すと険が取れ苦笑いに変わった。
「王子にそこまで気を遣わせて申し訳ありません」
流石にマリナは察しが良い。何のために護衛でなく出席者にしたのかわかったようだ。
「余計なお世話かとも思ったが」
結果的に良かったのか微妙なことになっている。
令嬢たちに囲まれているヴォルフを見てそう思った。
囲まれたヴォルフは不機嫌な顔を隠せていない。
令嬢たちは怯みながらも話しかけようと頑張っている。
「まあ、ヴォルフは愛想の問題がなければ優良物件ですからね」
「ゆうりょうぶっけん?」
耳慣れない言葉に一瞬考えたが言っている意味は掴めた。
実際ヴォルフは地位も高く、次期国王の双翼を務めるほどの実力を持っている。
問題は愛想と人に対する興味がなかったことくらいだが、それもマリナのおかげで改善している。
ヴォルフを囲む令嬢たちも以前なら眼光が恐ろしくて近寄れなかっただろう。
「私のことがあったので貴族からも御しやすいと思われたでしょうし」
マリナがヴォルフを誑かしたと思っている貴族たちはそう考えていると、マリナは他人事のようにあっさりと語る。
そこらの令嬢に籠絡されるほど単純ではないのだけれどね。
それを知っているからかマリナは余裕の表情だった。
「そうは言っても心配ではないのか?」
私なら彼女が囲まれているのを見たら内心は平然としていられない。
自分以外の目が恋人に注がれるのは嫌なものだ。
私の問いにマリナは口の端を上げる。
微笑みにも見えるそれは、戦闘準備は整っていると示す顔だった。
「王子。 望まれない恋人を引き裂くとき……。
どうすれば効率的か、わかりますか?」
好戦的な笑みに呑まれているとマリナはそんな問いを掛けた。
「魅力的な女性に誘惑させる、それも有効ですけれどね…」
マリナの視線が横に滑る。
「女性の目を恋人以外に向けさせる方が、失意の男性に娘を近づけ易いのですよ」
視線が向かった先にはゆっくりとこちらに近づく男の姿があった。
ふたりが異世界より帰ってきて早半年。
侯爵にも挨拶をし、そろって弟の挙式にも出席した。
誰がどう聞いても正式な婚約を交わした間柄だ。
しかし・・・。
「ちょっと待て…、これは確かディーボル男爵の領地侵犯が問題になっていたんだよな」
ふたりは過去に起きた貴族同士の揉め事を扱った判例について語り合っている。
「そう、シュラフ子爵の領地との間にあった森を切り開くまではよかったんだけど、境目にある川を自分の領地の畑に引こうとしたところが問題になったのよね」
「どちらが悪いというか…、川はどちらの物でもないんだよな?」
あまりにも関係が変わっていない。
いや、大きな変化もあったのだが。
真剣に議論を戦わせるヴォルフなど以前は見ることのなかった姿だ。
前なら意見を聞いたところで自分の決めることではないと答えていたことだろう。
マリナを伴侶に選んだことで自分でも領地の管理や政務に携わる心づもりが出来たようだ。
実に喜ばしいことなのだが、現状彼らの様子を見ていると・・・。
「ではまず、今回の争いの争点はどこだと思う?」
「うーん、男爵に川の水を使う権利があるかというところか?」
恋人や婚約者というよりは、同僚というか教師と生徒とにしか見えないのだ。
異世界まで飛んで掴んだ大恋愛のはずなのだが。
ふたりの主としてそのことを多少憂慮している。
特にマリナには自身の恋を助けてもらった経験から何かをしたいと思っていた。
「森を切り開いて作られたのが男爵の荘園だというのも問題のひとつね。
農民が勝手にやったことならここまで激しい抗議にはならなかったと思うわ」
「何故だ?」
「今回のケースで言えば子爵に断りなく水を引いたということが一番の問題よ。
相談なく勝手に利水をした、つまり子爵にとっては男爵に伺いを立てる必要もない相手だと軽く見られたということになるのよ」
仲良く勉強もいいとは思うのだけれど。
ふたりのこの様子を見て、付け入る隙があると考える輩もいるだけに放置しておく気にはなれない。
色気のないふたりだけど強く結ばれているのは主としてわかるので、ふたりの為に一肌脱ぐことにした。
時には関係を見せつける必要もあるのだ。
「で、どうして舞踏会にそろって出席する必要があったんですか」
問い詰めるマリナの目が恐ろしいものになっている。
愛らしい外見をしているのに発する眼力は思わず謝ってしまいたくなるほどに強い。
とはいっても自分も長年の付き合いで多少の慣れがある。
笑って受け流すと険が取れ苦笑いに変わった。
「王子にそこまで気を遣わせて申し訳ありません」
流石にマリナは察しが良い。何のために護衛でなく出席者にしたのかわかったようだ。
「余計なお世話かとも思ったが」
結果的に良かったのか微妙なことになっている。
令嬢たちに囲まれているヴォルフを見てそう思った。
囲まれたヴォルフは不機嫌な顔を隠せていない。
令嬢たちは怯みながらも話しかけようと頑張っている。
「まあ、ヴォルフは愛想の問題がなければ優良物件ですからね」
「ゆうりょうぶっけん?」
耳慣れない言葉に一瞬考えたが言っている意味は掴めた。
実際ヴォルフは地位も高く、次期国王の双翼を務めるほどの実力を持っている。
問題は愛想と人に対する興味がなかったことくらいだが、それもマリナのおかげで改善している。
ヴォルフを囲む令嬢たちも以前なら眼光が恐ろしくて近寄れなかっただろう。
「私のことがあったので貴族からも御しやすいと思われたでしょうし」
マリナがヴォルフを誑かしたと思っている貴族たちはそう考えていると、マリナは他人事のようにあっさりと語る。
そこらの令嬢に籠絡されるほど単純ではないのだけれどね。
それを知っているからかマリナは余裕の表情だった。
「そうは言っても心配ではないのか?」
私なら彼女が囲まれているのを見たら内心は平然としていられない。
自分以外の目が恋人に注がれるのは嫌なものだ。
私の問いにマリナは口の端を上げる。
微笑みにも見えるそれは、戦闘準備は整っていると示す顔だった。
「王子。 望まれない恋人を引き裂くとき……。
どうすれば効率的か、わかりますか?」
好戦的な笑みに呑まれているとマリナはそんな問いを掛けた。
「魅力的な女性に誘惑させる、それも有効ですけれどね…」
マリナの視線が横に滑る。
「女性の目を恋人以外に向けさせる方が、失意の男性に娘を近づけ易いのですよ」
視線が向かった先にはゆっくりとこちらに近づく男の姿があった。
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