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セレスタ 弟さんの結婚式編
ヴァルトさんの相談
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執務室に向かう途中で近衛騎士のヴァルトさんに声を掛けられた。
「悪いマリナ、この腕輪を見てくれないか」
ヴァルトさんが出した腕輪を見て目を瞬く。
「どうしたんですかこの魔道具?」
綺麗な腕輪型の魔道具だ。
ずいぶん小さいので子供用だろうか。
「魔道具?! やっぱりか」
あの野郎、と小さく呟くヴァルトさん。
厄介事の予感。
「娘への誕生日プレゼントとして贈られたんだが、少し腑に落ちなくてな」
ヴァルトさんのお子さん…、娘と言ったから2歳になる下の子のことだろう。
誕生日が来たと言ったから3歳か。
普段冷静なヴァルトさんが娘さんのことになると顔を緩ませるのは近衛の間では有名だ。
「どなたからの贈り物ですか?」
随分と繊細な装飾が施されている。
これが2歳の子供への贈り物だというのだからすごい。
「ああ、贈ってきた相手はわかってる。
ただ贈ってきた相手との付き合いを考えると高価すぎて不審だと思ったんだが…」
話しながらどこかに怒りの念を飛ばしている。
その人はこれからヴァルトさんの家とは疎遠になるだろう。
初めて生まれた娘をそれはもう可愛がっているヴァルトさんが許すとは思えない。
(にしてもこれ……)
見た目からは魔道具に見えない。ヴァルトさんはよく気が付いたと思う。
魔道具を手に取ってみるとはっきりと正体が感じられる。
「どんな魔道具だ?」
「身体を弱らせたり意思を奪ったりするような物ではありませんよ。
対になった魔道具を持った人間に親しみを感じる程度でしょうか」
親しみを感じるだけ、といっても看過はできない。
アクセサリーを貰ったのなら、その家の人と会うときには身に着けるのが礼儀だろうし。
対の魔道具は歳が合うような息子がいれば、当然その子に身に着けさせる。
子供同士がが意気投合したらいずれは婚約者に、などと話を持ちかけるのだろう。
プレゼントを装った呪いの品と言った方が近いんじゃないかな。
マリナがつらつら説明を並べていくほどにヴァルトさんが無口になっていく。
怒ってる怒ってる……。
額に青筋を浮かべ魔道具を睨んでいた。
そりゃ怒るよね。
心の中で頷いてヴァルトさんに魔道具を返す。
「ありがとう、とても助かった」
「もしよければ掛かっている魔術だけ解きますよ?」
効果を知れば娘の側に置いておくのも嫌だろうと思って提案してみる。
「いや、大丈夫だ。
そっくりの腕輪を作らせてこちらは取っておくことにしたからな」
「……そうですか」
証拠の品として保管をするつもりなんだろうか、あるいは不審物としてジグ様たちの所へ持って行くのか。
マリナの話だけでは証拠として弱いし、王宮魔術師たちがきちんと報告書にしてまとめたほうが証拠能力は高い。
王子の側に侍る同僚とも言える関係上、どうしても身内の証言になってしまうから。
徹底的に追い詰めたければマリナ以外を頼るのが正しい方法だった。
ヴァルトさんが腕輪をしまう。
もう一度お礼を言って立ち去ろうとしたところでマリナを振り返る。
「そういえばマリナも誕生日を迎えたんだったな、おめでとう」
「ありがとうございます」
話の流れとはいえ珍しい。
「今日のお礼も兼ねて今度何か持って来よう」
「気を使わないでください」
「それはこっちの台詞だ。 仲間なんだから遠慮せず受け取れ」
珍しく言い募るヴァルトさんに抵抗しきれずマリナは頷くしかなかった。
周囲がどんどん変わっていく。
照れ臭いけどうれしい変化だ。
仲間―――。
一年前なら言えなかった言葉だけれど、今なら実感できる。
「ありがとうございます」
うれしさを素直に表情に出してお礼を言うと、ヴァルトさんもどことなく照れ臭そうに笑った。
「悪いマリナ、この腕輪を見てくれないか」
ヴァルトさんが出した腕輪を見て目を瞬く。
「どうしたんですかこの魔道具?」
綺麗な腕輪型の魔道具だ。
ずいぶん小さいので子供用だろうか。
「魔道具?! やっぱりか」
あの野郎、と小さく呟くヴァルトさん。
厄介事の予感。
「娘への誕生日プレゼントとして贈られたんだが、少し腑に落ちなくてな」
ヴァルトさんのお子さん…、娘と言ったから2歳になる下の子のことだろう。
誕生日が来たと言ったから3歳か。
普段冷静なヴァルトさんが娘さんのことになると顔を緩ませるのは近衛の間では有名だ。
「どなたからの贈り物ですか?」
随分と繊細な装飾が施されている。
これが2歳の子供への贈り物だというのだからすごい。
「ああ、贈ってきた相手はわかってる。
ただ贈ってきた相手との付き合いを考えると高価すぎて不審だと思ったんだが…」
話しながらどこかに怒りの念を飛ばしている。
その人はこれからヴァルトさんの家とは疎遠になるだろう。
初めて生まれた娘をそれはもう可愛がっているヴァルトさんが許すとは思えない。
(にしてもこれ……)
見た目からは魔道具に見えない。ヴァルトさんはよく気が付いたと思う。
魔道具を手に取ってみるとはっきりと正体が感じられる。
「どんな魔道具だ?」
「身体を弱らせたり意思を奪ったりするような物ではありませんよ。
対になった魔道具を持った人間に親しみを感じる程度でしょうか」
親しみを感じるだけ、といっても看過はできない。
アクセサリーを貰ったのなら、その家の人と会うときには身に着けるのが礼儀だろうし。
対の魔道具は歳が合うような息子がいれば、当然その子に身に着けさせる。
子供同士がが意気投合したらいずれは婚約者に、などと話を持ちかけるのだろう。
プレゼントを装った呪いの品と言った方が近いんじゃないかな。
マリナがつらつら説明を並べていくほどにヴァルトさんが無口になっていく。
怒ってる怒ってる……。
額に青筋を浮かべ魔道具を睨んでいた。
そりゃ怒るよね。
心の中で頷いてヴァルトさんに魔道具を返す。
「ありがとう、とても助かった」
「もしよければ掛かっている魔術だけ解きますよ?」
効果を知れば娘の側に置いておくのも嫌だろうと思って提案してみる。
「いや、大丈夫だ。
そっくりの腕輪を作らせてこちらは取っておくことにしたからな」
「……そうですか」
証拠の品として保管をするつもりなんだろうか、あるいは不審物としてジグ様たちの所へ持って行くのか。
マリナの話だけでは証拠として弱いし、王宮魔術師たちがきちんと報告書にしてまとめたほうが証拠能力は高い。
王子の側に侍る同僚とも言える関係上、どうしても身内の証言になってしまうから。
徹底的に追い詰めたければマリナ以外を頼るのが正しい方法だった。
ヴァルトさんが腕輪をしまう。
もう一度お礼を言って立ち去ろうとしたところでマリナを振り返る。
「そういえばマリナも誕生日を迎えたんだったな、おめでとう」
「ありがとうございます」
話の流れとはいえ珍しい。
「今日のお礼も兼ねて今度何か持って来よう」
「気を使わないでください」
「それはこっちの台詞だ。 仲間なんだから遠慮せず受け取れ」
珍しく言い募るヴァルトさんに抵抗しきれずマリナは頷くしかなかった。
周囲がどんどん変わっていく。
照れ臭いけどうれしい変化だ。
仲間―――。
一年前なら言えなかった言葉だけれど、今なら実感できる。
「ありがとうございます」
うれしさを素直に表情に出してお礼を言うと、ヴァルトさんもどことなく照れ臭そうに笑った。
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