180 / 368
セレスタ 弟さんの結婚式編
小さな黒犬
しおりを挟む
まともに目が見れなくなって5日を過ぎると流石にマリナも焦ってきた。
ヴォルフが王子と話しているときなどに、気が付くとヴォルフの顔を見つめている。
それなのに視線に気が付いたヴォルフがマリナを見ようとすると、ぱっと視線を外してしまう。
ヴォルフも同じようなことをしていて、顔を上げると慌てて目を逸らした横顔が目につく。
王子も近衛のみんなも段々呆れた顔からいいかげんにしろという顔に変わってきている。
他の人間に口を挿まれる前にちゃんと話をしないと、と思っても行動に移せずにいた。
「はあ…」
誰もいない空間で溜息を吐く。
城壁に座って色の混ざり合う空を見つめる。
誰かが来たらすぐにわかる場所でぼんやりと考え事をしていた。
(考えたくない…)
考えたくないと思っていてもマリナの中ではすでに結論が出ている。
ヴォルフから逃げたりメルヒオールと魔法を打ち合って発散させたりしてる感情の元。
気づきたくないからこれまで考えないできたのに。
「はぁ……」
さっきよりも深く溜息を吐く。
秋の陽は落ちるのが早い。
見る見るうちに空が暗くなり、星が瞬き出す。
ふと視界の端を何かが動いた気がした。
暗くても人影のような大きなものなら判別がつく。
視界を動いているのはもっと小さなものだった。
素早い動きで城壁の上に腰掛けたマリナの足元までやってきたのは…。
「ヴォルフ…?」
ちょこんと座って自分を見上げる黒い子犬に思わず問うような声になったのは仕方のないことだろう。
「何やってるの?」
言いたいことが多すぎて漠然とした聞き方になってしまう。
《これか? ラウールに変化の魔術をかけてもらった。
そうしたら何故か子犬の姿になってしまってな》
何故かってそれは絶対にわざとだ。
「師匠に魔術をかけてもらった? 犬になる魔術を?」
意味が分からない。何のために。
「よく師匠が承知したわね」
そういう仕事と関係ない魔術を使うのを師匠は嫌っている。
まして犬に変化させてほしいなんて、頷いたのが信じられない。
《マリナと話をしたいと頼んだら快く了承してくれたぞ》
「ああ、そう…」
後でマリナが文句を言われる気がする。
《これなら話をしてくれるかと思ったんだ》
真剣な瞳で子犬がマリナを見上げる。……可愛い。
「ホントにもう…」
城壁から降りて子犬ヴォルフの前に座る。
ヴォルフはぴこぴこ尻尾を動かしながらマリナの反応を見ていた。
まったく…、意表を突くことをしてくれる。
「そこまでしなくてもいいのに」
変化に慣れ過ぎだ。
わき腹に手を入れて抱き上げる。
膝の上に座らせると居心地が悪いのか落ち着きなく足を動かす。
城壁に寄りかかって後ろからヴォルフを抱きしめる。
暖かい身体を自分の腕とローブで包む。
「ありがとう」
慣れ親しんだ温もりにあれこれ考えて強張っていた表情が緩んでいく。
小さな頭を撫でる。すべすべした毛並に考えていたことが程よく飛んだ。
綺麗に順序立てて話すことなんてどうせできない。
浮かんだ想いも全て混ぜて話すことにした。
ヴォルフが王子と話しているときなどに、気が付くとヴォルフの顔を見つめている。
それなのに視線に気が付いたヴォルフがマリナを見ようとすると、ぱっと視線を外してしまう。
ヴォルフも同じようなことをしていて、顔を上げると慌てて目を逸らした横顔が目につく。
王子も近衛のみんなも段々呆れた顔からいいかげんにしろという顔に変わってきている。
他の人間に口を挿まれる前にちゃんと話をしないと、と思っても行動に移せずにいた。
「はあ…」
誰もいない空間で溜息を吐く。
城壁に座って色の混ざり合う空を見つめる。
誰かが来たらすぐにわかる場所でぼんやりと考え事をしていた。
(考えたくない…)
考えたくないと思っていてもマリナの中ではすでに結論が出ている。
ヴォルフから逃げたりメルヒオールと魔法を打ち合って発散させたりしてる感情の元。
気づきたくないからこれまで考えないできたのに。
「はぁ……」
さっきよりも深く溜息を吐く。
秋の陽は落ちるのが早い。
見る見るうちに空が暗くなり、星が瞬き出す。
ふと視界の端を何かが動いた気がした。
暗くても人影のような大きなものなら判別がつく。
視界を動いているのはもっと小さなものだった。
素早い動きで城壁の上に腰掛けたマリナの足元までやってきたのは…。
「ヴォルフ…?」
ちょこんと座って自分を見上げる黒い子犬に思わず問うような声になったのは仕方のないことだろう。
「何やってるの?」
言いたいことが多すぎて漠然とした聞き方になってしまう。
《これか? ラウールに変化の魔術をかけてもらった。
そうしたら何故か子犬の姿になってしまってな》
何故かってそれは絶対にわざとだ。
「師匠に魔術をかけてもらった? 犬になる魔術を?」
意味が分からない。何のために。
「よく師匠が承知したわね」
そういう仕事と関係ない魔術を使うのを師匠は嫌っている。
まして犬に変化させてほしいなんて、頷いたのが信じられない。
《マリナと話をしたいと頼んだら快く了承してくれたぞ》
「ああ、そう…」
後でマリナが文句を言われる気がする。
《これなら話をしてくれるかと思ったんだ》
真剣な瞳で子犬がマリナを見上げる。……可愛い。
「ホントにもう…」
城壁から降りて子犬ヴォルフの前に座る。
ヴォルフはぴこぴこ尻尾を動かしながらマリナの反応を見ていた。
まったく…、意表を突くことをしてくれる。
「そこまでしなくてもいいのに」
変化に慣れ過ぎだ。
わき腹に手を入れて抱き上げる。
膝の上に座らせると居心地が悪いのか落ち着きなく足を動かす。
城壁に寄りかかって後ろからヴォルフを抱きしめる。
暖かい身体を自分の腕とローブで包む。
「ありがとう」
慣れ親しんだ温もりにあれこれ考えて強張っていた表情が緩んでいく。
小さな頭を撫でる。すべすべした毛並に考えていたことが程よく飛んだ。
綺麗に順序立てて話すことなんてどうせできない。
浮かんだ想いも全て混ぜて話すことにした。
0
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる