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セレスタ 弟さんの結婚式編

危険な遊び

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 王子が書き上げた書類を束の一番上に置く。
「これで終わりですね」
 書類が混ざっていないか確認してそれぞれの部署宛に並べる。
「ああ、運ばなくていいよ。 取りに来ることになっているから」
「わかりました」
 分け終わったところで扉を叩く音が聞こえた。
 折よくそれぞれの担当官が出来た書類を取りに入ってくる。
 手際よく自分の部署の書類をチェックするのを見ながら黙って座っているヴォルフをの気配を探る。
 あれから数日、まだヴォルフとはちゃんと話をできていない。
 仕事の話は普通に出来ているけれど、それ以外の話をする時間が極端に減った。
 一緒にいる時間が減っているから当たり前なんだけど。
 どうしたらいいのかわからず当たり障りのない態度しか取れない。
 あの日、師匠と朝ごはんを食べて執務室に向かった。
 王子と共にその日の予定を確認しているところにヴォルフが入って来た。
 気まずくて何を言っていいのかもわからなくてヴォルフを見て。
 瞳が合った瞬間、ヴォルフが目を逸らした。
 自分でも驚くほどのショックを受けていた。
 それから、普段通りと言い聞かせながら目もろくに会わせられない日々が続いている。



 もやもやする気持ちは発散させるに限ると結界が張られた空間で魔術を行使する。
 レイフェミア様にもシャルロッテにも心配されてしまった。
 普通にしているつもりでも不和を見つける人はいるらしい。
 上手くいっていないのではないか、そんなことが期待と共に語られていると聞いた。
 人がいないのを幸いと地面を覆うほどの大きさで魔力陣を作る。
 細かく描かれた紋様は一種の絵画のようだった。
 大きな魔力陣を維持しながら空中に小さな魔力陣を作り出す。
 いくつ作れるか、ふと好奇心が湧く。
 一度陣を消して新たに小さな陣をいくつも描いていった。
「ふうっ…」
 規則正しく並んだ紋様を見て満足の溜息を吐く。
 自分の制御能力に感心していると後ろから呆れを含んだ声が聞こえてきた。
「なんつー魔力の無駄遣いしてんだか」
「メルヒオール」
 発光する魔力陣を消して向き直る。
 消えた魔力陣をなぞるように地面を見つめ、マリナに目を移す。
「アンタがこっちに来るとあの変な奴まで来るからあんま来ないでほしいんだけど」
 その台詞に連想されるのは一人だけ。
「ミリアム様にはこちらの建物に近づかないように伝えましたけれど」
 マリナとジグ様両方の注意を無視するようなことはしないと思う。多分だけれど。
「ふーん? まあいいけど」
 興味なさそうに呟く。その声の響きに違和感を抱く前にメルヒオールが魔法を放つ。
 空に散る火花に目を細める。一瞬だけ花のように見えた火花は綺麗だけど危険なものだ。
「せっかくだから、魔術比べでもする?」
 つまらなそうな顔の中で目だけぎらぎらと輝かせてメルヒオールが言う。
 ストレス発散をしたいのはマリナだけではなかったようだ。
「重ね陣ならいいですよ」
 重ね陣はその名のとおり、魔力陣を重ねていくゲームだ。同じ大きさの魔力陣を交互に作り重なって見えるほどに近づける。
 制御するのが難しい魔力陣を多数、極近くに作るという非常に難しい遊びだ。
 おもしろいのは作り出した陣をどうやって相手の制御を失わせるかというところ。
 相手の動揺を誘い魔力陣を崩させるのがこのゲームの醍醐味だ。
 行きつくのが魔力陣の暴発というお互いに危険な遊びでもある。
「やだよ、何でお前の得意な方に合わせないといけないんだよ」
 メルヒオールも得意な方なのにそんなことを言う。
 ストレス発散という目的からずれているから嫌なのか。
 魔力陣をわざと暴発させたらジグ様が怒りそうなので諦めて別のことで発散することにした。
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