双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 弟さんの結婚式編

表面上の穏やかさ

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 食事の用意をする背中を見ると楽しみにじっと座っていられない。
 うろうろしても邪魔だろうから皿の準備をするに留まっている。
 弟子志願とかいう令嬢から逃げるため、マリナが頻繁に食事を作ってくれるようになった。
 共にいる時間が増えたことは純粋に喜ばしい。
 王宮で出されるものとはまた違う手料理がうれしいのも確かだった。
 マリナが作る料理は特別変わった物ではないのに不思議と味が馴染む。
 執務が終わって真っ直ぐヴォルフの部屋に来るのが習慣になりつつある。
 一緒に食事をする機会はこれまで限られていたので新鮮だ。
 意外とマリナは好き嫌いがあるなど、発見がある。
 以前聞いた通り、肉の脂身は本当に嫌いらしく絶対に食卓に上らない。
 ヴォルフも別に好きなわけではないので構わないが、徹底している。
 後はあまり味の濃い物が好きではないとか酸味のある果物が好きだとか、些細なことだが見つけると楽しい。
 日本にいたときと同じような穏やかに流れる時間は愛おしいものだった。
 穏やかな時間を壊すのも自分だったが。
「…っ」
 マリナはどうしてこうなったのかわからないという瞳でヴォルフを見つめている。
 その瞳がさらにヴォルフを煽ることになるとは想像もしていない。
 優しく触れたいと思うのと同時に、困らせてやりたいとも思う。
 矛盾しているはずの思考は、全く反せずヴォルフの中で暴れていた


 食事をして身体が熱くなったせいか、マリナはローブを脱いでソファに寄りかかっていた。
 たった一枚上着を脱いだだけなのに、酷く気になってしかたない。
 普段厚いローブに覆われている肩の線や首筋が見えているだけでどうしようもなく惹かれる。
 日本にいた頃の衣装の方が余程薄くて無防備だったが、あの時はどうとも思わなかった。
 襟ぐりから覗く鎖骨のラインから目が逸らせない。
 ヴォルフの視線に全く気が付かないでくつろいでいるマリナにちょっとした悪戯を仕掛けたくなった。
 ひょいっとソファの上に引き上げ、背もたれに押し付ける。
 慌てた気配に笑みが浮かぶ。
 マリナの肩を押さえたまま、瞳を覗き込む。
 動揺を見せる瞳に悪戯心が湧いて困る。
 合わせた瞳からは困惑と、微かな期待が見えた。
 もしかしたら期待は自分の願望かもしれないが。
 何を考えているのか見通せるほど自分は感情の機微に敏くない。
 それでも昔よりはわかるようになった。
 知りたいという原動力が大事なのだと思い知らされるな。
 瞳を合わせたまま頬を撫でる。
 ぴくりと震えても手を振り払ったり魔力を暴走させることもない。
 最近はこうして触れても犬にされることが減った。
 慣れただけなのか、それともここまでをマリナが許してくれているのか。
 どちらかによって自分の理性が危うくなる。
 今でさえギリギリのところで保っているというのに。
 あまり無防備になられるとこっちも困るんだ。
 衝動を誤魔化すように優しく触れる。
 許されているなんて錯覚の果てに傷つけるようなことはしない。
 こうして触れているだけでも、わりと満たされている自分がいた。
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