双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 弟さんの結婚式編

つかの間の平穏

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 ミリアム様の来訪より十日。
 諦めたら終わり、そう言った彼女はしつこく食い下がっていた。
 流石に毎日ではないもののかなりの頻度で会いに来る彼女は、変わらず弟子志願のお願いをしに来る。
 本当にお願いだけだというのが始末に負えない。
 取引を持ち出したり、脅しをかけてくるようなことがあれば問答無用で叩き出すのに、そんな失策は取らない。
 関心すると共にうんざりする。
 執務を終え、自室に向かって歩く。
 ここは王宮でも限られた人しか近づけない場所なので彼女に遭遇することはない。
 うっかり迷い込みました、が通じる場所と通じない場所がある。
 彼女もそれはわかっていて自分に非があるとみられるような行為はしないのだ。
 おかげで最近マリナが歩ける場所は限られてきている。
(あー、ヴォルフに言われて魔道具を買っておいて良かった…)
 食材は伝えておけば女官などが部屋に運んでくれる。
 出くわす可能性のある場所を歩くくらいなら部屋で自炊した方がマシだ。
 食堂のご飯はおいしいけれど、あそこも面倒な人がいる。
 連日のミリアム様の攻勢でぐったりしていたマリナは、この上食堂でおばさんの話を聞く元気はなかった。
 そのためヴォルフの部屋で届いた魔道具を使って料理を作っている。
 テーブルに並んだ料理を見てヴォルフが嬉しそうに目を輝かせた。
 一人分作るのも二人分作るのも大した違いはない。
 ヴォルフの部屋に来て自分のご飯だけ作るのも中々酷いと思うので、最近はいつも一緒にご飯を食べている。
 それが出来るのも王子がレイフェミア様と上手くいっているおかげだ。
 婚約の話が出るのはいつになるんだろう。
 すでに王子とレイフェミア公爵夫人が親しくしているという噂は広まっているのであとは正式に婚約を発表し、国外に発信するだけである。
 双翼や近衛たちにまだ話が回ってこないので年明けか、もしかしたら王子の誕生日に合わせた発表にするつもりかもしれない。
 そうしたら来年の春は忙しいだろう。
 こうしてのんびり出来るのは今の内だけかもしれない。
 パンをちぎりながら今後の予定を予想する。
 セレスタにご飯お米は無い。
 パンはあるものの、素人のマリナが自分で焼けるわけもなく、それだけは食堂から持って来てもらっている。
 おかずだけ作って後は買ってきた物を食べるというのが日本にいたころからのマリナの食事スタイルだ。
 ヴォルフも文句を言わず、嬉しそうに食べている。
「うまい」
「良かった」
 率直な感想にマリナも素直に言葉を返す。
 こうして一緒にご飯を食べていると不思議とあの日本の部屋に帰ったような気分になった。
 立場や役割を忘れるわけではないけれど、安らいだ気持ちになれる。
 そのためか油断し過ぎて危ない目に合うこともしばしば。
「…っ」
 ソファに押さえつけられて瞳を覗き込まれ、息を呑む。
 どくどくと心臓が波打って苦しい。
 目を見られていると逃げられない感じがして焦ってしまう。
 唇が触れ合うほどの距離で瞳を覗かれると心の中まで覗かれてしまいそうだ。
 動けないで固まっていると真顔のままで頬を撫でられた。
「あんまり隙を見せるな」
 やっぱり下に絨毯が敷いているからといって、床に座ってソファに寄りかかっていたのは駄目だったか。
 ヴォルフはソファに座っていたのでだらしないと思われたのかもしれない。
 後ろから急に手が伸びて来たのかと思ったらそのままソファに押さえつけられたのだ。
 真剣な瞳は呆れとも憤りとも違う色を見せている。
 時折見せるその色はとても激しくて震えるほど美しい。
 この瞳を見返せるほどには接触にも慣れてきた。
 自分からも触れ返したいと思うくらいには。
 ただ、何の心構えもせずに試すには危険な行為のため、まだ実行には至っていない。
 誘惑に負けたら危ないのは自分の方なのはわかっていた。
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