双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 弟さんの結婚式編

魔術師たちの巣窟

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 一人で部屋にいてもゆっくり出来ないので外に出てきた。
 王宮には無数の人が働いているけれど、探せば死角はいくらでもある。
 マリナが今いる庭園などはその筆頭だろう。
 王宮魔術師がいる棟の前にあるこの庭は王宮勤めの人間が息抜きにやって来ることはまずない。
 危険物もあるし危険人物もいる空間で休もうとするほど疲れている人はいないはずだ。
 そこまで判断能力が無くなる前に上司が休暇を取らせるだろう。
 しかし何が危険かさえわかればちょっと人に会いたくない時なんかは重宝する場所になる。
 太陽の当たらない裏側で建物に寄りかかって足を伸ばす。
 だらしない格好だけど人がいないここなら少しくらいかまわない。
 ここを通る人間なら同類だろうから気にする必要はなかった。
 ひんやりした空気が頭を冷やしてくれる気がする。
 ここならヴォルフのことを考えても先程のような熱に浮かされることはない。
 視界に誰かが抉った石が見えるからだろうか。
 建物の裏口に続いて等間隔に配置されている飛び石に大きな傷が付いている。
 割れてこそいないけれど何をやったんだろう。
(あーあ、弁償だよね。 これは)
 実験場でならともかく関係ない場所を壊したらお咎めがあって当然だ。
 王宮魔術師は高級取りなので懐もさして痛まないだろうけれど、続けば研究に必要な素材が買えなくなる。
 そうやっていても思い立った瞬間に行動してしまう人間がいるから困るのだけれど。
 そう、こういう人間が。
 上から飛び降りてきた人間を見てため息を吐く。
「また師長に怒られますよ」
 振ってくる窓枠を魔力障壁で防ぎながら注意する。
 飛び降りるときに力を入れ過ぎたせいで破壊した窓枠は最上階から降ってきた。
 怪我をしたらどうするんだか。
 メルヒオールは悪びれずにマリナの前に立って見下ろしてくる。
 悪いことをしたなんて欠片も思っていないメルヒオールは自分の用件だけを伝えてきた。
「帰って来てるなら早く顔を出せよ。 アンタの許可が無ければ師長があの魔道具触らせてくれないんだ」
「はいはい…」
 そんな話だとは思った。勝手に触らないだけ偉いと思ってしまうのは相手がメルヒオールだからだ。
 文句を言った所で意味がないのでマリナも余計なことは言わない。
「上がるから待ってください」
 入口に向かって歩き出したマリナをメルヒオールの声が止める。
「上から行った方が早いだろ」
 無駄な動きをするのが理解出来ないと言いたげにしながら後ろを付いてきた。
 見かけた女官にメルヒオールが壊した窓枠の修理の手配を依頼する。
 女官も慣れているのでちらりとメルヒオールを見ただけで何も言わずに下がった。
 部屋に篭っているのか人がいない廊下を進み、階段を上る。
 最上階にある魔術師長の部屋、扉の前に立ってノックをしようとしたマリナが手を上げたら扉が勝手に開かれた。
 言うまでも無く開けたのはメルヒオールだ。
 書類にペンを走らせていた魔術師長は手を止めることなく書き物を終え、マリナたちに向き直った。
「帰ってきて早々にすまない」
「いえ、時間が空いたときに来るようにとのことでしたので」
 本当は明日にしようと思っていたのだけれど、それを彼に言っても仕方ない。
「どうせ暇してたんだからすぐに来るのは当然だよ」
 メルヒオールの言にジグ様が青筋を立てる。
「それで、結果はどうでしたか?」
 無視して話を進めるとジグ様が重々しく話し出す。
「マリナが懸念していたところは残念ながら予想通りだ」
 やっぱり。危険度を聞いて楽しそうに目を輝かせた人間を殴っても許されるだろうか。
「これを使っての探知だけなら基本的に失敗はしないが、これを起点に魔法を行使する場合はフィル程度の能力がないと暴発する危険が高い」
 次期魔術師長とも言われているフィルさん程でないと使えないと聞いて安心した。
「そんなことはいいから貸してくれる?」
 詳しい話を聞いているとメルヒオールが割り込んでくる。
「…」
 ジグ様を見ると大丈夫だと頷いている。予想できる危険は全て試したようだ。
「どうぞ、ただし二日だけです。 終わりましたら取りに来ますのでそれまでお好きにどうぞ」
 長く貸すと寝食忘れて倒れかねない。
 二日程度なら時々女官が様子を見に行けば倒れるようなことにはならないだろう。
 メルヒオールならジグ様やフィルさんが予想できなかった使い方や危険を見つけるかもしれない。
 そう思うからこそ止められなかった。
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