双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 弟さんの結婚式編

王都に戻り

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 王宮に着いて荷物を降ろす。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
「ああ、親父によろしく伝えてくれ」
 御者さんはこれからまた侯爵家に戻る。それが仕事ではあるんだけど大変そう。
「お世話になりました」
 マリナも道中のお礼を述べる。
 何故か御者さんは満面の笑みを浮かべていた。
「いえいえ、これからもヴォルフ様をよろしくお願いします」
 侯爵からの伝言です、とにこやかに言って立ち去る。
 ヴォルフが睨んでも気にしていないようだった。
 侯爵はどうしてもヴォルフをからかいたかったらしい。


「ただいま戻りました」
 ヴォルフと揃って帰還の挨拶をする。
 王子は笑みを浮かべて迎えてくれた。
「おかえり、つつがなく進んだかな?」
「ええ、概ね」
 披露宴は滞りなく済んだ。お酒の件は許容範囲のトラブルだ。
 その後の話は内々の話なので王子にわざわざ話すことはない。
 必要があれば別だけれど、必要になる機会なんてこないと思う。
「やっぱりアクシデントはあったんだね」
 王子が苦笑する。やっぱりってなんでしょうか。
「近衛騎士たちと内務卿で話していたんだ。
 婚約して初めての顔見せになるだろう? 絶対に絡んでくる人間がいるとね」
 人がいないところで何を話しているんだか。しかし実際に絡まれたので何も言えない。
「ともあれお疲れ様。 ゆっくり休んで、と言いたいけれど進捗だけ確認してくれるかな」
 明日からの執務が滞りなく行えるように休んでいた間の流れを聞く。
 特別異変は無かったようで予定通りに進んでいる。
 後は近衛のみんなに異常がなかったか確認したら部屋に戻るつもりだ、一応今日までは休暇期間なので。
 執務室を出ようとしたら王子がマリナに声をかける。
「そういえばマリナ、魔術師長が時間のある時に顔を出してくれと言っていたよ」
「わかりました」
 魔道具の検証が終わったんだろうか、結構時間がかかったのはそれだけ危険な魔道具だということだ。
 時間のある時というなら急がなくてもいいんだろうけれど…。
 メルヒオールが騒ぎ出しそうな気がする。
 出来るだけ早めに顔を出すことにしよう。
 留守中におかしな動きを見せる者がいなかったかなどジークさんから引き継ぎを受けて自室に戻った。




 部屋に戻って荷物の片づけをする。
 このドレスもアクセサリーもまたしばらく出番がない。
 ドレスの方はもう袖を通すことがないかも。
 もったいないけれど、そういうものだ。
 鞄の隅に詰められた置き物を手に取って机に乗せる。
 行きに寄った街で目を留めた動物の置き物。
 手のひらに乗せられるくらい小さいそれを見ると胸が温かくなっていく。
 ヴォルフから渡されたときは驚いた。内緒で買っていてくれたなんて気づかなかった。
 帰りの宿で渡された時はうれしくて自分から抱きついてしまったくらいだ。
 それまでの危険を感じるくらい甘い瞳が優しく穏やかなものに変わって正直マリナはほっとした。
 思い出すと恥ずかしさでいたたまれない。
 ふとした瞬間にヴォルフの感触が思い出されて暴れそうになる。
 それくらい鮮やかで強い刺激を持った記憶だった。
 繰り返し触れる唇は優しくて、幸せが次から次に溢れて。
 性急なものでないからか、慣れてきたからなのか、魔力が暴走することはなかった。
 一度も犬に変えられなかったヴォルフはとてもうれしそうだった。
 ひとつ口づけを落とす度に幸せそうに笑うヴォルフから目を離せなくなる。
 触れ合うたびに甘さを深める瞳に、自分も同じような瞳をしているのかもしれないと思ったら眩暈のように頭の奥が揺れて。
 崩れ落ちそうな身体を支えようと服を掴んでヴォルフを見上げたら、まるで自分から引き寄せているような格好だと理性が囁いた。
 瞳が絡んだ瞬間、震えた身体が衝動を抑制した。
 怯えと、期待。どちらが勝っていたのかは自分でもわからない。
 恥ずかしすぎる記憶に勝手に顔に熱が上っていく。
(信じられない…)
 もう少し触れてほしかったと思っていた自分にさらに熱が上がった。
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