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セレスタ 弟さんの結婚式編
雨音に見た夢
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雨が降っている。
眠りながらそんなことを思う。
僅かに浮上する意識が雨音を捉え夢の景色を塗り替えた。
陽の射さない部屋は薄暗く陰鬱な印象を与えている。
小さな鞄一つに収まった荷物を見つめて息を吐く。
必要な物は王都に着いたら師匠となる人が用意してくれるから、自分が持って行くのは道中使う最低限の物だけでいい。
着替え数着しか入っていない鞄は軽い。長旅になるらしいけれどこれなら余裕だと思う。多分。
どんな旅路になるのか、村の外に出たことのない自分にはあまり想像がつかない。
それでも不安より興奮の方が勝っている。
部屋を出て家の中を見回す。
家の中には誰もいない。こんな日にさえ。
鞄を持って外に出る。扉を開ける前、一度だけ部屋の中を振り返る。
そこには先程と変わりなく空虚な空間が広がっているだけだった。
建物の外に立っていた師匠はもういいのか、と目線で問いかけてくる。
頷きを返して歩き出す。ちらりと向けた目にどういう感情が宿っているのか、マリナには見えなかった。
村を出てこの人について行くことに迷いはない。
王宮に仕える医務官だというこの人はマリナが納得するまで話をしてくれた。
稀有なほどの魔力と魔術を扱う適正があるということ、自分の弟子になった場合の待遇。
王宮で暮らすことの利点や問題点、包み隠さず話した上で好きに選ぶように言った。
騙して連れ去ることも可能だったのに、それをせずに選ばせてくれたこの人は多分優しい人なんだろう。
自分なりに納得して決めた。
だから後悔もしない。
もうこの場所に戻ることはないだろう。
夢の中では降りしきる雨が故郷の姿を霞めさせていく。
やはりこれは夢でしかない。
マリナが村を出た日は雲一つない快晴だったのだから。
ばっと目を開けて身を起こす。
嫌な汗が身体を濡らしていて、気が付くと同時に身体が冷えてきた。
「どうしたんだ、急に」
少しぼんやりした声ヴォルフの声が聞こえる。
首を向けると馬車の座席に凭れるヴォルフが目に入った。
その姿を目にして自分の姿を思い出す。
(そう、そうよね…)
ちらりと目を落とすと成長した手といつも着けている指輪が目に入った。
現実だと確認すると力が抜けた。ヴォルフの胸に顔を埋めて目を強く瞑る。
「マリナ? どうした?」
不思議そうな声に一言だけ答える。
「嫌な夢を見ただけよ」
呼吸が少し苦しい。ゆっくりと息を吸って吐き出すと少しだけ楽になった。
ヴォルフの手がマリナの頭を撫でてくれる。
優しい動きに泣きそうな気持ちになった。
強く胸に顔を押し付けると、肩を抱いていた手が背に回り、あやすように撫でられる。
悪い夢見に騒いでいた胸の中が落ち着いていく。
ヴォルフの背に手を回しぎゅっと抱き締めると、規則正しい鼓動が聞こえた。
「外、雨降ってる?」
夢と重なった雨音は現実だったのだろうか。
「いや、雨は降ってない。 川の音じゃないか?」
「そう?」
川の音にしてはやけに大きく聞こえた気がしたのだけれど。
それも夢の中だけで聞いた音だったんだろうか。
ぼんやり考えているとヴォルフの手が頭をぽんぽんと叩く。
「まだ宿には着かないからもう少し寝てろ。 着いたら起こしてやるから」
「うん…」
ヴォルフの腕がさっきよりも強くマリナを引き寄せる。
もう嫌な夢を見ないように、マリナはヴォルフの鼓動だけを聞いていた。
眠りながらそんなことを思う。
僅かに浮上する意識が雨音を捉え夢の景色を塗り替えた。
陽の射さない部屋は薄暗く陰鬱な印象を与えている。
小さな鞄一つに収まった荷物を見つめて息を吐く。
必要な物は王都に着いたら師匠となる人が用意してくれるから、自分が持って行くのは道中使う最低限の物だけでいい。
着替え数着しか入っていない鞄は軽い。長旅になるらしいけれどこれなら余裕だと思う。多分。
どんな旅路になるのか、村の外に出たことのない自分にはあまり想像がつかない。
それでも不安より興奮の方が勝っている。
部屋を出て家の中を見回す。
家の中には誰もいない。こんな日にさえ。
鞄を持って外に出る。扉を開ける前、一度だけ部屋の中を振り返る。
そこには先程と変わりなく空虚な空間が広がっているだけだった。
建物の外に立っていた師匠はもういいのか、と目線で問いかけてくる。
頷きを返して歩き出す。ちらりと向けた目にどういう感情が宿っているのか、マリナには見えなかった。
村を出てこの人について行くことに迷いはない。
王宮に仕える医務官だというこの人はマリナが納得するまで話をしてくれた。
稀有なほどの魔力と魔術を扱う適正があるということ、自分の弟子になった場合の待遇。
王宮で暮らすことの利点や問題点、包み隠さず話した上で好きに選ぶように言った。
騙して連れ去ることも可能だったのに、それをせずに選ばせてくれたこの人は多分優しい人なんだろう。
自分なりに納得して決めた。
だから後悔もしない。
もうこの場所に戻ることはないだろう。
夢の中では降りしきる雨が故郷の姿を霞めさせていく。
やはりこれは夢でしかない。
マリナが村を出た日は雲一つない快晴だったのだから。
ばっと目を開けて身を起こす。
嫌な汗が身体を濡らしていて、気が付くと同時に身体が冷えてきた。
「どうしたんだ、急に」
少しぼんやりした声ヴォルフの声が聞こえる。
首を向けると馬車の座席に凭れるヴォルフが目に入った。
その姿を目にして自分の姿を思い出す。
(そう、そうよね…)
ちらりと目を落とすと成長した手といつも着けている指輪が目に入った。
現実だと確認すると力が抜けた。ヴォルフの胸に顔を埋めて目を強く瞑る。
「マリナ? どうした?」
不思議そうな声に一言だけ答える。
「嫌な夢を見ただけよ」
呼吸が少し苦しい。ゆっくりと息を吸って吐き出すと少しだけ楽になった。
ヴォルフの手がマリナの頭を撫でてくれる。
優しい動きに泣きそうな気持ちになった。
強く胸に顔を押し付けると、肩を抱いていた手が背に回り、あやすように撫でられる。
悪い夢見に騒いでいた胸の中が落ち着いていく。
ヴォルフの背に手を回しぎゅっと抱き締めると、規則正しい鼓動が聞こえた。
「外、雨降ってる?」
夢と重なった雨音は現実だったのだろうか。
「いや、雨は降ってない。 川の音じゃないか?」
「そう?」
川の音にしてはやけに大きく聞こえた気がしたのだけれど。
それも夢の中だけで聞いた音だったんだろうか。
ぼんやり考えているとヴォルフの手が頭をぽんぽんと叩く。
「まだ宿には着かないからもう少し寝てろ。 着いたら起こしてやるから」
「うん…」
ヴォルフの腕がさっきよりも強くマリナを引き寄せる。
もう嫌な夢を見ないように、マリナはヴォルフの鼓動だけを聞いていた。
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