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セレスタ 弟さんの結婚式編
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屋敷に戻ったらクリスさんが飛び出してきた。
「マリナさんっ、ありがとう!!」
マリナを抱きしめながら泣き崩れるクリスさんの背をアレクさんが撫でる。
「クリスさん、大丈夫ですよ、ちゃんと取り戻してきましたから」
空いた手でマリナもクリスさんの肩を叩く。
顔を上げて確認してくれるようお願いをする。
布を開いて見せるとまた瞳を潤ませた。
手の平に石を乗せ両手で包み込む。
本当に良かった、とクリスさんを見ていると侯爵からも労いの言葉が掛けられる。
「よくやってくれた、二人とも」
侯爵の後ろに控える執事さんも安堵の表情でクリスさんを見つめていた。
「こんなに早く取り戻して来るとは思いませんでした、ありがとうございます」
アレクさんが謝意を述べる。
それにまた感極まったのかクリスさんも声を上げた。
「本当に、本当にありがとう!!」
お礼の言葉と共に再度抱きしめられる。うれしさのあまり力一杯の抱擁。
意外と力があるなーと思っていると侯爵が苦笑しながらクリスさんを止める。
「アレクとクリスは明日早いのだろう。 そこまでにして今日はもう休みなさい」
侯爵の言葉にクリスさんもはっとしたように身体を離す。
「そうですね、失礼しました」
うん、寝不足の花嫁なんていただけない。
主役の二人が寝不足で精彩を欠くようなことがあってはいけないと思う。
「では私たちは先に休ませていただきます。 兄上もマリナさんも本当にありがとうございました!」
アレクさんとクリスさんがそれぞれの部屋に戻っていく。
扉が閉じられたところで侯爵がヴォルフとマリナを呼んだ。
「疲れているところ悪いが、どうなったか聞かせてくれ」
「ああ、わかってる」
「はい」
頷くと応接室に通された。
執事さんが飲み物を用意してくれる。
遅い時間なのに配慮してかお茶ではなかった。
侯爵に説明をしながら馬車にいた令嬢を思い出す。
「では、令嬢には忠告をして終わったと」
「ええ、件の令嬢は鳥にして放り出すという言葉に大層怯えていましたので、十分かと」
反省したかどうかはわからないけれど、あそこまで怖がらせたら近づいてこないだろう。
「そうか、謝罪もしてもらったことだしご両親には手紙で忠告するくらいにしておくかな。
私が直接出向いて注意をすることにならなくて良かったよ、あそこのご両親とはそれなりの付き合いだからね」
侯爵の負担にならない落としどころに持っていけそうで良かった。
ほっと胸を撫で下ろす。
「しかしグレッツナーのご令嬢も一緒になって楽しんでいたとは…」
馬車に一緒に乗っていたご令嬢のことだろう。
あの瞳と声に篭った…、熱情。理解することを感情が拒んでいる。
あんな目をする人間を知っていた。
王宮にいる同類を思い出すと印象が重なる。
目を伏せてため息を吐く。
メルヒオールと同じような人間だというだけで嫌な予感しかしない。
彼女は友人の行為を悪いと知っていて楽しんでいた。
マリナたちが取り返しに行ったこともそれはそれで面白かったと思っているに違いない。
「おや、疲れたかな。 すまないね、話を聞きたいばかりに引き留めてしまって」
気がつけば随分と遅い時間だ。
「侯爵様こそお疲れでしょう。 今回の式には色々と気を配られたのですから」
明日おふたりを見送ったらどっと疲れが出るのではないでしょうか。
体調を崩さないといいけれど、季節の変わり目でもあるし。
「大丈夫ですよ。 私は皆を見送ったらゆっくり休めるので」
侯爵は穏やかに微笑んでいたけれどやっぱり少し寂しいのではないかと思った。
翌日、侯爵家を出発するクリスさんたちを見送る。
首飾りを取り戻して帰ったのはかなり遅い時間だったのでみんな寝不足だろうけれど、表情には出さない。
クリスさんもアレクさんも明るい顔で挨拶をして出発した。
「やれやれ、一時はどうなることかと思ったが…。 無事出発出来て良かった」
侯爵が疲れの滲んだ溜息を零す。
ただでさえ準備などで疲れていただろうに追い打ちをかけるような事件で大変だ。
「全くだ」
ヴォルフも同調する。これから馬車に揺られて帰るのかと思うと少し憂鬱だ。酔ったらどうしよう。
すぐに眠ってしまえばその心配もいらないのだけれどね。
「お前たちも昼前には出発するんだろう? もう少しゆっくりしていけばいいものを」
厚意はありがたいけれど、申請した休暇が終わる前に帰らないといけない。
「どうせまた王都にもくるだろう?」
ヴォルフが面倒くさそうに答える。
確かに雪が降り始める頃には王宮で規模の大きな夜会が開かれるので侯爵は出席するだろう。けれど、せっかくの気づかいにその答えでいいんだ。
「息子は可愛げがなくてつまらんな。
マリナさん、王都に行った時はよろしく。 一緒に食事でもしましょう、そこの息子は除いて」
にこやかに言う侯爵はわざとヴォルフをからかっている。
「是非」
マリナもにっこりと笑って返事をする。時間が取れるかはその時になってみないとわからない。
侯爵の話はおもしろいので是非とも時間を空けられることを望む。
また、の再開がとても楽しみだった。
「マリナさんっ、ありがとう!!」
マリナを抱きしめながら泣き崩れるクリスさんの背をアレクさんが撫でる。
「クリスさん、大丈夫ですよ、ちゃんと取り戻してきましたから」
空いた手でマリナもクリスさんの肩を叩く。
顔を上げて確認してくれるようお願いをする。
布を開いて見せるとまた瞳を潤ませた。
手の平に石を乗せ両手で包み込む。
本当に良かった、とクリスさんを見ていると侯爵からも労いの言葉が掛けられる。
「よくやってくれた、二人とも」
侯爵の後ろに控える執事さんも安堵の表情でクリスさんを見つめていた。
「こんなに早く取り戻して来るとは思いませんでした、ありがとうございます」
アレクさんが謝意を述べる。
それにまた感極まったのかクリスさんも声を上げた。
「本当に、本当にありがとう!!」
お礼の言葉と共に再度抱きしめられる。うれしさのあまり力一杯の抱擁。
意外と力があるなーと思っていると侯爵が苦笑しながらクリスさんを止める。
「アレクとクリスは明日早いのだろう。 そこまでにして今日はもう休みなさい」
侯爵の言葉にクリスさんもはっとしたように身体を離す。
「そうですね、失礼しました」
うん、寝不足の花嫁なんていただけない。
主役の二人が寝不足で精彩を欠くようなことがあってはいけないと思う。
「では私たちは先に休ませていただきます。 兄上もマリナさんも本当にありがとうございました!」
アレクさんとクリスさんがそれぞれの部屋に戻っていく。
扉が閉じられたところで侯爵がヴォルフとマリナを呼んだ。
「疲れているところ悪いが、どうなったか聞かせてくれ」
「ああ、わかってる」
「はい」
頷くと応接室に通された。
執事さんが飲み物を用意してくれる。
遅い時間なのに配慮してかお茶ではなかった。
侯爵に説明をしながら馬車にいた令嬢を思い出す。
「では、令嬢には忠告をして終わったと」
「ええ、件の令嬢は鳥にして放り出すという言葉に大層怯えていましたので、十分かと」
反省したかどうかはわからないけれど、あそこまで怖がらせたら近づいてこないだろう。
「そうか、謝罪もしてもらったことだしご両親には手紙で忠告するくらいにしておくかな。
私が直接出向いて注意をすることにならなくて良かったよ、あそこのご両親とはそれなりの付き合いだからね」
侯爵の負担にならない落としどころに持っていけそうで良かった。
ほっと胸を撫で下ろす。
「しかしグレッツナーのご令嬢も一緒になって楽しんでいたとは…」
馬車に一緒に乗っていたご令嬢のことだろう。
あの瞳と声に篭った…、熱情。理解することを感情が拒んでいる。
あんな目をする人間を知っていた。
王宮にいる同類を思い出すと印象が重なる。
目を伏せてため息を吐く。
メルヒオールと同じような人間だというだけで嫌な予感しかしない。
彼女は友人の行為を悪いと知っていて楽しんでいた。
マリナたちが取り返しに行ったこともそれはそれで面白かったと思っているに違いない。
「おや、疲れたかな。 すまないね、話を聞きたいばかりに引き留めてしまって」
気がつけば随分と遅い時間だ。
「侯爵様こそお疲れでしょう。 今回の式には色々と気を配られたのですから」
明日おふたりを見送ったらどっと疲れが出るのではないでしょうか。
体調を崩さないといいけれど、季節の変わり目でもあるし。
「大丈夫ですよ。 私は皆を見送ったらゆっくり休めるので」
侯爵は穏やかに微笑んでいたけれどやっぱり少し寂しいのではないかと思った。
翌日、侯爵家を出発するクリスさんたちを見送る。
首飾りを取り戻して帰ったのはかなり遅い時間だったのでみんな寝不足だろうけれど、表情には出さない。
クリスさんもアレクさんも明るい顔で挨拶をして出発した。
「やれやれ、一時はどうなることかと思ったが…。 無事出発出来て良かった」
侯爵が疲れの滲んだ溜息を零す。
ただでさえ準備などで疲れていただろうに追い打ちをかけるような事件で大変だ。
「全くだ」
ヴォルフも同調する。これから馬車に揺られて帰るのかと思うと少し憂鬱だ。酔ったらどうしよう。
すぐに眠ってしまえばその心配もいらないのだけれどね。
「お前たちも昼前には出発するんだろう? もう少しゆっくりしていけばいいものを」
厚意はありがたいけれど、申請した休暇が終わる前に帰らないといけない。
「どうせまた王都にもくるだろう?」
ヴォルフが面倒くさそうに答える。
確かに雪が降り始める頃には王宮で規模の大きな夜会が開かれるので侯爵は出席するだろう。けれど、せっかくの気づかいにその答えでいいんだ。
「息子は可愛げがなくてつまらんな。
マリナさん、王都に行った時はよろしく。 一緒に食事でもしましょう、そこの息子は除いて」
にこやかに言う侯爵はわざとヴォルフをからかっている。
「是非」
マリナもにっこりと笑って返事をする。時間が取れるかはその時になってみないとわからない。
侯爵の話はおもしろいので是非とも時間を空けられることを望む。
また、の再開がとても楽しみだった。
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