157 / 368
セレスタ 弟さんの結婚式編
失せ物探し 1
しおりを挟む
ヴォルフを見つめながら魔力を動かす。
意識してこの魔法を人に掛けるのは初めてだった。
《よし》
見慣れた、最近は見ることが少なくなっていたこの姿。
黒犬姿のヴォルフが座っている。
「その姿にしてくれって、何か思いついたの?」
《ああ、この姿なら鼻が利くだろう? 何か気が付くんじゃないかと思ってな》
思い切りがいいと言っていいのか迷う。
本人が言い出したことなので気にしないことにしようと決めて話を続ける。
「なるほど。 わかりそう?」
《そうだな…》
鞄の前に立って鼻を動かす。
鞄に鼻先を突っ込むようなことをしなくてもわかるらしい。良かった。
空間に漂う香りを追うようにドアの前まで歩いて、マリナの側に戻ってくる。
《お前に絡んできたヤツと同じ匂いがするな》
「香水の香りだけじゃなくて?」
香水なら他の人と同じになることもある。確認すると香水だけじゃないと言う。
「っていうか、その人と話した時はその姿だったわけじゃないのに何でわかるの?」
純粋に疑問が湧く。
そんな変化があったなら話してくれると思うし、今気がついたってことなのかな。
《人間の姿の時は気にしなかったが、この姿になって思い返すと一人一人の違いがわかるな》
そんな話は初めて聞いた。
変化しているときに限ってその姿に合わせた能力が現れるというのは資料でも見たけれど、ヴォルフの話はそれともまた違う気がする。
興味はあるけれど、今はそれどころではないので思考を打ち切りヴォルフを元の姿に戻す。
「そのお酒を掛けてきたご令嬢だったのは間違いないのね?」
「ああ、確実だ」
どうやって侯爵たちに説明したものかと悩む。
マリナが考えているとヴォルフが疑問を投げる。
「しかし、何で盗みなんてしたんだろうな」
「それは…」
確かに。マリナと揉めたのが理由だったとしても、クリス様の荷物を盗む理由にはならない。
見方によっては幸せな花嫁を妬んで宝物を盗んだ、非情に痛々しい人間として衆目を集めることになる。
それは捨て身過ぎるし、効果としても微妙だ。マリナには痛手にはならない。
(もしかして…)
一つの仮説に辿り着く。丁度扉を叩く音が聞こえたのでドアを開ける。
「どうでしたか?」
アレクさんの問いに頷く。
「この部屋に入ったクリスさん以外の痕跡がありました」
当然使用人でもない第三者。
「それはもしかしてマリナさんに無礼を働いたとされるご令嬢かな?」
聞こえた問いにマリナとヴォルフは揃って侯爵の顔を見つめた。
その反応で十分だというように侯爵が頷き顎を撫でる。
「そのご令嬢を案内した者が聞いていてね。 ずいぶん君への恨みを語っていたらしい」
小声でも控えていた人には聞こえたそうだ。
「それだけでなく屋敷内をうろついていた所も目撃されている。
迷ったので庭園まで案内したそうだが、呼び止められたのがこの階に続く階段だそうだ」
「馬鹿ね。 疑えと言っているようなものじゃない、その子」
疑われてもしかたがないわ、とアデーレ様が笑う。
人の屋敷の中を勝手に歩き回っていたら怪しまれて当然だった。
「その話を聞いて探してみたいところがあります」
マリナの想像通りなら多分そこにあるはずだ。
「ほう、その令嬢が持っているわけではないと」
「ええ、彼女が持つにはリスクが高すぎる品物ですから」
多くの人の目に触れた装飾品を隠し持つなど不可能に近い。
まして彼女はまだ親の庇護下にいるので、使用人から親に報告されるだろう。
買い与えたことのない高価な装飾品がどこから現れたのか、品物を見ればわかる。
彼女の両親も結婚式に来ていたので気づかないわけがないだろう。
娘のしでかした暴挙に平謝りだった彼らを思えばあまり大事にはしたくない。
と、マリナは思うけれど侯爵がどう思うかはわからない。
何しろ息子たちの結婚式にけちを付けるような真似をし、なおかつ屋敷内を荒らし義娘を泣かせるという行いだ。
侯爵家の中のことなので、マリナに意見できるものでもない。
取りあえず話は現物を見つけてから。
「私に打撃を与えたいと思い首飾りを手にしたのなら、隠す場所は一つでしょう」
マリナが借りている部屋は王宮の自室と似たような魔法をかけてある。
彼女が入ることは不可能だ。マリナの部屋を知っていたとも思えないし。
とすればこの屋敷でマリナと関わりのある場所はあと一つだけ。
「私たちが乗って来た馬車です」
マリナの言葉に全員が驚きに目を瞠った。
意識してこの魔法を人に掛けるのは初めてだった。
《よし》
見慣れた、最近は見ることが少なくなっていたこの姿。
黒犬姿のヴォルフが座っている。
「その姿にしてくれって、何か思いついたの?」
《ああ、この姿なら鼻が利くだろう? 何か気が付くんじゃないかと思ってな》
思い切りがいいと言っていいのか迷う。
本人が言い出したことなので気にしないことにしようと決めて話を続ける。
「なるほど。 わかりそう?」
《そうだな…》
鞄の前に立って鼻を動かす。
鞄に鼻先を突っ込むようなことをしなくてもわかるらしい。良かった。
空間に漂う香りを追うようにドアの前まで歩いて、マリナの側に戻ってくる。
《お前に絡んできたヤツと同じ匂いがするな》
「香水の香りだけじゃなくて?」
香水なら他の人と同じになることもある。確認すると香水だけじゃないと言う。
「っていうか、その人と話した時はその姿だったわけじゃないのに何でわかるの?」
純粋に疑問が湧く。
そんな変化があったなら話してくれると思うし、今気がついたってことなのかな。
《人間の姿の時は気にしなかったが、この姿になって思い返すと一人一人の違いがわかるな》
そんな話は初めて聞いた。
変化しているときに限ってその姿に合わせた能力が現れるというのは資料でも見たけれど、ヴォルフの話はそれともまた違う気がする。
興味はあるけれど、今はそれどころではないので思考を打ち切りヴォルフを元の姿に戻す。
「そのお酒を掛けてきたご令嬢だったのは間違いないのね?」
「ああ、確実だ」
どうやって侯爵たちに説明したものかと悩む。
マリナが考えているとヴォルフが疑問を投げる。
「しかし、何で盗みなんてしたんだろうな」
「それは…」
確かに。マリナと揉めたのが理由だったとしても、クリス様の荷物を盗む理由にはならない。
見方によっては幸せな花嫁を妬んで宝物を盗んだ、非情に痛々しい人間として衆目を集めることになる。
それは捨て身過ぎるし、効果としても微妙だ。マリナには痛手にはならない。
(もしかして…)
一つの仮説に辿り着く。丁度扉を叩く音が聞こえたのでドアを開ける。
「どうでしたか?」
アレクさんの問いに頷く。
「この部屋に入ったクリスさん以外の痕跡がありました」
当然使用人でもない第三者。
「それはもしかしてマリナさんに無礼を働いたとされるご令嬢かな?」
聞こえた問いにマリナとヴォルフは揃って侯爵の顔を見つめた。
その反応で十分だというように侯爵が頷き顎を撫でる。
「そのご令嬢を案内した者が聞いていてね。 ずいぶん君への恨みを語っていたらしい」
小声でも控えていた人には聞こえたそうだ。
「それだけでなく屋敷内をうろついていた所も目撃されている。
迷ったので庭園まで案内したそうだが、呼び止められたのがこの階に続く階段だそうだ」
「馬鹿ね。 疑えと言っているようなものじゃない、その子」
疑われてもしかたがないわ、とアデーレ様が笑う。
人の屋敷の中を勝手に歩き回っていたら怪しまれて当然だった。
「その話を聞いて探してみたいところがあります」
マリナの想像通りなら多分そこにあるはずだ。
「ほう、その令嬢が持っているわけではないと」
「ええ、彼女が持つにはリスクが高すぎる品物ですから」
多くの人の目に触れた装飾品を隠し持つなど不可能に近い。
まして彼女はまだ親の庇護下にいるので、使用人から親に報告されるだろう。
買い与えたことのない高価な装飾品がどこから現れたのか、品物を見ればわかる。
彼女の両親も結婚式に来ていたので気づかないわけがないだろう。
娘のしでかした暴挙に平謝りだった彼らを思えばあまり大事にはしたくない。
と、マリナは思うけれど侯爵がどう思うかはわからない。
何しろ息子たちの結婚式にけちを付けるような真似をし、なおかつ屋敷内を荒らし義娘を泣かせるという行いだ。
侯爵家の中のことなので、マリナに意見できるものでもない。
取りあえず話は現物を見つけてから。
「私に打撃を与えたいと思い首飾りを手にしたのなら、隠す場所は一つでしょう」
マリナが借りている部屋は王宮の自室と似たような魔法をかけてある。
彼女が入ることは不可能だ。マリナの部屋を知っていたとも思えないし。
とすればこの屋敷でマリナと関わりのある場所はあと一つだけ。
「私たちが乗って来た馬車です」
マリナの言葉に全員が驚きに目を瞠った。
0
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる