双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 弟さんの結婚式編

失せ物探し 1

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 ヴォルフを見つめながら魔力を動かす。
 意識してこの魔法を人に掛けるのは初めてだった。
《よし》
 見慣れた、最近は見ることが少なくなっていたこの姿。
 黒犬姿のヴォルフが座っている。
「その姿にしてくれって、何か思いついたの?」
《ああ、この姿なら鼻が利くだろう? 何か気が付くんじゃないかと思ってな》
 思い切りがいいと言っていいのか迷う。
 本人が言い出したことなので気にしないことにしようと決めて話を続ける。
「なるほど。 わかりそう?」
《そうだな…》
 鞄の前に立って鼻を動かす。
 鞄に鼻先を突っ込むようなことをしなくてもわかるらしい。良かった。
 空間に漂う香りを追うようにドアの前まで歩いて、マリナの側に戻ってくる。
《お前に絡んできたヤツと同じ匂いがするな》
「香水の香りだけじゃなくて?」
 香水なら他の人と同じになることもある。確認すると香水だけじゃないと言う。
「っていうか、その人と話した時はその姿だったわけじゃないのに何でわかるの?」
 純粋に疑問が湧く。
 そんな変化があったなら話してくれると思うし、今気がついたってことなのかな。
《人間の姿の時は気にしなかったが、この姿になって思い返すと一人一人の違いがわかるな》
 そんな話は初めて聞いた。
 変化しているときに限ってその姿に合わせた能力が現れるというのは資料でも見たけれど、ヴォルフの話はそれともまた違う気がする。
 興味はあるけれど、今はそれどころではないので思考を打ち切りヴォルフを元の姿に戻す。
「そのお酒を掛けてきたご令嬢だったのは間違いないのね?」
「ああ、確実だ」
 どうやって侯爵たちに説明したものかと悩む。
 マリナが考えているとヴォルフが疑問を投げる。
「しかし、何で盗みなんてしたんだろうな」
「それは…」
 確かに。マリナと揉めたのが理由だったとしても、クリス様の荷物を盗む理由にはならない。
 見方によっては幸せな花嫁を妬んで宝物を盗んだ、非情に痛々しい人間として衆目を集めることになる。
 それは捨て身過ぎるし、効果としても微妙だ。マリナには痛手にはならない。
(もしかして…)
 一つの仮説に辿り着く。丁度扉を叩く音が聞こえたのでドアを開ける。
「どうでしたか?」
 アレクさんの問いに頷く。
「この部屋に入ったクリスさん以外の痕跡がありました」
 当然使用人でもない第三者。
「それはもしかしてマリナさんに無礼を働いたとされるご令嬢かな?」
 聞こえた問いにマリナとヴォルフは揃って侯爵の顔を見つめた。
 その反応で十分だというように侯爵が頷き顎を撫でる。
「そのご令嬢を案内した者が聞いていてね。 ずいぶん君への恨みを語っていたらしい」
 小声でも控えていた人には聞こえたそうだ。
「それだけでなく屋敷内をうろついていた所も目撃されている。
 迷ったので庭園まで案内したそうだが、呼び止められたのがこの階に続く階段だそうだ」
「馬鹿ね。 疑えと言っているようなものじゃない、その子」
 疑われてもしかたがないわ、とアデーレ様が笑う。
 人の屋敷の中を勝手に歩き回っていたら怪しまれて当然だった。
「その話を聞いて探してみたいところがあります」
 マリナの想像通りなら多分そこにあるはずだ。
「ほう、その令嬢が持っているわけではないと」
「ええ、彼女が持つにはリスクが高すぎる品物ですから」
 多くの人の目に触れた装飾品を隠し持つなど不可能に近い。
 まして彼女はまだ親の庇護下にいるので、使用人から親に報告されるだろう。
 買い与えたことのない高価な装飾品がどこから現れたのか、品物を見ればわかる。
 彼女の両親も結婚式に来ていたので気づかないわけがないだろう。
 娘のしでかした暴挙に平謝りだった彼らを思えばあまり大事にはしたくない。
 と、マリナは思うけれど侯爵がどう思うかはわからない。
 何しろ息子たちの結婚式にけちを付けるような真似をし、なおかつ屋敷内を荒らし義娘を泣かせるという行いだ。
 侯爵家の中のことなので、マリナに意見できるものでもない。
 取りあえず話は現物を見つけてから。
「私に打撃を与えたいと思い首飾りを手にしたのなら、隠す場所は一つでしょう」
 マリナが借りている部屋は王宮の自室と似たような魔法をかけてある。
 彼女が入ることは不可能だ。マリナの部屋を知っていたとも思えないし。
 とすればこの屋敷でマリナと関わりのある場所はあと一つだけ。
「私たちが乗って来た馬車です」
 マリナの言葉に全員が驚きに目を瞠った。
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