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セレスタ 弟さんの結婚式編
消えた首飾り
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披露宴がつつがなく終わってマリナはヴォルフの部屋でくつろいでいた。
アレクさんたちは明日の朝に伯爵家の領地に向けて出立する。
ヴォルフとマリナはそれを見送ってから王宮に戻ることになっていた。
「素敵な式だったわね」
思い出してうっとりする。
「そうだな、何事もなく終わって良かった」
途中にいらない騒動はあったものの、それ以外は滞りなく済んだ。
荷造りは済ませてあるので今夜は特にすることもない。
のんびりしていたところに女性の悲鳴が響き渡った。
突然の悲鳴にマリナとヴォルフは部屋を飛び出し廊下を見渡す。
一室だけ扉の開いた部屋がある。あの部屋はクリスさんが使っていた部屋のはずだけど…。
「クリスさん…? どうしました」
声を掛けても返事がないのでマリナが部屋を確認する。
廊下の向こうからアレクさんも顔を出したので二人で部屋を覗き込んだ。
「クリス…?」
部屋に入るとクリスさんが床に座り込んで鞄に手を差し込んでいる。
何かを探しているような素振りでアレクさんが掛けた声も聞こえてないみたい。
アレクさんがもう一度声を掛けるとクリスさんが弾かれたように顔を上げた。
「アレク…」
見る見る間にクリスさんの目に涙が溢れ、頬から伝う。
「ど、どうしたんだ? クリス」
慌てるアレクさんの胸でクリスさんが事情を話し出す。
「今、出発の為の荷造りをしていたの、そうしたら…。
無いの! 首飾りが!!」
クリスさんの悲鳴にアレクさんも叫び声を上げる。
「なんだって!?」
「披露宴が終わって外したばかりなのよ? この部屋から外には出してないはずなのに、どうしても見つからないの!!」
代々伯爵家に伝わっている大切な物だと言っていたあの首飾りのことか、ヴォルフと目を見合わせる。
気づくと入口には侯爵とアデーレ様も集まっていた。
「どうしたんだね、皆集まって」
「すごい声がしたけど、何があったの?」
泣きじゃくるクリスさんと慌てるアレクさんを見て、困惑した視線がマリナとヴォルフにそれぞれ向く。
「部屋から紛失した物があるそうで」
原因がはっきりしないので紛失という言葉を使う。
なくなった物を聞いて侯爵とアデーレ様の目がすっと細まる。内容が内容だけに純粋な紛失とは思わなかったようだ。
「クリス、無くなった物はそれだけか? 他の物は」
「他の物は全部あるの、ドレスも小物も全部! 一緒にしまった首飾りだけがないの!」
クリスさんの言葉にその場にいた人間が目配せし合う。
盗難、全員がその言葉を頭に思い浮かべた。
「首飾りだけですか」
あんな目立つ物だけ盗む?
侯爵は腕を組んで唸っている。アデーレ様も指を唇に当てて何か考えていた。
「どうしたらいいの? あれがないと…!」
同様のあまり切れ切れの言葉しか出てこないクリスさんをアレクさんが落ち着かせようと背を撫でている。
伯爵家でも使う予定だった首飾りが無くなるなんて…。
それぞれに思いを巡らせているとヴォルフがマリナに問いかける。
「マリナ、レグルスでやったみたいに魔道具の痕跡を辿れないのか?」
マリナに視線が集まる。それはマリナも考えていたけれど…。
「あれは特別に魔力を残す仕掛けがしてある魔道具だったから、今回とは違うわ」
特殊な魔力という点ではクリスさんの首飾りも古風な魔法が掛けられた特徴的な物ではある。
ただ、それほど強い魔法でもないので辿るのは難しそうだと感じていた。
一応一言断ってから首飾りが入っていたという鞄の前に膝を付く。
微かな魔力だったけれど確かに残滓を感じる。
しかし追いかけるには微弱すぎて、どこに動かされたのかはマリナにはわからなかった。
「みんな、悪いが少し部屋から出ていてくれないか。 あまり集まっていると集中しづらい。
終わったら呼ぶから、少しの間外で待っててくれ」
ちらりとヴォルフを見ると何か思いついたような目でマリナを見ている。
意図がわからないけれど、言えないことなのかと思って何も言わずにみんなが出て行くのを待つ。
侯爵はその間に家人に人の出入りなどを確認すると言って階下に降りて行った。
扉が完全に閉じられたのを確認してヴォルフがマリナの耳に口を寄せる。
「…!? 本気で言ってるの?」
ヴォルフの顔をまじまじと見つめる。
耳を疑ったけれどヴォルフの目は真剣だった。
アレクさんたちは明日の朝に伯爵家の領地に向けて出立する。
ヴォルフとマリナはそれを見送ってから王宮に戻ることになっていた。
「素敵な式だったわね」
思い出してうっとりする。
「そうだな、何事もなく終わって良かった」
途中にいらない騒動はあったものの、それ以外は滞りなく済んだ。
荷造りは済ませてあるので今夜は特にすることもない。
のんびりしていたところに女性の悲鳴が響き渡った。
突然の悲鳴にマリナとヴォルフは部屋を飛び出し廊下を見渡す。
一室だけ扉の開いた部屋がある。あの部屋はクリスさんが使っていた部屋のはずだけど…。
「クリスさん…? どうしました」
声を掛けても返事がないのでマリナが部屋を確認する。
廊下の向こうからアレクさんも顔を出したので二人で部屋を覗き込んだ。
「クリス…?」
部屋に入るとクリスさんが床に座り込んで鞄に手を差し込んでいる。
何かを探しているような素振りでアレクさんが掛けた声も聞こえてないみたい。
アレクさんがもう一度声を掛けるとクリスさんが弾かれたように顔を上げた。
「アレク…」
見る見る間にクリスさんの目に涙が溢れ、頬から伝う。
「ど、どうしたんだ? クリス」
慌てるアレクさんの胸でクリスさんが事情を話し出す。
「今、出発の為の荷造りをしていたの、そうしたら…。
無いの! 首飾りが!!」
クリスさんの悲鳴にアレクさんも叫び声を上げる。
「なんだって!?」
「披露宴が終わって外したばかりなのよ? この部屋から外には出してないはずなのに、どうしても見つからないの!!」
代々伯爵家に伝わっている大切な物だと言っていたあの首飾りのことか、ヴォルフと目を見合わせる。
気づくと入口には侯爵とアデーレ様も集まっていた。
「どうしたんだね、皆集まって」
「すごい声がしたけど、何があったの?」
泣きじゃくるクリスさんと慌てるアレクさんを見て、困惑した視線がマリナとヴォルフにそれぞれ向く。
「部屋から紛失した物があるそうで」
原因がはっきりしないので紛失という言葉を使う。
なくなった物を聞いて侯爵とアデーレ様の目がすっと細まる。内容が内容だけに純粋な紛失とは思わなかったようだ。
「クリス、無くなった物はそれだけか? 他の物は」
「他の物は全部あるの、ドレスも小物も全部! 一緒にしまった首飾りだけがないの!」
クリスさんの言葉にその場にいた人間が目配せし合う。
盗難、全員がその言葉を頭に思い浮かべた。
「首飾りだけですか」
あんな目立つ物だけ盗む?
侯爵は腕を組んで唸っている。アデーレ様も指を唇に当てて何か考えていた。
「どうしたらいいの? あれがないと…!」
同様のあまり切れ切れの言葉しか出てこないクリスさんをアレクさんが落ち着かせようと背を撫でている。
伯爵家でも使う予定だった首飾りが無くなるなんて…。
それぞれに思いを巡らせているとヴォルフがマリナに問いかける。
「マリナ、レグルスでやったみたいに魔道具の痕跡を辿れないのか?」
マリナに視線が集まる。それはマリナも考えていたけれど…。
「あれは特別に魔力を残す仕掛けがしてある魔道具だったから、今回とは違うわ」
特殊な魔力という点ではクリスさんの首飾りも古風な魔法が掛けられた特徴的な物ではある。
ただ、それほど強い魔法でもないので辿るのは難しそうだと感じていた。
一応一言断ってから首飾りが入っていたという鞄の前に膝を付く。
微かな魔力だったけれど確かに残滓を感じる。
しかし追いかけるには微弱すぎて、どこに動かされたのかはマリナにはわからなかった。
「みんな、悪いが少し部屋から出ていてくれないか。 あまり集まっていると集中しづらい。
終わったら呼ぶから、少しの間外で待っててくれ」
ちらりとヴォルフを見ると何か思いついたような目でマリナを見ている。
意図がわからないけれど、言えないことなのかと思って何も言わずにみんなが出て行くのを待つ。
侯爵はその間に家人に人の出入りなどを確認すると言って階下に降りて行った。
扉が完全に閉じられたのを確認してヴォルフがマリナの耳に口を寄せる。
「…!? 本気で言ってるの?」
ヴォルフの顔をまじまじと見つめる。
耳を疑ったけれどヴォルフの目は真剣だった。
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